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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第二章 X

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23 ビルの外は雨 ビルの中は血

 どうやって二人を縛るロープを切ったのかというと、それはこういうことだった。

 まず四本の芯で、送り先を目の前に設定した小さなゲートを作る。送り先にもゲートが開くため、ゲートは一対できあがる。

 そのそれぞれに、実千夏みちかと護衛女性を縛るロープを食い込ませる。具体的には、芯によるゲートの方をテレキネシスで動かして食い込ませるという手法を取った。

 そのままゲート化を解く。

 ゲートを通った部分と通っていない部分の境で物は綺麗に切断されてしまう、その性質は確認済み、それにてロープを切断したのだった。


 そしてそれによって自由になった二人を別の場所に運ぶべく、一旦ゲート化を解いた四本の芯を枠ごとドア枠くらいの大きさにまで巨大化させ再びゲート化。

 それの先はマギウト練習場。今は多分誰もいない、いないでくれ、誰もゲート化の巻き添えを食らわないでくれ――、そう思いながらの実行だった。

 その『避難させる行動』に成功したのだ。やった、やったぞ! ゲートの先に二人が行ってすぐ――喜んでも油断しないように心掛けながら、今度は避難用の門のゲート化を解いた。

 そして振り返る。辺りに集中する。今は一対一、多分。

 できればマギウトでけりを付けたい。奴が誰かにやらせたりせず自分で実千夏みちかの護衛を捕らえた可能性がある、もしそうなら格闘術も相当のものかもしれない、違うかもしれないが、可能性は全て考えたい。

 格闘の面で僕は劣っていると考えた方がいい、だからこそできればマギウトで――。



 私は実千夏みちかちゃんを連れて下階の第二給湯室に向かった。

 その階は調査専用の階。そこで報告できるのが一番いいからそこの給湯室にまず向かったのだった。

 入って小さな椅子やらキッチンに目を向ける。

 椅子に座ってテーブルに肘を乗せ逆の手でコーヒーをゆったりと飲んでいる同僚の男を発見。彼の名は彦見沢ひこみざわ伸太しんた

「何だ何だ」彼は私達を見るなり不思議そうに。

「彦見沢さん、大樹だいきくんが、一人で戦おうとしてる……! 私達は……」

「何があったんです」彦見沢ひこみざわさんが問う。

 私は焦りながらも、さっき言いたかったことを少しだけ引っ込めて答えた。「……多分、まだ知られてなかったマギウト使い。別のマギウト使いの存在をよく思ってなかったその男が、調査機関とつるんでると思って大樹だいきくんを殺そうとしてる! きっと何か後ろめたいことが――」

「場所は!」

「それが」さっき言いたかったことを口にする。「分かりません……、発信機付きのベルトを置いてくる余裕もなかったんです。この子、実千夏みちかちゃんを保護しておくことを優先するしかなくて――」

「そ、そんな、じゃあ……」

「そうなんです。ど、どこか……どこか全く分からないんです」




 敵の声がスマホから聞こえた。

「なんだ今のは、俺の知らない力だ。全く恐ろしいな、正直羨ましいよ、そこまでこの力を知って、しかも使いこなせるなんてな」

 彼は、まだ人質がいるなら僕を脅せばいい。が、脅してくる気配がない。もしかしたら相手にはもう僕対策の人質がいないのかも。

 そして決定的な事実――声の男はゲート化を知らないらしい――。油断を誘っているのでなければそういうことになる。

 男はほかにもスマホ越しに言う。「ますます怖い存在だよ、お前は」

 それを耳にして僕は鼻で笑った。本当かよ、余裕のありそうな声だけどなぁオイ、そう思ったのだ。

 四本操ってゲート化までさせるのはかなり疲れる。僕の様子を見ていたのなら、そのことに気付かれているかもしれないので、『戦いの最中ではさっき(・・・)()よう(・・)()力を使ってこない』と彼は読んでいるのかもしれない。

 このゲート化で誰かに助けを求めてみようかと一度思いはしたが、それは既に選択肢には入れていなかった。なぜかというと、僕がゲートを開けるような『鮮明なイメージを持っている場所』はそんなになく、それが今はマギウト練習場くらいだったからだ。つまり、またそこに繋げるとなると避難させた意味が薄れるし、そもそもゲート化の被害が怖かった。大怪我をさせ兼ねない、さっきのロープみたいにカットしてしまうかもしれないから――人体を――。

 それに僕が誰かに助けを求めたりすると、それがバレた時に、犯人の男が逃げる可能性がある。それはけたかった。僕には、『この場所で戦うという姿勢を見せて男をここに引き付けておきたい』という想いもあった。

