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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第二章 X

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11 問題の日の訪問者

 その日の夜。

 風呂の入り方を、僕は普段と変えてみた。

 冷水で全身を濡らしたら、冷水で顔を洗い、冷水を使って石鹸水を作り顔に泡を付着させる。

 体を洗う時も、その際の石鹸を洗い流す時も冷水で。髪を改めて濡らすのも、シャンプーやリンスを洗い流すのも全部冷水。

 冷たいと言った方がいいくらいのぬる過ぎる風呂につかり、このあと入る兄や姉のために追い焚きボタンを押したあとはバスタブから出て一切温まらずに体を拭く。

 髪も体もしっかり拭いた――のは、家族の誰にも『病症を意図的に作ったのでは』と勘繰られないためだ。

 リビングは適度な温度だった。二十七度くらいか。

 風呂から出たらそんなリビングを通り過ぎ、体を温めないようにすぐに部屋へ。戻るとクーラーを利かせた。

 これでも少し詰めが甘い気がした。

 それから適当にデザインの本を読んで時間を潰したが、その際水分を取らなかった。

 あまりトイレに行かなかったし、少ししてから歯磨きをして、おやすみの挨拶。

 それから部屋に戻ったら、芯を対象としたマギウトによるテレキネシスや増加、拡大縮小、強度変更の練習をした。特に今日は強度変更の一環として、硬化・軟化を頑張ってみた。

 細長い蛍光灯のような大きさにした芯の硬度を変え、手で押さえて膝蹴りで壊れるか壊れないかをチェック。軟化させて衝撃を与えるとすぐにボロッとなるのも何かに使えそうだが、一番大事なのはどれだけ硬くできるかだ。鉄棒くらいに硬くできればいいんだけどな。

 ――あの時、石奴という男が鳥居さんを殺してしまうのを防ぐために、とっさに円盤状にした。芯の盾。あれも、ナイフの刃をこちらへ通させまいと、硬くなれと強く思って操った一本だった。

 ん? あの形状の場合、一個とか一枚って言うべき? まあいいか。

 とにかく。あれは――できると思っていなくてそれでもやるしかなくてやったが――怒りに任せて一気に念じたからできたんだろう。たとえるなら自転車を最大限以上の力で漕ぐのと同じかもしれない。思っている以上の力を出すなんて簡単にはできないことだが、ペダルに乗る力が一気に強まると車輪の回る速度が急に速くなる、そして同時に一気に疲れる。サクラへの意識の行き渡り方が強くなったことで成長速度が急加速したみたいに意外にもできてしまったけれど、身動きが……。

 多分、安定した走りでできたことではないということだ、短距離でしかできないこと、長続きしないこと……、つまり、あんなやり方に頼ることはできない、危険だ。あの時目の前が白んで、身動きできず無防備になったのがいい証拠だ。

 この力は特別。だからこそ色んな問題も抱えている。それを気にしないでいられるようにするには、佐倉守さくらもり家や組織の人とも助け合える方がいいだろう。そんな風に誰かを助けたければ、意図して、安定して、疲れずにできないといけない。

 あんな危険な状態に陥ることがないように練習しよう、僕はひたすらその想いを念頭に置いてマギウトを行った。

 そして蹴って確かめる。この強度操作による芯の硬さは、順調に増している。

 練習をしたあとは、部屋のクーラーを更にガンガンに利かせた。汗もタオルで拭かず、洗濯機に放り込まなかったTシャツ(今日一日中着ていたもの)で拭いたし、それを着たまま寝た。

 寝る時は、自分の体にタオルケットをすら掛けなかった。毛布が必要なほど部屋を冷やしているのに、だ。





 健康診断当日。

 朝の小鳥のさえずりの中で僕は身を起こした。左右を見る。視界は悪くない。

 それぞれの手で逆の二の腕を同時に触ってみた。自分を抱えるみたいに、サワサワと。体は冷えている。これはクーラーのせいか?

