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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第二章 X

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24 赤い衣と緑の衣

 入口のある階から更に降りた所にある第二給湯室。そこに普段なら絶対にいるはずのない者の顔を見てもさして驚きはしなかった、というのはさっき聞いていたからだ。

 その部屋に入ってまず俺は切り出した。

「何か手掛かりは? 大樹だいきくんは何かヒントを残さなかったのか?」

「それが何も」そう言ったのは、実千夏みちかちゃんを護衛していた同胞、犬神いぬがみ美海みうだった。

犬神いぬがみ、ベルトは」

「さっきも彦見沢ひこみざわさんに言ったの、ベルトを置いてくる暇も持たせてもらえなかった。大樹だいきくんが私達をここへ送ってくれたけど、そのせいで……って言うと悪いけど……。多分向こうはもう戦場になってる。大樹だいきくんがゲートを使ってくれれば――」

 俺は、そうなってないってことは――と考えたことを口にした。「それを待っちゃいられないな、その場所から大樹だいきくんが消えたら、こんなことをしでかした奴がどんな行動に出るか分からない。大樹だいきくんはもしかしたら犯人の注意を引き付けて捕まえるつもりかもしれない」

 そこで彦見沢も考えを述べた。「ここに来ないのなら……、やばいぞ、協力を要請するって考えすら頭にないかもしれない。というか、ゲートをどこに開けば危なくないかとか、この本部のことも配慮してしまってる可能性も――」

 俺はうなずいた。

 そうだ、そもそも考えが及んでいない可能性があるし、子供なりの考えで配慮して自分で戦ってしまっているかもしれない。あの子はまだ高校一年生だ。一人で捕まえられると思ってしまっているか、もしくは、混乱しているか、そのどちらもか……。

 ほかにも、俺達が駆け付けたら犯人が今度は俺達を人質にするかもしれないからそれをけてる、なんてこともあるかもしれない。

 俺はとにかく鳥居とりいに頼もうと思った。発信機の追跡を、だ。「鳥居とりいに話してみる」

「何を」

 ソファーにへたり込んだ犬神いぬがみがそう言うので、俺はそちらに顔を向けて答えた。「大樹だいきくんの発信機の追跡だ」

 鳥居とりいに電話で頼んだあとで、鳥居とりいから「分かった、やってみる」と。

 そしてその後、その報告が入る。「発信機は家にあるみたいだぞ、なんでだ、置いていった……? そうか、脅されたせいか」

「ああ、くそっ、俺達の調査が入って犯人が怒り狂うのを嫌ったんだな。人質はそいつの手のひらの上……仕方ない判断ってことか」

 俺は推理を全員で共有しておくためにその場に聞こえるように言った。実千夏みちかちゃんには嫌な思いをさせてしまって悪いが……。

 電話の向こうで、鳥居とりいも同じように落胆している。「くそっ……」

 嫌になる。だが冷静でいなければ、と思いながら言う。「切るぞ、また頼むかもしれないから迅速に動けるようにしといてくれ」

「了解」

 その返事を聞いてすぐ電話を切った。

 発信機で駄目ならと、スマホの位置を辿るべく調査担当を探し、この本部の事件資料室に残っていた風浦かざうら敏明としあきという同僚を見付け、お願いした。

「分かった」と言った風浦かざうらが移動する。

 俺もついて行く。その際に事情を詳しく話した。

 調査用具室で専用のGPS機能を使えるパソコンを風浦かざうらが立ち上げ、それで調べる。約一分後、風浦かざうらが俺に報告した。「調べられる機種でよかったが、家だ、家にスマホを置いたまま。脅しのせいだ」

