表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第二章 X

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/152

22 救うためには

 洲黒すぐろ鬼千堂きせんどうデパート。

 ロゴ看板も古びたその廃ビルの周りには、立ち入り禁止の鉄の仕切りがある。

 そのことを知っていて、そこまで電車を乗り継いでやって来た僕は、『今もマギウト無しではどこからも入れない状態なのか』と気付いた。

 ちょうどその時、与えられたスマホから着信音が。

 バッグから取り出し、そのスマホの画面を見る。

 電話のコールだ。出てみる。「もしもし」

「能力を使って入ってこい、もちろん誰にも見られないようにだ。そのスマホは、そのまま通話を切らずに耳に近付けておけ」

 くそっ、操作物を持ってくることは予想されていたらしい、僕がこの力をある程度使えることも。抵抗する時にマギウトを制されてしまうかもしれない……。この現場もこいつにだけは見られているかも……。くそっ……。

 不安になりながら周りを見て、人の目がないことを確認。

 そのあとでシャー芯を円盤状にした。

 その円盤を水平にし、硬く。そしてその円盤に乗り、自分が落ちないようにできるだけ素早く動かして立ち入り禁止の仕切りの向こうへと行ってから芯に念じるのをやめた。芯は普通の形にすぐ戻り、地面に落ちた。

 これであとは仕切りの外から見えなかった入口を探すだけ。

 ポツポツと雨が降り始める中、正面へ歩きながら――この現状を嘆きながら――僕は考えた。敵は多分、現段階の時点でマギウトで抵抗させまいとしている。こんな能力を知っていて、その上で僕らにこんなことを……。

 もしかして僕を殺したがっている? ほかに呼び出す目的なんてありそうか?

 僕を呼び出してそいつができることって、そのくらいだ。なんでだ? 僕がこの能力の持ち主の中で一番怖いから? 妙な変身能力まであるし。

 多分、このあいだの事件のライブ映像の送信先のうち、警察が特定できていないもの、それがこの犯人の持つパソコンか何かなのかも。

 その繋がりがあれば僕を特に怖がるのは分かる、あの変身は僕自身も怖かった。そしてあの事件では僕らは殺されようとしていた。あのまま出られなければ――僕があんな変身もできず機動隊による特定もなければ――僕らは死んでいた。行動が一貫しているとするなら、相手は殺そうとしてる。僕を。

 犯人には能力が多分ある、そうでなきゃどうやってマギウトのことを知る? 能力を使えるなら同じ立場では? じゃあなぜ僕を? やっぱり何かを怖がってる……? 追われるみたいに……。

 多分、この犯人には、何か警察に隠したいことがほかにもある? この前の犯人みたいに? それで、僕みたいなマギウト使いが警察に協力するかもしれないと考えた? 繋がりとそんな考えとが犯人にあるからこそのこの状況なのかも。

 ここでもし僕がやられたら、あとは少しずつ、マギウト使いがみんな殺されてしまう? 警察に同じく協力するようなマギウト使いならそうかもしれない、この仮説が正しければだが。違うかもしれないが、なぜだか、どうしてもそんな意図があるのではと思ってしまう。僕が既にこんな目に遭っているから。

 ――考えながら正面まで来て、頭を切り替える。今はこの状況をどうするかが肝心。

 隙を見せるな。見せたら殺される、そう思うべきだ。僕は死にたくないし誰も死なせたくない。

 もしかしたら攻撃されるかもしれない。それなら……、正面から入る時、物音とかに気を付けないと、テレキネシスでやられたり、刃物の性質を持たせた操作物でぶった切られてしまうかもしれない……、それは僕にもまだできていないことだし、より注意しないと……。

