16-3
日曜日にはマギウトの練習をした。もう悲しい思いをしたくない、させたくない、その一心で。
かなりのレベルで扱えるようになってきた。ただ、扱えるシャー芯の本数はまだまだ少ないが……。
「アツシゲ様、少年が、妙な店の裏に入ったっきり出てきません、どうしますか?」
私がそう問うと、アツシゲ様は電話口でこう言った。「なるほど……、ならば追うな。何をされるか分からん」
言われればそれに従う。それだけで私共はアツシゲ様から蜜をもらえる。
従うのはその味を知ったからではない、アツシゲ様が気に入らない者を斬り捨てるのを知っていて、それでいいと思う者だけが残った、言わば同類、それだけのことだ。
ふと気になって、缶をぶつけられて倒れたあの三人のことがニュースになっていないかと、隈射目のパソコンルームで調べた。……事件は隠されたのか、該当しそうなページが見付からなかった。
うーん。
悩んでいる僕に、とある女性が近付いてきた。聞かれる。「どうしたの?」
彼女の胸には名札があって、そこには左雨真未とふりがな付きで書かれている。鳥居さんの部下っぽい。実際どうなんだろう。
「あー」僕は頭の中でできるだけ整理してから。「僕が警察に写真付きで通報されたっていう事件の時の、缶で昏倒させられた三人のことが知りたいんです、あのあとどうなったのか気になって。ニュースになってるかなって思ったんですけど」
「あの三人なら……亡くなったって話よ」
ショックだった。
「亡く……? え、そんな……」
「嘘って言えればよかったんだけどね」
左雨さんは僕の肩にぽんと手を置いた。そして。「気にするな……って言っても、無理な話みたいね」
そう言って手を離すと、この席から去り始めた。
でも少し歩いた所で立ち止まり、振り向いた彼女が、僕に言った。
「いつかこんなことを思い出しても、今みたいに悲しむことってそうないと思うけど、きっとそれって自然なことなのよね、次第に、あの時は辛かった、と思うだけになってく。……あなたがどうにかなってしまったらそれこそ悲しいから、思い詰めるのは他の人にとってもよくない、私にとってもね。せっかく命があるんだから、どんなことも落とし込めて……それでも責任の感じ方を間違えないで――誠実で――、まあ、亡くなった人のためを思う意味でも、いい人で居続けられれば……それが一番いいこと……だと私は思うな。うまく伝わったかな」
「……はい、大体は」
「そう、ならよかった」
そう言うと、左雨さんはまた僕に背を向けた。そして歩き出し、少し離れた斜め前の席へと。
さっきまでそこに座っていたんだろう、そちらにはドアもないし。
――僕は、全部を僕のせいのように感じていた。
黒い盾の裏に隠れさせた時、男が僕をも怖がったのか、後ろに身を引いた……、そんなことをさせないようにしなきゃいけなかった。それができなかった。僕のせい。ほかの二人も、どうにかすれば死ななかったんじゃ。そう思ってしまうが、あまりにもそう思うのは、どこかおかしいのかな。
確かに僕は軍隊の人間なんかじゃない。全部を完璧にできる訳ないのに、全部自分のせいだなんて……。でも、そう思わなくていいと思うのも、なんだか……。
一つ思ったのは――『こんな力と付き合っていかなきゃいけないのなら、もう、とことんまで付き合っていこう』ということだった。
強くなろう。少しだけでも。少しずつでも。できる限り……。それで、助けられるように……。もっとうまくできれば。先手を打って後悔しないようにできれば。全部。全部……! 少しずつ……。
左雨さんの言葉で気付かされた。誠実で……居続けられればいいと言うなら……。
心の中から泥や鎖が取り払われたみたいに、ほんの少しだけ気が楽になる。だからと言って切なさがなくなったワケじゃないけど。
「あの」
僕は礼を言いたくて呼び掛けた。そして少し近付いた。
既に座っていた左雨さんに向けて、僕は軽く頭を下げた。
「ありがとうございました」
以降は彼女の目を見て言った。
「さっきの言葉で、色々と、気付くことができて、ちょっと……ちょっとだけ、もやもやが消えたっていうか」
「そう? それならよかった」
左雨さんは、そんなの何でもないと言いそうな顔で笑った。