 そして男を疲れさせて、しかも逃がさないようにできれば、それからなら――見張りながらなら――助けを求めても、まあ、いいのかもしれない……。

 色々と考えてしまう。直感的、瞬間的なものなので短い思考ではあるが、油断に繋がるならどうにかやめておきたい。

 雑念を振り払いながら、この四階を駆け回る。どの柱の陰にこの声の男がいるのか、それとももっと別の大きな壁の裏にでも? と、探って回る――。

 隠れてこちらも柱の陰から見やったり、また走ったり。その繰り返しの中で、柱に背を預けたある時、またスマホから声が。

「それにしても操作対象を持ってきてたなんてな。余計な物は置いてくるように言ったろ、恋人の命が惜しくなかったのか? 酷い奴だ」

 実千夏みちかがそれで僕を嫌っても構わない、実千夏みちかが生きてこんな危険にさらされなくなるなら。その思いで言い返す。

「確かに最初は念のためでしかなくて、怖かった、僕のせいで酷いことになるかもってな。でも、途中で、頑張ればこんな状況にできるかもって思い付いた、だからああしたんだ、そのためには持ってなきゃいけなかった。そもそも酷いのはお前だ。さっきもあんな(・・・)状況・・で僕らを攻撃したしな。お前に言われる筋合いなんかないんだよ元々」感極まった。本当に最低だよと。こんな奴に負けてたまるかと。殺されてたまるかと。

 少しして彼の吐息が聞こえた。ふう、という音。そのあとで声。「揺さぶられてれば可愛げのあるものを」

「お前の目論見通りになんかなるもんか、いいか、お前をここで捕まえてやる、逃げるなよ、声と背丈は覚えたからな」これでこの場に留まらせることができれば。そう思ったがための言葉だった。

「ほお、面白いことを言うね。やれるつもりだとでも? ……まぁ念には念をだ、俺にとってお前は怖い存在だからな」そして一段と低い声で彼がまた。「望み通り迎え撃ってやる」

 プツ、という音がした。通話が切れた音。――どうやら効果的だったようだ。

 このスマホを持っておく必要はもうなさそうだ、お荷物にもなる、僕はそう思うと、そのスマホを柱の陰の床に、音を立てないように置いた。

 この時、変身は選択肢に入るのか、と少し考えた。答えはノーだ。捕まえるという時に不慣れな姿は多分よくない。攻撃面でも防御面でも移動面でも身軽な方がいいし、大きく変身してしまって腕の傷なんかをさらけ出してしまうのもよくない。総合して、シャー芯操作と柔道や空手みたいな動きに頼るのが無難だろう。

 と思ってからしばらくは、柱を背にして隠れて向こうの様子を確かめたり、そんな時の左右や前方にも目をやったりして、犯人の男がいないかと確認し続けた。その何度目かの時――ビル四階中央に奥から入口側へと気配を殺して歩いた時――左前方の柱の陰から、白い刃が飛んできた。四枚。

 まとめて防御すべく、芯を円盤状に太くして硬化させ、その面を盾にする。

 それで受けたら、今度はその盾を、白い刃が飛んできた方向へと動かす。押しやってやる――! そういう思いで――。

 だがさっきも似た攻撃だった。もしや裏を掻かれてる? 左右が気になって見た時、右から白い刃が既に飛んできていた。

 くそヤバイ間に合え! 必死に念じて、そっちにもシャー芯を出し、太くし、硬化。盾にする。

 そして飛んでこなかった方向――左後ろ――へ逃げて隠れようと走り出したその時だ。さっきの盾に、カカカッ、と刺さる音がしたのとほぼ同時に、前から巨大化した一枚が水平に、僕の目の前まで――。

 ぞっとした。

 体が硬直する。これまでで一番と言っていいくらいの恐怖。

 その恐怖があったからか、反射的に、迅速に盾を作れた。防ぐ。防げた。ほっとする。

 肌が粟立ったまま動きを止めてしまいそうだったが、そうならないよう心掛け、操った芯を東エスカレーターの方へと高速で移動させた。そしてサクラを込めるのをやめる。これで刺さったティッシュも恐らく相手の見えない場所へ――。

 だが次の瞬間、やや前方の頭上から、ティッシュが幾つも重なってできたチェーンソーのような形の塊が、横に三つ並んだ状態で下りてきた――。三つのチェーンソーが頭上から襲い掛かってきているようなもの――。

 驚くのと同時に、ぞくりとした。

 姿勢がまずい。後ろに逃げても多分逃げきれない。前に飛び込んで走り抜けようにも、多分、次の瞬間食らう。横に逃げようとしてもサイドの『チェーンソー』の餌食になる――。

 死が見えた。今度こそ本当に。

 くそっ、敵の位置すらまだ掴めてないのに。




 やっとこの状態に持ち込めた。あとは切れ味の問題。さあ早く死ね――!




