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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第二章 X

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23-2

 エスカレーターを下り切ると、人影探して見回し、見付けてすぐに全力で走った。距離が縮まる。段々と。

 男は、三階中央にある広い空間の、向かって奥の角の所で振り返った。その時見えた、彼の首から上を覆う、鬼のドクロのようなおどろおどろしいマスクが。

 この何もない広間にちょうど入ってきた僕に手を向け、彼は笑った。そんな気がしたのは、彼のマスクの口や目の部分に穴があり、明るさも十分だったからだろう。



 最悪な日だ。ここまで予定通りに行かなかった日は、今までなかった。

 だが、ここだ。ここでなら。

 三階中央の区画の周囲にもティッシュ箱を仕込んでいる。ほかの場所にも仕込んではいるが、戦場がここなら――この階のここまで広い空間なら――どこからでも飛ばせる。

 俺はそのことを意識すると、自然と笑みを浮かべていたようだ――。



 その瞬間、僕も捉えていた。撃とうとすれば撃てた。だが嫌な予感が……。相手はなぜ振り返ったのか、なぜ笑っているように見えたのか。

 ぞくりとしたその瞬間、彼の目の前に、一枚の白い盾が現れた。巨大化したティッシュ。その盾が、彼のすぐ前に浮き、彼の首元から下を守る――。

 嫌な予感の理由はそれだけじゃないはず。そう思えたのは、今のが防御主体の行動にしか見えなかったからだ。

 一瞬だけ辺りを見て、笑みの意味を理解した。浮いていた。奴の白い武器が。

 なんて数だ、対処し切れない!

 どこからでも狙われているように見えるので、全方位に盾を作らなければならない。今攻撃しても、敵の盾を掻い潜らなければならないし。

 間に合え間に合え間に合え――!

 僕は四つの円盤をそれらに向け、それを盾とした。

 くそ、もう無理だ、これで限界――!

 一応、盾を張ること自体は間に合った。だがギリギリ。刃達は猛スピードで黒い盾に突き刺さる。

 刺さっただけのものもあるが、そのあと幾つかは盾の隙間から僕を容赦なく切り付けようとした。

 そんなとんでもない物を僕はけようとした。盾をすり抜けてきた刃のうち幾つかをけることは偶然できたが、そんな超人がやるような回避を成功し続けられる訳もなく、僕は切り刻まれた。左肩、右脇腹、左すね、右足の甲、右腕。

 深い切り傷だ。指や腕が切り離されてしまった訳ではないが、それでも、出血は大量で、とんでもない痛み。痛過ぎて悲鳴も上げられない。

 そんな状態になり集中を欠いてしまった僕は、盾を普通の芯に戻してしまった。

 直後感じる。全身から熱を失うような感覚。

 その感覚の中で足のバランスも失い、ついには……倒れてしまった。

 男が言う。「ふ、はははっ。どうだ、俺の勝ちだ」そして彼は、ふっ、と鼻で笑った。「どうした、ざまあないじゃないか。俺を脅したりなんかするからだぞ、大樹だいき少年」

 そんな忠告の最中、男の方から、聞き逃してしまうくらい小さな音がした。ファサッという音。多分、ティッシュが舞い落ちた音。もしかしたら彼自身の前にあった盾にサクラを込めるのを彼がやめたのかもしれない。

 そう思うのと同時に、奴に、これ以上攻撃したくなるような刺激を与えてはいけない、そうも思った。

 だが何か策がなければ、ここで終わる。人生が終わる。

 僕は地面に左頬をくっつけた状態でうつ伏せになっていた。

 彼を視界に入れたかったが、そうしたら彼が警戒するかもしれない。どうする、どうすれば?

 少しでも動けばまた切り刻まれるかもしれない。油断しているから彼は今手を出していないんだ、きっとそうだ。

 動けば殺される? こっちは少しずつしか多分動けない、それなのに。

 ここで死ぬのか。終わりなのか。こいつをどうにもできずに、これで……? 嫌だ、そんなのは。

 じゃあどうすれば?

 見えない位置にサクラを込めるのはとんでもなく難しいことだった。だからどうしても男を視界に入れたかったが、それができない。だが敵のいる方向が分かっていて、操作対象の位置を理解していれば、もしかしたら――。

 声がした方向は、大体分かっている――。

 この状態のまま油断させておきたいが、そうして絶対に当たるようにするには、操作物が大きくなければ……。

 数秒でそれだけを思って、僕は力を振り絞った。「ふ……」言葉にしようとする、奴に聞こえないほどの声で。

 右手で握り締めたシャー芯のケースにサクラを込めつつ、全身の痛みに抗いながら――出血のせいか迫る眠気に抗いながら――奴に届かないくらいの声で言い放った。「吹っ飛べ――ッ」

 僕と男の間に芯を増加能力で出現させるイメージでサクラを込める、それを見ずにやった。そして多分現れたであろう芯を、一瞬で円盤状にするべくサクラを込める。地面に垂直に立った形で浮遊しているであろう――いつもは盾に使う――その芯を、今だけは、声のする男の方に向けて、衝撃に耐えられるように少しだけ伸ばしながら、超高速で動かす。全力でサクラをその芯にただただ込めた、見ずに『そう』なると信じて。