「くそっ。手間を掛けさせて悪かった」

「いや、構わないけど。あ、おい、檀野だんの

 俺は走りながら。「今は急いでる、何か手伝えるならお前もこっちに来てくれ」

「ああ、分かった」

 過去の事件を調べていたらしいが、そんな風浦かざうらがこちらを今は優先してくれたらしく、俺について来た。

 俺はすぐそこの第二給湯室へ走って戻りながら、電話で右柳うりゅうにも――頼もうとしたが、説明から入る必要があった。右柳うりゅうに電話で事情を話しながら、風浦かざうらと共に第二給湯室に入った。

 事情を話し終え、頼む段階に。

大樹だいきくんの部屋に何か手掛かりがないか確かめてくれ、家には一度帰ってるみたいだから何かあるかもしれない」

 右柳うりゅうの電話口での言葉はこうだった。「奥さんの目を掻い潜った上でか」

「ああ。何とかやるしかない」俺はそう言わざるを得なかった。ほかに選択肢が? きっとあるはずがない。

 数分後、右柳うりゅうが俺に報告ついでに愚痴った。「ゴミ箱から脅迫文の書かれた紙を発見した、なんだよこれ、いつの間に」

「それにはなんて書いてあるんだ」

洲黒すぐろ鬼千堂きせんどうデパートに来いって書いてある」

「まだ動くなよ、佐倉守さくらもり家にも協力してもらって迎えに行く、全員で探すぞ」

「分かった」右柳うりゅうからそう言われてから通話を切った。

 今知った『洲黒すぐろ鬼千堂きせんどうデパート』という場所は俺も知っていた。確か昔何度か事件があった。佐倉守さくらもり家の希美子きみこさんに隈射目くまいめが協力してもらって未解決事件の凶悪犯を逮捕できた場所のはず。それは確かな記憶だった。「希美子きみこさんに協力を仰ごう」

 そして連絡。

 希美子きみこさんと奏多かなたくんと舞佳まいかちゃんが来てくれて、それからまずは右柳うりゅうと合流した。これは奏多かなたくんのゲートを通ってのことだった。

 洲黒すぐろ鬼千堂きせんどうデパートへは希美子きみこさんの結んだタオルによる円形ゲートで向かった――俺と右柳うりゅう風浦かざうら犬神いぬがみ希美子きみこさんと奏多かなたくんと舞佳まいかちゃん、この計七人で――。

 だが、そこには大樹だいきくんの衣服や靴袋、財布等があるだけで、本人はいない。

 これでは手詰まりだ。くそっ! 何か方法があるのか? 俺は考えたが、答えが出そうにないという暗い感覚で胸が満たされそうになっていた。

 そんな時だ、俺のスマホが鳴った。見やる。藤宮ふじみや家からの着信だった。

 あっちでも何かあったのか? 嫌な想像をしてしまいながらその電話に出た。

 まず、相手の勢いに圧倒された。「あの、うちの大樹だいきが、檀野だんのさんとかに連絡してほしいことがあるって言ってて。何か苦しそうな声をあげてたんです。でも、さっき返事をしなくなって。大樹だいき、どうなってるんですか。また何かに巻き込まれたんじゃ!」

 それが大樹だいきくんの姉の声だとすぐに分かった。聞いたことがあったし、この話し方だ、間違いない。

 それ以外に俺がこの時思ったのは、混乱させないように伝えるにはどう話すか、ということだった。

「落ち着いて聴いて。実は――」

 事情を話そうとして、俺はハッと気付いた、今のが手掛かりなんだと。

「え、ええと、理美りみちゃん、大樹だいきくんが俺達にって、それ電話で言われたんだろ、誰の電話で受けた? 履歴に番号は残ってないかッ?」

「い、家の固定電話です、けど――」

「固定電話か……! できないタイプなら無理言って済まんが、一旦切るからその番号を確認してくれ。確認できたら――メモできたら俺にまた電話してほしい」

「わ、分かりましたッ」

 そこで一旦通話を切り、願うように強く呼吸した。

 俺も申し訳ないとは思うが、こんなことを頼まれもして、さぞ心細いことだろう、不安も感じているだろうし焦ってもいるはず。なのに責任を一部背負わせるような形になってしまった。遣る瀬ない。

