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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第二章 X

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10 不思議な力と健康診断

 次の日曜日にはマギウト練習場で技術を磨いた。

 その次の日。

 ホームルームで担任が言った。「えー、健康診断をー明日行いますがー、休んだら後日、各自で受けてもらいまーす。これもまた自分を見詰め直す切っ掛けなんかになっちゃったりしますからねー」

 そう聞いて思った、あ、これって大丈夫なのか? と。

 僕の体には地球上の技術ではまだ自発的な発見や生成ができていない未知の粒子が宿っている。マギウトの原動力であるサクラ。その存在を無関係の者に知られる訳にはいかない。

 多分、健康診断を行うのは、このことを知らない医師と看護師だろう。どうするか。

 えっと、さっき『明日』って先生が言ったっけ? まず過ぎるだろ、とりあえず相談を……。



 昼休みになって、みんなが弁当を食べ始めるか、購買部へ行こうとし始める。

 僕は弁当を持って屋上へ。

 そこへ遅れて実千夏みちかもやって来た。二人で食べながら話す。

 ふと実千夏が言った。「あ、ねえ、私達二人とも、お弁当を作って貰ってるけどさ」

「ん? うん。けど?」

「お弁当、作ろうか?」

 どう考えても、それは『私が二人分作るよ、それを食べない?』だ。

 え! 食べてみたい! 素直にそう思う。

 箸を止め、自分の弁当箱を眺めてふと思った。――そっか、弁当を……あ、これってデザインに似てるかも? 配膳方法というか料理の並べ方が……、それにキャラ弁なんかはモロだし。

 と、そこで思い付いた。「あ、じゃあさ、僕も作るから、交換する――ってのはどう?」

 名案だ、これは……と胸中でつぶやいた。

 やらないでいると作るのが嫌になってしまいそうだという思いも確かにあった。いつか自分で作り続けなきゃいけない時期が来る。慣れてりゃその時に困らない。まあ誰か人に強制したりはしないが。その上で自分はやりたい訳で。

 まあだけど、実千夏みちかは自分が作ると提案してきた側。『僕に作ってもらいたい』と思ってくれるだろうか。『手間を掛けさせることをよしとするか嫌うか』『実千夏だけでやりたいか』は大事だなあ。実千夏が嫌がるなら僕が昼食を作ることはしない。

「え、何それ面白そう、賛成!」

 その表情には純粋さしかないように見えた。

 よぉし、楽しくなってきたぞ。「よし、じゃあ……えっと、どうしよう。準備する期間も必要だよね、レシピ本とか色々あるし。ってことで、来週からってことで。十分練習もしなきゃね」

「ん、分かった。じゃ来週の――月曜から?」

「そだね、月曜からにしよっか。今から楽しみだなあ、実千夏みちかのお弁当、愛情たっぷりで美味しいんだろうなあ」

「ハードル上げないでくれない? まあ愛情はもちろん入れますけど?」

 実千夏は無邪気に笑ってくれた。これなら僕も提案した甲斐がある。

 あえて細かいことは言わなかった。互いの食事量なんかも、こうして並んで食べているからある程度は分かっているし、好みもそうだった。その上で楽しませてくれるだろうなという期待感がある。だからもちろん、僕も楽しませられる弁当を作ってあげたい。相手を想うと献立を考えるのはこんなに楽しくなるんだな、そんなことも思った。

 そんな昼の食事を終え、一緒に教室へ戻る。その途中で、僕が「ちょっとトイレ、先に戻ってて」と言うと、実千夏みちかは、「うん、じゃ」と一人で教室へ向かった。

 僕はトイレに入り、個室に入って少し考えた。

 健康診断に関して、今日中に檀野だんのさん(やその他組織の人に)相談できなかったらどうしよう。できなかったら……。

 いや、今はその考え方をやめよう。今大事なのはどう連絡するかだ。

 とりあえず、まずは檀野だんのさんに――隈射目くまいめの人に直接連絡する方がいいか……? と思ってから、いや違う、と気付いた。佐倉守さくらもり家の人達も何人かは僕みたいに困ったはずで、こんな時、組織に頼った可能性はかなり高い。

 佐倉守さくらもり家の誰かに連絡して組織の誰かに取り次ぎが必要ならそうする――というのができるならそれが最良だ、檀野だんのさんの仕事の邪魔にならないようにできるかもと考えると、そっちの方が格段にいいはず。

 夕方帰る時に実千夏みちかと別れたあとに相談すれば、誰かにバレる可能性は多分最も少ない。けど、佐倉守さくらもり家の人達に何か重大な用があって連絡できなかったら……? 問題の健康診断は明日――。

 やっぱり連絡は早い方がいい。

 ……多分これは要らない心配じゃない。以前は――力に目覚めていない時の身体検査では――サクラが未活動だから何も問題がなかったんじゃ? そうじゃなきゃ説明が付かない。とにかく今の僕なら検査で不思議がられてどこかに報告されてしまう可能性はある。

 僕はどうなってしまうのか。

 最悪どこかに捕まって……逃げ出すことを阻止されたり実験体にされる……?