 隈射目くまいめの人員確保のための交渉を終え、本部に報告に来た時のことだった。カードを見せて本部前の大階段までの通路を回っていく間にスマホが振動した。取り出して確認する。

 彦見沢ひこみざわからの連絡だった。彦見沢ひこみざわはあまり俺に電話をしない。何だろう。その電話に出る。

「もしもし、今本部に帰ってるとこだけど、何かあったのか?」

大樹だいきくんが一大事だ、実は――」

 内容を聴きつつ不安に駆られた俺は、通路を本部入口へと走った。




 必死に、盾を上空に作った。今度の円盤はかなりの大きさ。直径で二メートルは優にある。円盤の厚さを稼ぐために、今度の盾は二枚にしてみた。それらを硬化。

 上の一枚目の円盤に、物凄い速さで白い刃が食い込む。そしてその刃は、今度は止まらず、僕の芯の盾を削ってカットしていく――その音がチュイインと響く――。

 これが複合的な刃物の性質の付与? チェーンソーの動作中の切れ味まで付与できるのか。

 どうやってこれを防げばいい?

 考える。だが、今もなお盾に食い込む。切られ続けている。

 と、その時だ。上から盾を切る『チェーンソー』のうち、サイドの二本が僕の左右にそれぞれ移動し、横から水平に、左の一本は僕の腰を、右の一本は僕の足を、背中側から直接狙ってきた。その二本がかなり反動を付けて勢いを増そうとしているのが視界に入った――。

 このままじゃ!

 そんな焦りの中、上のチェーンソーを防ぐテレキネシスの感触が変化した。上のチェーンソーは、上の円盤の上半分ほどを切断し終え、下の円盤の上部をカットし始めていたのだ。だから何だか妙な振動の近付きみたいなものを感じたんだ。

 その頭上のソーによる切断速度もかなりのものなのだろうが、そんなことを把握している暇なんかない――。

 嘘だろ嫌だ死にたくない諦めて堪るか!

 ありえないくらい刹那的に――、思うのと同時に閃いた。

 ならこうだ!

 僕はつい心の中で叫びながら、チェーンソーに切断されかかっている頭上の二枚の円盤のうち下の円盤だけを、その中央を中心にして回転させた。すると、カットするために食い込んでいるチェーンソーは、パキパキと折れ曲がる音を出し、くたっとなった。

 よし、これで上からの攻撃は完全に防げたかも――! 今度は左右――。

 何もかもが一瞬だった。左右に芯を飛ばす。自分と同じくらいの大きさに芯を巨大化させながら、そして硬化させながら――。「うおおああああ!」つい、サクラを込めるのにも声を張ってしまう。

 そうして僕が狙ったチェーンソーは、僕がまっすぐに立ったのと同じくらいの大きさの芯が高速で当たることによって、押し飛ばされた。ビリビリに裂けながら。

 そうなると、左右の両方ともが勢いを失くし、その辺にふわふわと散った。芯自体は、遠くへ飛んでいって僕の意識の外へ行き、多分もう縮んでいる。これで左右のチェーンソーも無力化できたようだった。

 この時、頭上から襲ってきていたチェーンソーは、数枚がビリッと破れたせいなのか、その拍子に構成するティッシュごと――丸ごとバラバラになった。そして一、二秒後、円盤やその辺の床に落ちていた。

 それらはまだ、そのまま操作される可能性がある。

 そのことに気付くのは遅かったが、今からでもそれを防いでおきたい。そう思って、芯を、増やす要領で出現させ、太くした数枚の円盤で押さえ付ける。これで敵が操作し難くなったとは思う。

 そして周囲を観察した。

 さっき、あと〇・二秒でも遅ければ、僕はどれかの直撃を食らって切り刻まれていただろう――ぞっとしながら見やった――。

 なぜこんなに連続で? 理由は近くに敵がいるから。多分それ以外にない。じゃあどこに? そう思ったからこその観察。パパパッと視線を移していく。

 前方上空から三本のチェーンソーが来たあとそのうちの二本が左右から襲ってきたが、そこまでの流れで僕は背後を意識し辛い――つまり、一番見付かり難いのはその時の僕の背後――?

 それが分かっていたのかどうなのか、それは分からないが、敵はその時の背後の方向に本当にいた。

 見付けた! 思って芯を飛ばす。

 だが壁に強烈にぶつかる音がするだけで、足音は遠退いていく。

 それまで操っていた芯にサクラを込めるのをやめながら、僕は走り出した。

 制御下にあった芯が元の大きさに戻る。それには構わず走る。

 西側の、動かないエスカレーター。そこを男が下り切るところが今見えた。瞬間思う、逃がさない、絶対に――。

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