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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第二章 X

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19 穴の底を覗くのは

「いっ……。あれ? 何……ここ、どうなってるの!」起きた姉が慌てた。

「何だこれ」と、静かに反応したのは兄。兄も起きてすぐ。

 父は何も言わなかった。たった今目覚めた残りの護衛も何も言わなかった。辺りを観察するだけ。

「お姉ちゃん落ち着いて、説明するから」

 僕があまりにも冷静に言い過ぎたのか、姉は質問攻めにしてきた。

「説明ッ? 何よその態度、あんたやけに冷静じゃない、何か知ってんの? そこの人ら誰? なんか狙われるようなことした?」そこで姉は息を整えた。そして再度。「何かに巻き込まれたんじゃないでしょうね」

 あれ? と思った。なんだか質問の仕方が妙だと。

 まるで、こんなことになっても意味が分からないという訳ではない、というような……。なぜかあまり混乱していないというか……。

「姉ちゃん何か知ってるの?」

「今聞いてるのはこっちでしょ!」

「……そうだね、ごめん。えっと、この人達は、僕らを護衛してた人達なんだよ」

 僕がそこまで言うと、ウタガワさんが自己紹介がてら。「最近、大樹だいきくんの周りに色々と事件があったんですが、このあいだから、本当はご家族全員が狙われていて、手始めに大樹だいきくんが狙われ――」

 多分それは口裏合わせとしての発言だ、『色々と事件が』と言うことで、ひっくるめて説明を受けたと思わせたいのではと、そう思えた。

 その解釈で正しいと思った。なぜなら、以前の事件のほとんどは僕の家族が根本的に狙われていたという訳ではないのにその発言だからだ。

 それを、檀野だんのさんが手で制止した。「いい。隠さなくていい」

「でも」ウタガワさんと僕の声。同時だった。

大樹だいきくん」

 檀野だんのさんはそう言って一度僕を見た。そしてウタガワさんに視線をちらりとやって僕に戻すと、首を横に振った。

「明かすのも交渉の一つだよ」

 檀野だんのさんは優しく僕にそう言うと、それから父を見て。

「これまで隠していたのは、巻き込みたくなかったからです、大樹だいきくんはあなた方が危険に近付くことや危険の方から忍び寄られることを嫌った。でも、こうなってはもう隠すべきですらない。本当に申し訳ない。あなた方がどういう存在か、それを考慮せず明かすことになる。遅過ぎたかもしれませんが、大樹だいきくんも言い辛かったはずです。あなた方がそう(・・)であるか、たとえ違っても、受け入れてくれるか、受け入れてくれても、生活が一変してしまうか、そもそもあなた方が何かに立ち向かうことも、そしてあなた方が危険な目に遭うのも、怖かったのでしょうから。……責めないでやってください」

 そんな発言を耳にして、父が静かに口を開いた。

大樹だいきはあなた方を頼ったんですね。だから私達がどうなのか確かめるのが……怖くて――」

「そうです」うなずいたのは檀野だんのさんだった。

 父の発言には違和感があった。

 ちょっと待って。まさか。

 父は言った。「私は不思議な力を持っています」

「俺も」これは兄が。

「私も、なぜかサイコキネシスみたいなのができるし」姉までもが。

 僕は堪らず独り言みたいに。「なんだよ、なんだよそれ」

 そうつぶやくことで何だか色んなものが肩から落ちて、どうでもよくなったように感じた。

 ついでにどうしてか涙が出る。なんでだ、こんな時に。――じゃあ僕は言えばよかったんじゃないか? 僕だけじゃ……なかったんだから。僕だけじゃなかった……! そんな考えと安心もあってか、感極まった、そういうことだろう。つい口が滑る。「じゃあ僕が何か困ってる時、それを――」言ってくれれば、と言い掛けて、同じだ、と気付いた。そうか、互いに、打ち明けるのは怖かったんだな。