 関節が痛いなんてこともないし、めまいもない。吐き気や頭痛もない。腹痛もない。

 ピンピンしていた。

 あれだけやったのに、嘘だろ。くそっ。これじゃずる休みになってしまう。

 いや、意図して体調を悪くしてる時点でそもそもずるではあるが、まあそれは置いといて。

 熱もない。喉は少し乾燥している、という程度だ。

 鼻水も出てないし……一体どうすれば。どうすれば――!

 悩めば悩むほど、どうしてか興奮してしまう。自分の心音も、なぜか大きく聞こえた。

 このままじゃ僕は……。想像してしまって、それだけで身震いした。

 とにかく何かしないと、何か……。

 洗面所で水を……いや、風呂場で冷水のシャワーを……。

 色々と考えてから『ああ、その前に』とクーラーを停止させる。部屋が冷え過ぎていることに気付かれても嫌だし、効果がないなら今度は部屋を暖めて温度変化で自分を苦しめてみようと思ったからだ。

 よし、と思いカーテンを開けてから、部屋を出てリビングを通り過ぎようとする。と、母が僕を見付け、呆れた顔で言った。「あんたどんだけクーラー利かせてんの?」

 マジか、バレてた? それとも今バレた? と思った僕が何か言う前に、母は話し続けた。「部屋から冷気が漏れてたんだから。まるで冷蔵庫よ? 冷蔵庫で寝てたのよ、あんた」

 バレてたんだな、そりゃ変に思うわな――と思ってから僕は。「鮮度が保たれるね、あ、老いによかったりするのかな」

「人が心配してるってのに、もう」

「分かってますって」と冗談に終止符を打ったその時だ、体がぶるぶる震えた。「でもなんか今日、いつもより寒いよね」と言って洗面所に向かおうとする。

 が、母が引き留めるように。「ん? そんなに寒い?」一瞬、間があって。「あ! 大樹だいき、ちょっと――」

 母は突然、僕に駆け寄ってきた。

 何だ? と思っていると、顔をまじまじと見られ、額に手を当てられた。

「ちょっと心配ね」と、母が独り言を僕の目の前で。

 あ、そうか。

 この時に僕はやっと気付いた。僕は今感覚が鈍ってるんだな、その上で体は冷やされていて、それで自分に熱があるかどうか、自分では分からなかったんだ。そう思ったら、何だか段々、体がだるくなってる気がしてきたぞ……。

「体温測ってみて」と、体温計を母が持ってきた。

 受け取って脇に挟み、しばらく待つ。

 ピピピとお知らせが鳴って数値を見てみた。「あ」

「え? 何度?」母が聞いた、朝食作りの片手間に。

 僕は体温計を見せてやりながら。「三十八度七分」

「ほらあ……あんなにクーラー利かせるからあ……」

「そんな利かせたつもりなかったんだけどなあ」

 僕が首をひねりながら部屋へ戻ろうとすると、母が。「今日は休んでね、外に出ちゃ駄目よ」

「ああ、うん、まあ大人しくしとくよ。ご飯食べたら寝るわ、なんか目も熱くなってきたし、だるいし――」

「そうそう、熱があるんだから、安静第一」母はそう言って、黒い皿にトマトと出汁巻き卵を盛っていた。

 話は終わった。

 どうやら作戦が功を奏したようだ、一時は失敗したかと思ったが。

 ホッとしながら洗面所へ行き、うがいだけしてから食卓に着いた。その頃には鼻水が出始めていた。

 そこへ父が起きてきた。「おはよう」

 父に僕と母が同じ言葉を返したあとで、母は父に話した。「大樹だいき、熱が三十八度七分だって」

「なんだ夏風邪か? 体調管理しっかりしろよ?」

 父がそう言ったので、『何の事情もなけりゃ風邪なんて引きたくないしなあ』という本心から、「うん、そうだねぇ」と返事をした。素直に嬉しい言葉への。そういう意味を込めて。

 そのあとで、ぞろぞろと――兄、姉が起きてきた。

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