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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第二章 X

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19-2

 ああ、くそ、変身するな! 撮られてるんだぞ!

 そう思い、全身に広がっていく変化を隠すために――どこにカメラがあるかは定かではないけど――とにかくしゃがみ込み、自分の胴体と足でこの腕を隠すみたいに丸まってみた。

 慌てながら考える。

 変身するなんて。できないと思ってた。そう思ってたからこそ、ヤモリなんかはいいよなって思った、思っても大丈夫だと思ったからなのに。

 くそっ、制御できてない――。なんでできちゃうんだよ。

 駄目だ、変わるなよ、変身するな、変身を中継されたら普通に生活できない! そうだよ、こんなの僕だけの問題じゃなくなっちゃうのに。

 ――頭で抑えようとしていても、『これしかない』と、心が結論付けてしまっているのか?

 そう思ってからの変化速度は凄まじかった。急速に、全体的に変わった。頬、首、手、手首、腕――。それらの表面が黄色や橙色に、鱗状に変わったそのあとで、体は巨大化し、服を一気に裂いた。

 どんどん大きくなり、尾も生え、手足は物に吸い付きやすくなった。そして僕の体は――。

 それは、六秒とか七秒くらいの出来事だった。

「お、お前……どうなってんだ? レオパードゲッコー……?」――兄が言った。「なんなんだよ、これ……」

 どうやらレオパードゲッコーに似た姿らしい。

 ――以前に見たことがあるからかな……。

 それは、本来は小さく、橙色で美しいヤモリ。その姿を見たことがある。リビングのパソコンで。兄も一緒だった。

 それと似た姿なのかもしれない(・・・・・・・・)。なんせ僕には全身を確認することができない、腹は見えるが、確認したければ見るべきは背だ――もし連想するほどの姿なら背の橙色が目立って綺麗なはず――だが、そちらを見るのは難しいらしい、体をくねらせてもあまり見えない。

 レオパードゲッコーみたいだと言っても、体長は十メートルくらいはあるかもしれない。それに、もしレオパードゲッコーを元に変身してしまったとしたら――その種類のヤモリは壁登りが得意ではないはずだから――この大きさでは、この引っ掛かりのない壁を登って救出することはできないかもしれない。

 念のため、地面に突いている手をそのまま動かせてしまうのかどうか――滑り易さを確認してみた。

 動かない。吸着性がある。

 どんなに力を掛けてもピタッとしたまま指は不動。

 いけそうだ。

 どうやら一種類のヤモリの性質を元に変身しているのではない可能性がある。

 兄と共にパソコンで見た時、確かトッケイヤモリの映像も見た。変身が混ざった? そんなこともあるのか? 記憶がごっちゃになってたとか?

 とにもかくにも。こんな姿になってしまうなんて。きっとみんなを驚かせてしまった。

 そう思ってみんなを見てみた。

 みんなは、巨大化する僕の体と壁や床とで挟まれないようにと、僕の前の方へと回り込んでいた。

 兄以外は何も言わない。それは呆然としているからのように見えた。

 そんなことよりも。

 気になっているのは、変身を世にさらしてしまったことだ。くそっ……。

 確かにこの姿でこんな大きさなら、この手足なら、登れるかも。どうにかしてみんなが僕にしがみ付けば、ここから一度に出ることだってできるかもしれない。けど……。みんなのこれからが一変してしまう。変わってしまうんだ、何もかも。

 と、嘆いた時だ。姉に言われた。「あ、あ、あんた……誰……? 本当に大樹だいきなの?」

 ショックだった。みんなのために何をすればいいのか分からないでいたくらいなのに、その上で姉のそんな声を聞いて、僕は……。

 僕は、僕だと言いたかった。でも。

「――クカカケキカ!」声は低い音になるだけ。うまく話せない。

 でも、分かってほしい。分かってほしい――。

 なのに、言葉にできない。

『なんでこんな思いばかりするんだろう』……つい考えてしまった。

 どういうことなんだ、一つの姿にしか変身できないはずだったのに。

 僕の体はどうなってるんだ。どうなってるんだ――!

 反応機にも映らなくなってるし、こんなことにもなるし。なんでなんだ――。

 もう泣いているくらいの気分だった。どうしていいか分からない。身振りでも、自分だと証明したいけど、でも、それよりも、みんなを運ぶことを優先したくもあった。

 感情が入り混じるのをどうにもできないまま、僕はみんなに背を向け、壁に手を付き、首をひねってしがみ付くように促した。

 数秒が経つ。

 みんなは、僕に近付かなかった。ジェスチャーだけではそこまで伝わらなかったのかも……。そう思ったから、急いで首で上を示した。

 何度も僕の手足なんかに顔を向けたりもした。でも、みんなは僕に近付かなかった。

 どうしたらいいんだ、本当に……。

 こうなったら僕は一人で上に行って、登り切ってから変身が解けるように意識を集中するか……?

 戻れるのか? 元の姿に。――もうそれすら分からない。

 数秒間、考えていた。

 やっぱり先に運ばないと。どうなるとしても。いや、どうなるか分からないからこそか? とにかく色んな要素が絡んでしまっているからこそ先に運ぶべき――。

 思い直して、振り返った。

 その時だ。僕の――かなり大きいのであろう――目を見て、父が言った。

大樹だいき、信じるよ。お前だと信じるし、お前のやることを信じる。お前もさっき驚いたように見えたけど、本能か何かのせいなんだろ? これは。……その姿なら、とりあえずは登れそうだってことなんだろ? そうなんだよな?」

 僕はまた、感極まった。ワケも分からないのに信じてくれて――僕の意図を理解して言葉にしてくれて――。

 そんな嬉しさの中でうなずいた。

 助けたい。助けたい。強くそう思う。

 視界を濡らしながら、ほら早く――と、また、こくりとうなずいてみた。

 すると父が進み出て、僕の足に抱き付いた。

「さあ」父がみんなに促す。

 みんな、顔を見合わせた。護衛の中でも数人、特に檀野だんのさんなんかは、兄や姉に対して深くうなずいた。僕の真意を理解しているのを示してくれているようだった。

 しばらく間があってから、兄、姉の二人が意を決したように前に出て、僕の手足の所々に手を掛けようとした。

 その時だ、ウタガワさんの指示が飛ぶ。「ちょっと待て」

 ウタガワさんはそれから隈射目くまいめの男性組織員の間でだけ「シャツを脱げ」と話した。ウタガワさん自身と右柳うりゅうさん、鳥居とりいさん、檀野だんのさんの四人が白いシャツを脱いだ。

 そのシャツを、物干し竿に掛けるタオルのように僕の両肩に引っ掛けることで、ぶら下がり易くしたようだった。

 そのシャツでできた輪に兄や姉が手を掛け、そしてほかの者もぶら下がった――。シャツのおかげか、僕への負担はかなり減っている気がした。

 そうやってまずは半数、五人がぶら下がる。その状態になってから、真っ直ぐそびえ立つ壁を僕の巨体で一往復と一往路。二度に分けてみんなを運んだ。

 これは、安全を考慮したのと、三度目の時間はないと思ったからだった。

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