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02-2

 目が覚めてすぐは、酷い夢を見たような気分だった。これは願望が混じった気持ちなのかもしれない……。

 瞬きをしながら、まず、自分がロープで縛られていることを理解した。そして寝かせられていることも。

 体は動かなかった。腕や足に食い込むものがある。ベッドに縛り付けられてもいるらしい。

 服は……着ている。制服のままだ。

 周囲を見た。白くてつるつるな壁や天井があると分かった。近未来的な部屋だ。

 天井は高い。その天井に、四角い、多分平らなライトがある。

 あとは、僕を覗き込むようにしてすぐそばに立っている男二人――。さっきの三人のうちの二人だ。

 彼らを見た瞬間ぞくりとした。

「ここはなんだ! 僕らをどうす――」そこまで言ってから気付いた。この白くて狭い部屋に、恩田おんださんはいない。

 目撃者の恩田おんださんを彼らが放っておくだろうか? そんなことはない気がした。

 あれからどれだけの時間が経ったのか。分からない。とにかく言葉にした。「恩田おんださんはどこだ、彼女をどこにやった! 閉じ込めたのか……? どこに閉じ込めた! 教えろ!」

 すると、僕の左隣に立っている黒いシャツの男が。「安心しろ。彼女は安全な所にいる。我々はあの子に何もしない」

「何もしない? あんなことしといて! 何なんだ一体!」

「本当だ、何もしていない。ただ、家に帰すことはできない、二人ともな」

「ふざけんなよ。何が目的なんだ」

「目的は君の――子種だよ」

 聞き間違いかと思った。「……は?」意図せず高い声。そんな声も出るってもんだ。

「聞こえなかったか? 必要なんだよ、君の精子が」

「はあ? なんでだ」

 嫌な予感がした。もしかしてあの超能力と関係があるんじゃ? そう思えたからだ。

 黒いシャツの男は言った。

「変な風に思うなよ? 単に遺伝子が欲しいだけだ。詳しく言うと――『君自身が長期的に協力しなくても、君のような人間を作っておいて俺達に協力し易い人間に育てる』ってことさ。そうすると君への負担は減る、何せ一度だけ協力すればいいんだからな、二度目はない」

「だからって。っていうかよく分かんないけど。なんだ、遺伝子が欲しいって? こんなコトをやるくらいだし色々やれるんだろ、だったらクローンでいいだろクローンで。何もさらわなくても。そもそもなんで寝てる間に――」

 この発言を止めるように、黒いシャツの男が言った。

「それはできないんだよ。君の細胞でクローンを作れる可能性はほぼない。ほかの者でも作れた試しがないんだ。こちらとしては急いでるし時間がない、だから、ほぼ不可能な手法は取れない。それと、特殊な睡眠薬を使った、そうしないとすぐになんて寝ない。その薬は強力でね。寝てる間に勝手にやるのも無理なのさ。だからこれは必然的な事態なんだ」

「ハッ、何のためだか知らないけど、話が大き過ぎるんだよ。……それに、なんで僕なんだ」

 僕はあえて可能性の一つも思い付いていない振りをした。

 すると、同じ男が口を開いた。

「もしかして分かってないのか?」

「だから何がだ!」

 僕は、認めたくないだけかもしれない。

 同じ男が続ける。「反応があったんだよ」

「は? 反応?」

 つい聞き返してしまう。

 と、やはり同じ男が言う。「日本には――『隈射目くまいめ』という秘密組織が昔からあってね、そこでは、あるオーパーツの修復と管理をできうる限り秘密裏に、代々行い続けてきた。そこで最近、やっと分かったことがあったんだよ。『あるオーパーツは、ある力の源にだけ反応し、その位置を示す機械――なのだろう』とね、そうではないかと予想された」

 そのタイミングで、僕の縛られたベッドの足元の方に立っている男が。「いいんすか? 勝手に話して」

「大丈夫だろ、ま、協力する気になってもらわないと困るからな」

「……まあ、そうっすね」と、足元の男が納得を示した。

 すると、ベッドの左に立つ黒いシャツの男が先を続けた。

「実際予想は当たってたんだよ。機械の数値らしきものは十二進数、それはなぜなのか、なぜ今も動いてるのか、何が動力なのか、素材も何もかも分からないが、とにかく、君以外にも君のような人がいて、その人物の位置を確かめ合致するのを見たからな。君のような者の位置を特定するものだと分かったんだ。縮尺率も判明した。それで分かった、新たな表示は君のマンションの位置。だがそのマンションのどの部屋か。確認は取った、盗聴器で全室」

「と――!」

「いやいや、悪いようには使ってないよ。安心していい。で……力の源の位置を把握できる以外に、その機械の機能としてはまだ使えるものがない、研究不足でね。だが今はそれで十分。君の中の――サクラと呼ばれる『エネルギーとなる物質』を観測できたからな、これはとても大きなことなんだよ」

 ――桜?

 イントネーションはチャクラと同じみたいだけど。

 ……あれ? 意味も被ってる? 関係があるのか?

 そんなことを僕が思った時、黒いシャツの男が言った。

「今こう思っただろ、『サクラって何だ、桜の木と関係が? 意味からするとヨガとかのチャクラと関係が? そういう意味か?』……どうだ?」

「まあ思ったけど」

 すると黒シャツの男は、信用を得たいからか世間話でもするように話した。

「サクラとチャクラは多分関係ない、偶然だ。樹木の桜の方は……一部は怪しいがね」

 少し笑うと、先を続ける。

「君のサクラは特殊な性質を持っている。何せ、その機械の表示の意味を我々が知る要因となった人物と君、この二人の位置しか反応機に表示されないからだ。ほかにも力の持ち主はいるが、君ら二人以外の全員の位置が表示されない。おかしいだろう? その『もう一人』と君には何かあるんだ。そうと分かっただけでも大きなことだ。特別な存在って訳だよ」

「力だとかサクラだとか……、オーパーツ? 意味が分からない」

「分からなくはないだろう、もう勘付いてるはずだ。君はある超能力を得た、だろ? その力のことを古くは『まぎうと』と呼んだ。千年以上も昔から日本のある一族だけが持つ力だ。古い書物に平仮名で『まぎうと』と書かれているのが発見されている。そんな力が千年以上も前からあった。君はその力をどういう訳か無関係な人間のはずなのに持っている、そして強大になりうる存在――かもしれない」

 黒シャツの男はそこで呼吸を整えた。

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