 見える範囲だけに留まらず、遠くまで、物陰の音にも注意を怠らずに、満遍なく視線を向けていきながら正面から入る。そして数歩……。

 中は明るかった。

 天井の電灯に関しては全てが点いている、消えかかっている電灯すらない。

 どうして電気が通っているのか。まあ今はそんなことどうでもいい、実千夏みちかのことが心配で心配でしょうがない。

 入口からずんずん入っていこうとしたその時、声がした。スマホからだ。

「そこの段ボールの中の服に着替えろ」

 言われた物を探して見やる。

 前方にあった。段ボール。

 その中にあるのは、ポケットのない灰色のスウェットパンツ、白いTシャツ、黒い靴、白い靴下だった。あと何やら紙切れとお金も、それらの下にあった。

「着替えたら、こちらが用意した物以外、持っている物を全てそこに置け。それから俺が用意したメモと、金と、そのスマホを持ってメモ通りに移動しろ」

 デジャヴュを感じた。……そうだ、あの華賀峰かがみねカンジという男。彼も僕の持ち物をチェックして僕のスマホの電源を切ったあと移動した、それを思い出した。それに、十一人まとめて誘拐された時も、荷物をどこか別の所で捨てられている、そのことも思い出した。

「追跡させないためか、別の誰かが心配して僕を探すから」

「その通りだ、余計な真似はするなよ、確認も必要ない、時間稼ぎのようになると俺も困る。いいか、俺の機嫌次第なんだからな、お前の大事な女の命は」

 それを盾にされたら何も言わずに従うしかない、くそっ……。

「一旦スマホを切るが、また二分後に掛けるからな」

 ブツ――と通話が切れて、僕は仕方なくパンツ以外を脱いだ。

 そして着替える。シャツも、ズボンも。そして靴下も、靴も。

 それまで着ていた服とバッグを座り込んで段ボールの中に入れてから、穿いていたズボンのポケットに手を入れ、シャー芯のケースをこっそり取った。そして立ち上がった時だ、着信音が鳴った。

 スマホを手に取り、恐る恐る通話ボタンを押す。すると。

「ちゃんと着替えたか確認させろ、これはさっきと同じビデオ通話だ、そのまま映せ」

 やばい。隠し持とうとしたことがバレる。どうする。シャー芯のケースをどこに隠せば? シャツやズボンにはポケットがない。靴下に隠しても、もし『すそをまくれ』なんて言われたら、靴下の膨らみを見られた時に気付かれる。シャツをズボンにインして胸元に? いや、シャツを出してみろと言われたらやばい……。

「どうした、早くしろ」

 そうだ、靴の中なら。でも今のタイミングだと……。今履かされている靴は紐で締めるタイプ。それを目で確認してから。「ちょっと待ってくれ、靴紐を整える」

「早くしろ、女の顔が切り傷だらけになっても構わないのか?」

「分かってる! 待ってくれよ、ちゃんと見せるし、ちゃんと履きたいだけなんだから。ちゃんと着替えた所を確認したいんだろ、あんたも」

 そう言って急いで紐を緩めると、靴の底にシャー芯のケースを隠した。

 そこで気付いた。よくもまあピッタリのサイズの物を幾つもそろえたもんだと。……まあ調べられていたんだろう、チャンスは幾らでもあったのかもしれない。

 納得しながら紐をピシッと締める。その後、適当な位置にスマホを置いた。そして自分が映るように、少し離れる。

 それから振り向き、どうだ、という気持ちで待った。

 実際、この犯人がこのスマホからしか見ていないとは限らない。別の所にもカメラがあったりしてそういった所から僕の姿が見られていたら? そう思うと、靴紐を直す動作の中でバレないように隠せたことはとても大きい。