 前の着信から約三十秒くらいで、また着信。大樹だいきくんの家の番号だ。

「もしもしっ」

「あの! 履歴ありました! 今から言います!」

「よし――!」

 俺はこの時教えられた番号をメモし、その番号が使われている携帯電話の位置特定を鳥居とりいに頼んだ。

 約一分後、鳥居とりいが本部から電話口で言った。「場所が分かった! 旧大浜岸(おおはまぎし)中古ショップセンター!」

 早速そこへ行こうとしたが、ここにいる佐倉守さくらもり家の三人ともがそこに行ったことがないようで、直接ゲートを繋ぐことはできないようだった。それはしょうがないと思いながら、その辺りの地元の警察に協力を電話で仰いだ。

 そのあとで希美子きみこさんが言った。「近くの双子川ふたごがわ駅には行ったことがあります、もちろんゲートで」

「お願いします」俺は彼女に頼んだ。

 希美子きみこさんが繋いだタオルゲートの先へ向かう。

 タオルゲートの先は駅構内の関係者用通路だった。

 この通路は隈射目くまいめと警察しかほぼ使わない、駅員が使うなんてもってのほか、そういう意味での関係者用通路。佐倉守さくらもり家の者に協力してもらう時にも使う秘密の場所。まあ、協力してもらうこと自体はそんなにないが。

 そんな通路から駅構内の質素な通路に出て駅から南口に出ると、駆け付けた数台の覆面パトカーに分かれて乗り、現場までを急いだ。

 ――到着後、同行した警察官と共に、手分けして探し始めた。

 もし動かない大樹だいきくんを、ゲートを作れない者が見付けたら、見付けた者はゲートを作れる者を呼ぶ必要がある。が、奏多かなたくん、舞佳まいかちゃん、希美子きみこさんのうちの誰かが発見者なら、もう発見者だけで本部の治療用の階層に送ればいい。それさえできればあとはうちの医療担当の腕次第。



 大樹だいきくんの部屋へ消しゴムのゲートを最初に繋げた日、いい弟分ができたな、と思った。子分というか、友達として。それに人間的に好きだったし、いい奴だと思ってた。なのにまさか、俺より先に。そんなのは嫌だぞ、ふざけんな、くそっ――。

 心の中で怒りながら走った。

 一階は彦見沢さんと警察が探してる。二階は檀野だんのさんと警察。

 風浦かざうらさんは、エスカレーターを駆け上がりながら、俺を含む残り五人に向けて言った。

「三階は俺と希美子きみこさんで探す。四階は奏多かなたくんと犬神いぬがみ、五階は舞佳まいかちゃんと右柳うりゅうで探せ」もしもの場合のバランスを考えてのことだろう。

「了解!」

 探し始めて一分ちょっとで四階奥の床に横たわる物体が見えた。最初は赤いシートの上に何かがあるように見えたが、それに向かって走りながら気付く。

「おいまさか嘘だろ」

 こんなに焦ったのは初めてだった。こんなに怒りを覚えたのも。こんなに……、こんなに目の前が揺れるのも。

「おい! 大樹だいきくん……、おら大樹だいき!」

 返事は、ない。くそっ、くそっ……! 涙を拭ったあとは、すぐにその場にゲートを作った。




 ……閉ざされた所に僕はいる、そんな気がした。

 体は重くて動かない。それに何だか寒かった。

 そうだ、寒かった、でも今は違う。熱を感じる。僕に入り込むように僕を温めた熱。今はそれが僕の熱を作っている、なぜだかそんな感覚があった。そしてその熱がじんわりと全身に広がっているような気がした。

 でもまた、何も感じられなくなっていく。

 目蓋まぶたを開けてみたかった。でも重過ぎて、できない。

 周りにある物を見てみたかったが、意識は、すぐに遠のいた……。

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