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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第二章 X

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20 脱出と送信の先

 全員を運び終えてから、すぐに聞こえた――静かに走るような足音や慌ただしい声――。それが近付いてくる。音は十人分くらい。

 色んな方向から聞こえた。多分、犯人達の足音だ。僕らを逃がさないために動いている、そう思うべきだ。

 僕の手足から手を放したみんなを背にするようにして、僕は空間全体を眺めながら耳に更に集中した。

 近くにあるのは鉄やコンクリートの壁、クレーンくらいだ。

 高い所には屋根。

 遠い所に鉄の階段や扉がある。

 クレーンの操作を眺めて確かめるためのような場所が右手の高い所にある。

 多分ここは、ゴミでも溜めて再利用するためにあったような、そんな感じの工場が廃れた場所なのだろう、扱われるのがゴミだったのかは、まあ、分からないが。

 とにかく――、僕は扉に集中した。音がしたのがそこからだったからだ。と言っても、扉は目の前だけにあるのではなく、左に二つ、右に二つ、後ろにも一つあり、前には二つ、という具合に沢山あった。

 それぞれから一人か二人ずつくらいの足音が聞こえている。ただし、それらの音に、どうやらみんな、気付いていない――?



 右柳うりゅうさんが率先して大樹だいきくんの右肩からシャツを取り外していた。

 確かにシャツを着ないよりは着ている方がいい、何かあった時の止血とか衛生面に繋がるから。

 自分のポニーテールが乱れているかなんて構わずに、私は大樹だいきくんの左肩に近付いた。そこからシャツを外す。

「ああ、気付かなくて済まん」

 私に言う歌川うたがわさんに向けて、「いえ」と返しておいた。「周囲を把握するのも大事ですから」周りを見ていた歌川うたがわさんの行動もまた正しいのだ。



 僕は両肩からシャツが解放されるまでじっとしておくことにはしたが、注意を促したくてもどかしくもなっていた。

 シャツが解放されて、やっと――。

 急いで伝える。だがその想いは「クケケ!」という鳴き声にしかならなかった。

 なので、態度で危険が迫っていることを示すため、飛び掛かれる体勢を取った。

 急いで後ろを確認したりすれば危険を察知したように見えて、周りのみんなは促されていると気付くかも。そう思って急に後ろを振り向いたりもした。

 一番近い扉から攻撃されるのが最も危険だと思った。

 は僕らの護衛のみんなから銃を奪ったりしているだろう、それを使ってくるだろうし、そうでなくても銃を持っている可能性だってある。そして撃たれる際の狙いがずれても――が心臓を狙えなくとも――『的が大きければ』僕らのどこかには当たるかもしれない、つまり、が僕らの姿を捉えたら、その時は『距離が近い方が』危ない、そう思った――。

 近いのは、前の扉だった。

 ゆえに僕はそちらに向かって走り出した。

 地響きを立てて走って近付いたその時、僕の目の前の扉が開いた。

 入ってくる。スーツの男が数人。

 入ってこさせないようにしたかったのにギリギリ間に合わなかった――! 思いながらもただ無言でし掛かり、一人を押し倒すと、左前足で男ら二人を薙ぎ払った。

 薙ぎ飛ばされた二人は壁で後頭部を打ち、昏倒。

 すぐに、下敷きになった者へと向き直った僕は、往復ビンタのように何度か殴打。

 そうすることでこの相手をもぐったりとさせられた。これで三人とも昏倒したはず。

 動かなくなった彼らの手の辺りを見る。銃が落ちていた。やっぱり持っていた。

 敵は僕らを殺して今回のことを闇に葬ろうとしている、きっとそうだ。あわよくば僕を捕まえようとしているかもしれないが、そうはさせない。

 さあ次だ、近くの扉からはもう足音はしないが、それら以外の別の扉からも、数人の足音がある――。




 大樹だいきが前方の扉に飛び掛かった時、最初は『どうしたんだろう』と思った。けど、それから二秒くらいで、『そうか危険が迫ってるんだ』と気付いた。だから俺は口にした。「周りに警戒して!」

 すると、俺らを護衛していたという男性が俺らに言った。「大樹だいきくんからできるだけ離れないように」

「あ、は、はい……っ」つい焦ってしまう。

 近付きながら気付く。大樹だいきは誰かと戦ったようだ。そうだと分かったのは何かぶつかる音がしたし、実際、見えていたからだった。

 大樹だいきの尻尾に当たらないように徐々に近付きながら、後方を確認してみた。

 そちらの方のほかの扉も――たった今、開いた。

 その扉から男達が。向かってくると、そいつらは近くにある物陰に隠れながら銃を撃ってきた。

「うわ! マジかよ!」思わずののしるように声を上げてしまう。

 大樹だいきのおかげで背を向けてもよくなった前方に逃げて物陰に隠れながら、俺は考えた。どうする、どうする――?

 そんな俺の近くにみんないるけど、今この場を一番どうにかできそうなのは、もしかしたら俺かも――?

 そういえば、駆けてきた男達はみんなスーツ姿だった。俺はその男達が持っているかもしれないと睨んで、彼らの居場所に念じた。

「あった! よし!」やはり彼らは持っていた、ハンカチを。

 その一人のポケットからハンカチを念力で抜き取れた感触があった。

 念動の手応えが急に強くなった(消耗が激しくなった)のならそれは作用しているということ、そこに対象物があるということ、俺はそういうことだと知っていた。

 その感触を確かめながら、そのハンカチをこちらに、本当にほんの少しだけ引き寄せた。

「食らえ――ッ」

 こちらまで引き寄せる必要は全くの皆無。浮かせたハンカチを板のように硬くし、その平らな部分でとにかく奴らを殴打。「うおおああッ!」かなり離れた位置にいたハンカチの持ち主と左右にいた男、全部で三人が、このハンカチを使った殴打で、どうやら身動きすらしなくなった。

 こんなの初めてだ。というかこんなのでなくても攻撃という使い方自体がそもそも初。確かに硬化させたこと自体は何度もある。が、高速で連続的に、こんな緊迫した状況で戦う相手にだなんて。こんなことなかった。だからか、慣れない使い方だったのは分かっていた、そのせいか、意識が闇の中に……落ちそうになった。

 俺はなんとかこらえた。

 でも、それで精一杯。もう無理だ。もう動かせない。息も上がって、何だか……酸欠みたいになってる。

 なんだこれ、こんな風に激しく使ったらここまでやばくなるのか。

 もしかして、大樹だいきはこんな思いを何度も……? 俺は兄として、そんな弟を誇りに思った。それでも頑張っている凄い子なんだと。

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