 考えて身震いした。

 ――数秒後、個室から出た僕は、そのままトイレからも出た。

 教室に顔も向けずに、また屋上へ――。

 屋上に出て辺りに誰もいないのを確認してから、佐倉守さくらもり家の中で一番年の近い禅慈ぜんじさんに電話した。

 禅慈ぜんじさんは数コールで電話に出てくれた。「もしもし、どちら様でしょうか」

「あ、あの、僕です、大樹だいきです、藤宮ふじみや大樹だいきです」

「ああ! 大樹だいきくんか。あれ? 誰かに番号教わったの? そういえば教えてなかったよね」

「ああそれは、檀野だんのさんから」

「そうだったんだ、なるほどね」

「あー、それで、その……、禅慈ぜんじさん。明日、僕、健康診断を受けることになってて困って――」

 僕が聞き切る前に、禅慈ぜんじさんが言った。「ああ、それね」と。

「何か知ってるんですか?」

僕が問うと。「え? あー、あれでしょ? 受けたら駄目な検査はあるかってことでしょ?」

「はい、そうなんです、それなんです」

「あるよ、受けちゃ駄目なの」

「――! やっぱり」

「でも、それなら俺じゃ相談に乗れないよ、記憶違いもあるかもしれないし、検査の種類にもよるかも。俺が相談した人に連絡取ってみるから、その人から電話を受けてよ、その方が確実だよ、その人、あの組織内の医療班らしいから」

「分かりました」

 確かに、禅慈ぜんじさんが受けた検査だけを僕が受けるかと言われればそれは微妙だし、専門家のお墨付きがあるならそれが一番だ。

「じゃぁ一旦切るね」

「あ、はい」

 禅慈ぜんじさんとの通話が切れる。

 そして一分くらいが経ってから再度スマホが鳴った。それに出る。「はい」

 相手の声。「あ、もしもし大樹だいきくん?」

 女性の声か、と思った。そういう男性もいない訳ではないだろう。が、多分、女性だろう。

 彼女が言う。「健康診断について聞きたいんだって?」

「はい、そうなんです、僕が受けたらまずいものってありますか?」

 すると。「うん、一つだけある。……X線検査。それだけは大問題ね。サクラが体内を循環してて……映って見えるの。ちょうど、長いことシャッターを開けて取った光の線の写真みたいにね。理屈はそうらしいけど、見え方からすると、造影剤を入れた血管みたいに、とも言い換えられるかな、まあ少し違うけど。……ああ、ただ、大丈夫よ、サボってもらえれば」

「サボ――! って言ったってそれ――」

 言葉が詰まってしまう。改めて言う。「どうやってサボれば」

「さあ、そこはあなたが考えないとね」

「血液検査もやるんです、うちは珍しいみたいなんですけど、それもやっていいんですか?」

「うん、いいよ。抜き取られてある程度時間が経つと、血に混じっていたサクラの反応はなくなるの、空気中に霧散して消えてるようなもんなのよ。物質をすり抜けるガス状みたいになって薄く飛び散る。で、空気中の物質に反応して、サクラそのものではなくなる。たとえば酸素や窒素になる。そういった形で消えるって感じかな、そうなってからだとマギウト関連の物は何も検出されないの、だから血液検査は安心して受けていい」

「血液を取ってから検査するまでは絶対にそれくらい時間が経つってことですか?」

「ええ、そうね」

「……そっか、それなら――」

 僕はこの高校で実施される検査全てについて教え、確認を取った。

「うん、尿検査も心配しなくていいよ、血の場合と同じようになるから。今の情報から心配なのは、X線だけね」

「X線だけ……」それは僕の独り言のような呟き。「問題はそれをサボる方法……」

「というか、全部サボってもいいのよ? それに、その方がいいとも言える」

「あ、そうか、丸々サボればどれが特に嫌だったかをぼかせる……」

「そういうこと。そのあと学校からの指示で診断書を提出しなきゃいけなくなったら、病院で検査する。――佐倉守さくらもり家なら、私達が全ての検査をして、X線写真だけ別物にして、それを提出するって形にしてるわ、必要ならね。それならどう? あなたの秘密はちゃんと守られるわよ」

 私達が、というのは、組織が、ということだろう、願ってもない。「じゃあそれでいきます。ほかの検査も必要になるので、そっちもお願いします」先生は確かに、『休んだら各自で』と言っていた、だからこその言葉。

「オッケー、じゃあ明日、理由を付けて学校を休んでね。検査はいつ頃がいいかな?」

「あー、じゃあ――サボる理由によっては……やべ、どうするかな……――、まあ、即日は無理かもしれないので、落ち着いたら連絡します」

「分かったわ。じゃあまたその時にね」

「はい」僕がそう言うとすぐに電話が切れた。

 よし、早速この番号も登録しておこう。スマホを操作し……登録名をどうしよう、と思った、そういえば名前を聞いてない。とりあえず『医田いださん』とした。

 禅慈ぜんじさんに掛け直し、「ありがとうございました、無事相談できました」と礼を言った。

 すると彼が。「おう、それならよかったよ、じゃあ健闘を祈る」

「はい、頑張ってサボります」ここだけ聞いたら訳が分からない――と、つい、ちょっとだけ笑いをこぼしてしまう。

 さて、用は済んだ。

 アプリの並ぶ画面に戻したスマホをポケットに仕舞う。それから教室へと歩き出した。




 屋上の出入口とは正反対に位置する壁には梯子はしごが取り付けられていて、そこから登れるようになっている。

 私はそこを登って屋根の上のタンクの陰で寝ていた。ストレスの溜まる嫌な生活から逃れて、ここでだけはリラックスできる。

 そんな安眠もどこへやら。さっきの会話は一体?

 つい呟いた。「X線だけ? サボる……?」

 そして思い出す。「確かあれ、三組の……」

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