 これは最後の賭けだった。こんな状態でも一本ならできる、きっとできる、もうそれを信じるほかなかった。

 芯はいつもの三倍くらいの厚みの極太の盾のまま、とんでもない速さで前進したはず・・。それも男に向かって。

 そして男は、もしけられなければ、車でねられたように、押し飛ばされた――はず・・

 ガッ、ドサッ、という音がした。だが僕には見えてはいない。

 ……多分、撥ね飛ばすための芯ももう元の大きさに戻っている。

 物音がしなくなった。なんでだ。倒せたのか? それとも違うのか? 逃げたのか? もう分からなくなってきた。

 逃げる足音なんかも、もしかしたら僕にはもう聞こえていないだけなのかも。

 ……いや、そんな訳ではないみたいだ。雨の音は聞こえる。でも攻撃されない。やっぱり倒せたんじゃ――。

 助かりたいからというだけじゃなく、あいつの生死を見極めるために、まだ諦めちゃ駄目だと思った。

 それにどうせ死ぬなら、あいつが犯人だってことを誰かに言うんだ、それと、そのためには、この場所のことも……! 実千夏みちかも護衛女性も、ここがどこか分かってないかもしれない、だから……!

 僕は芯を増加能力で目の前に出し、円盤状にして若干硬化させ、床に伏せた。

 その円盤に乗るべく、僕は全力で這った、速度は出なかったが。

「ぐうッ、ううあ、ああ――ッ」体を引きずる度に、怪我した箇所全てが痛む。「ぐ、あああ――ッ」

 そして首の向きを修正して、ちらりと奥を見やる。その時、視線の先に、横たわって動かない男を見付けた。

 そいつが犯人。多分。そして単独。

 これはかなりの確率で当たっていると思う。あのファサッという音が盾化したティッシュの舞い落ちた音だという考えも、きっと当たっていたんだ、だから最後の賭けが利いた。

 よかった。やったぞ。やっつけたんだ。

 はは……。

 気が抜けて、眠気に負けそうになる。

 駄目だ駄目だ、寝るな、僕はまだ生きてないと。それに油断できない。どうにかして誰かに伝えるんだ、あいつが目を覚ましてしまう前に! あいつは倒れてるだけ、気を失ってるだけかもしれないんだから!

 僕は必死に念じ続けた。

 さきほど眠気に負けそうになった時、サクラを込めるのが弱くなった。が、その時間が少しだけだったからか、円盤が少々縮小するだけに留まった。その円盤をまた少し広くしてそれに完全に乗った状態になると、それを浮遊させ、それによる移動でまずは男のそばに向かった。

 男のポケットを探っても、スマホの一つもありそうにないと分かるだけだった。僕に命じるために、こいつもスマホを持っていたはずだが、それはどこかに隠されてしまったあとか……?

 そう思ってからは四階に浮遊移動で向かった、エスカレーターは狭いからと、階段上を通って。

 四階にあの与えられたスマホを置いてそのままにしていたはず。確か、正面側から見て、四階左の奥だったっけ。

 眠気に抗いながら、自分が乗ったままの円盤の浮遊でその辺りに到着した。

 あれ? ない、ない……!

 焦りが募る。誰にも伝えられないのか? そんな不安が心に満ちようとする。

 だが諦めない。円盤に乗ったまま辺りを捜索――し始めて数秒で、柱の陰に発見した。ほっとする。本当に泣けてくるくらいに。

 その拍子にサクラを込める気持ちが薄れ、円盤が元の芯の大きさに縮んで落下し始めた。四十センチから五十センチくらいの高さから、僕は床にドスンと落ちた。

 その際、傷付いた腕や足で、とっさに衝撃を和らげようとしてしまう。当然痛みを感じる。着地がうまくいく訳もなく、あごや膝を打ったりしながら、僕は濁った悲鳴を上げた。

 そして見付けたスマホを、力を振り絞って手に取り、指を這わせた。

 必死に電話番号の入力画面にする。

 そこで気付いた。くそっ、よく話してた檀野だんのさんの番号だってそこまで覚えてない。他の隈射目くまいめの人の番号なんて記憶にすらほぼない!

 くそっ、どうする! 他に方法は! 家に掛けるしかない? そんな嘘だろ――。

 仕方ない。それで誰かが出た時、それが母でもちゃんと説明して伝えるしか――その場合時間が掛からないことを願うしかない――。

 家の番号を、最後の力を振り絞って押していく。押す指が震える。間違えるな。最後までちゃんと――。

 そんな感じで押し終わる。番号に間違いはないはず。

 あとは、コールが終わったあとで、誰が出るか、問題はそこ。誰も家にいない場合も考えられるが、その可能性だけは引きたくない……。

 ……数秒後、「もしもし」と、応じる声があった。よかった。

 姉の声だった。

「お姉ちゃん……、檀野だんのさんに……連絡……し……」ほっとする暇などなく声にした。

「ん? え? 何ですか?」

 聞こえてないのか? 僕の声が小さい? 頼む、伝わってくれ、頼む。その一心で言葉にする。「僕の部屋……スマホで、だ……檀野だんのさん……か、右柳うりゅうさん、に……」

「え、誰? 大樹だいき? 大樹だいきなの?」



 口調から私はそう思った。私に掛けるような人で、檀野だんのさんとかを知っていて、自分を僕と言うのは、私が知る中では大樹だいきくらい……。まあ、多分だけど。



「れ、連絡、を……」

 とんでもない心細さの中で視界が歪んだのを、涙のせいだと気付くのに、時間は掛からなかった。

 腕や足、肩や腹、色んな所に妙にぬめった感触と痛みがあった。気も失いそうで、それ以上声にならなかった。もっと的確に伝えたかった。でも。僕の意識は、そこで途絶えた……。

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