「ごめん、なんでもない。僕もなんだ。僕も。シャーペンの芯を操れる」

 こんなこと、何にも知らない人からしたら、変な会話だろうけど、でも。

 信じてほしくて感極まって潤んだ目のまま真剣な顔を僕が見せると、父が言った。「俺はジッポだ」

 それだけで――そんな一言だけで、僕は嬉しかった。受け入れてくれたし、同じなんだ、それがハッキリと分かったから。

「昔キャンプで色々あってな。まあそれはいいとして、どうする」

 問う父に、兄が。「俺も無理だ。誰でも無理なんじゃないか、これ。俺の場合はハンカチだけど、手元にないし」

 それに対し、姉がうなずく。「そうね、私の道具もない」

 少し間があって、姉がまた。「どうなっちゃうの? これ。この状況、抜け出せないんじゃないの?」

 その時。上から声が降ってきた。いわゆるボイスチェンジャーを通した声。「全員、目を覚ましたようだな」

 機械を通した声に対し、ショートヘアの女性が。「あなたは何なの! どうしてこんなことをしたの!」

「……これ以上手を汚さずとも、お前達は飢えて死ぬ。それにこの場所は誰にも分からない。頑張って出ようとしてもいいぞ、どうせ出られない」

 会話になってないなと思ってから、僕は口の中でつぶやいた。「好き勝手言いやがってどいつもこいつも」

 ほぼ同時に兄が舌打ちした。そして叫んだ。「やべえだろこれ、なんだよくそっ。こんなのホントに死ぬぞ! どうすればいいってんだ」

 それからすぐに機械の声。「ちなみに、我々はここをカメラで撮っていて、特別な賭けの対象として生中継している。下手なことはしない方がいい、妙な力を使うらしいが、それは駄目だ、世間に知れるぞ、嫌なんだろう?」

 この直後、鼻で笑うような吐息が聞こえた。それも機械染みる。

 もし人間のことを色々な感情や意志を持った機械だと言えるなら、こういった人間は回路がイカれた機械、そう思えた。

 その声が、また。「今まではミュートしていたが、十秒後には音声も乗せ始める。下手なことを口走らないよう努力したまえ、その上で出られると思うなら、頑張りたまえ、応援しているよ、賭けの儲けのためにね――」

 その声に、乾いた笑いまで添えられた。

 なんだよそれ、そこまで先手を打たれてるなんて。

 こんな状況でも壁さえ登れればまだよかったのに。くそっ。できないのなら、別の方法で脱出できないか考えないと……。

「何かないんですか? この前みたいな発信機とかは」僕はこそこそと小声で話した。

 問われて、鳥居とりいさんが言った。「俺と右柳うりゅう檀野だんのには付けてたんだが、ほら、服が――」

「ああ、じゃあ――」

 僕は察し、落胆した。「奪われた服を別の場所に捨てられたかもしれないから、発信機だけに頼ると助からない可能性があるのか」

「そうだな、とんでもない状況だ」と、右柳うりゅうさんが若干首を傾けて、眉間にしわを寄せた。

 そんな……。何も手がない……?

 辺りにはスマホもガラケーも、使えそうなものは何もない。全部ごっそり奪われてる。

 もしここにそれら通信機器が何かの拍子に転がって、誘拐犯の誰かがそれらの中の一つでも持ち運び損じている、なんてことになっていれば――転がっていることに気付かずに去っていれば――、あるいは、と思ったのに……。

 くそ、じゃあ、どうしたら? 兄や姉、父のサクラは反応機には? 多分映らない。位置を感知されないから、組織は、兄や姉、父がマギウト使いだと知らなかったんだろう、兄や姉、父もさっきまで組織を知らない感じだった。だったら反応機も頼れない。

 嘘だろ、こんなにも方法がないなんて。

 一瞬、諦め掛けた。

 だが首を振り、考え続ける。

 そして唐突に、ヤモリの姿が思い浮かんだ。ああいう生き物なら簡単に脱出できるだろうけど。と思ったその時、なぜか右手の甲が黄色くなり、その質感までもが、どうしてか虫類みたいなブツブツ、プニプニしたような感じになった。

 え、まさか変身! 気付きながら、甲が変化している右手全体を、左手で隠した。

 にしてもそんな馬鹿な。

 ルオセウ人のような姿にしか変身できない状態になっているはずなのに。

 ふと、思い出した、檀野だんのさんの言葉を。

『なぜか君のサクラが反応機に映らなくなっていたんだ――』

 体が変化してる? もしかして、ほかの姿にも変身できるのか? ……なんで僕だけ? そう思って溜め息をついてから、右手の甲の変化が広がっていないか確かめたくなった。視線を向ける。

 変化がなくなっていればいいと期待しながら見たが、右手は全体的に黄色くなっていた。

 それに、隠す左手にまで同じ変化が起きている。

 まずい、まずい……!

 今変身したらそれを中継されてしまうんだってば!

 とっさに両手を――言い聞かせるようにしながら――服の中に隠した。

 直後、兄が言った。「な、なんだそれ、お前! その手!」

 どうやら見られていたらしい。

 映像に残らないようにはできたのか? 見られたくないのに、変身自体はお構いなしに腕にも広がっていた。

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