「手を広げろ」言われてグーにしていた手を広げ、次の声を待つ。……内心、靴の中に――土踏まずと靴底の間に――隠してよかったと心の底から思った。

 次は何を言われる? バレないで済むのか? そう思うと心臓バクバクだ。

 スマホの向こうに、小さく人のシルエットが見えた。顔までは分からない。光の加減とか何かの影になっているからとかではなくて、明らかにマスクのせいだ、顔を隠している。

 多分そいつの声。「いいだろう。その恰好でメモの通りに来い」

 そこでビデオ通話は終わったようだ、声は聞こえなくなった。

 近付いてスマホを持ち上げる。

 相手を映すはずの画面も暗い。確かに通話が終了している。

 アプリを終了させると、そのスマホをそのまま手に持っておく。

 手に今持っているのは、そのスマホとお金、そしてメモ、この三つ。

 そのうちのメモを見た。

大浜岸おおはまぎし中古ショップセンターへ移動しろ』とある。

 地図や経路の詳細も添付されている。近くの駅を確認し、まずはそこへ。

 到着後、その駅からメモ通りバスに乗った。

 ……今なら靴からシャー芯のケースを取り出しても構わないかもしれない。よし。

 まずは辺りを確認。そうしたのは、犯人の仲間が同乗してるんじゃ? と思ったからだ。

 多分いない。そう思ってから、シャー芯のケースを靴の中からそっと取り戻し、今度はそれをも手で持っておくことに。

 指定のバス停で降りたら去るバスを見送り、それから……看板等を探して上の方を見ながら川沿いの道を歩き、少しして大浜岸おおはまぎし中古ショップセンターの看板を見付けた。

 知らない廃ビルだった。全五階くらい。

 さっきのデパートの半分程度の横幅で、奥行きは同じくらい。ざっと半分の広さだが、それでもかなり大きい。横三十メートル、奥行き四十メートルくらいはあるだろう。

 正面にはでかでかと立ち入り禁止の文字。しかもビルはフェンスで囲まれている――ので、さっきと同じように周囲を確認し、円盤状にした芯に乗って入る。ゲートで繋ぐ形で入らなかったのは、そうすると四本操るし、消耗が激しいからだった。

 この段階で、持っているのはスマホとメモとシャー芯入りケースの三つ。

 金銭は移動に必要な分だけだったらしい。

 メモももう必要ない。メモを投げ捨てたくなったが、それをして、もし犯人が怒ったら……。そんなことはけなければならない。

 仕方なく三つを持ったまま周りに注意して入る。ここも電気が点いていた。

 この辺りでも雨が降っている。さっきまでパラパラと降っていただけだったのに、今、段々と雨の勢いが増している。敵の足音に注意したいが、雨音はそれを難しくする。僕は願った、『お天気さんよ、味方してくれよ』と、『ここで死ぬかもしれないんだ、味方してくれよ』と。

 雨に気が散らないように、人の気配にできるだけ気付けるよう辺りを見ていく。

 入口から少し入った所で、このビルの構造がだいたい分かった。五メートルほど左右に行けばどちらにも階段があるようだ。それぞれの階段の更に外側にエスカレーターがあるらしい。そのように案内板にあった。

 と、把握したその時だ、何か白いものが左前の上方から飛んできた。右にけながら右前へ前転するような形で受け身を取る。

 身をひるがえす時に左腕も使ったので、少々ズキッと痛んだ。前の事件でできた傷のせいだ。痛い。だが耐える。耐えて姿勢を整えながら、逃げようとしながら、飛んできた物を急いで確認した。

 案内板の近くの壁に突き刺さった白い紙のようなものがくたっとしていた。

 薄い紙質からしてティッシュのようだった。

 それが敵の得物えもの? くたっとしたのはサクラが込められなくなったからだろう。壁に刃物のように突き刺さる。そんなティッシュの弾丸が次々と飛んでくる。

 弾数はとんでもない。ぞっとした。それで僕を殺そうと。敵は姿も見せずにそれを成功させようとしている――。

 僕はただただけるほかなかった。けて逃げる。けて逃げる。それしかできず何度も繰り返す。

 武器を――シャー芯を――こっそり持ってきていることがバレたら何をされるか分からないのでシャー芯を今放つことはできない。マギウトを使うのは、犯人の姿を捉えて倒せると確信した時か、実千夏みちかの安全を確保できたあと。とにかく逃げまくった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