09 その事件の真実
その日の学校――、まず、朝は色々と話題を呼んでしまった。
「まあそのことはほどほどに、いつも通りにしてよ」と話すことで大概その場は落ち着いたが、心は簡単には落ち着かなかった。
僕はあの組織のことをたまに考え、授業中ぼうっとしてしまった。身の危険のためだ、これからのため、そりゃあ考える。そして「おいこら藤宮ぁ」と叱られる、まあ授業中に心ここに在らずという状況だから当然だが。
帰りに実千夏に言われた。
「ホントびっくりよね、付け狙われるなんて。前のアレは多分もう諦めてそうだし、似てる別人であれば誰でもいいと思うし……、昨日のは違う犯人なんじゃないかなって……。でもどうなんだろう。というか、何なんだろうね、ここ数日、本当にさ。私、大樹のことせっかく好きになったのに、いなくなっちゃうんじゃないかって、怖かったよ」
それを聞いて安心させたいと思った。でもどう言えばいいんだろう。頭の中で答えを探す。
そういえば実千夏には一緒に誘拐された件ですら本当のことを言っていない。
確か『どこぞの社長と結婚したい人が似た人の遺伝子で誤魔化して政略結婚するための計画だった』という話に檀野さんがしていた。檀野さんもその家系の身内で、その策に出た女性をよく思っていない、だからこそ阻止するために動いていた、ということにしていたはず。身内って何度か言われてたのは多分そういう意味だよな。
ボロを出さないようにと思いながら僕は言った。
「確かに怖いね、ぞっとするよ、気分も暗くなる。こんなことが続くと……とんでもなく嫌だ」
ハァと、つい溜め息も出る。
人の気持ちに配慮したくもあるが、これは他人事じゃなく僕の身の安全の話でもある。僕が死んでしまうこともありうる……そのイメージが、脳裏に恐ろしいほどへばり付く。
「なんでだろうね、不運なだけ? 不幸が続いてるだけ?」僕は確率の問題だと思わせたくなった。「うん、多分そうだよ、不幸が続いてるだけ。こんなことそう何度もある訳ないんだから。もうきっとないよ、逆に近々いいコトあるかもっ」
「だといいけど」そう言う実千夏の顔には、さっきよりは不安もなさそうだ。
よし、これで少しははぐらかせたはず。どうせなら明るい顔をしてほしいし、このくらい言わないとな。
そのあと色々な話をした。学校のことや部活のこと、ほかにも色々。
僕はある時こう聞いた。「土曜日また来る? クライミング。ほかのことをするのでもいいよ。どうする?」
「日曜日は?」
「それは……無理かな、ちょっとバイトがあって」
「どんなバイト?」
「んー」マギウト練習場にいたいが、それに関すること全てを言えない。嘘を吐くしか。「危険なバイトだよ」内心ヒヤヒヤだ。
「き、危険……? どういうやつ?」
「あー、その、仕事の現場が、火花で危ないってだけ」
実千夏は「火花?」と怖がりながら疑問に思ったようだった。「ちょっと見てみたいかも」
「んー」僕は頭を掻いた。どう言えばいいかなあ、と思ってから。「バイトの現場に来てほしくないって
少し思ってる。……その、悪いとは思うんだけど、でも……実千夏をほかの男の人に気に入られたくないっていうか」
「え」
「男だけの現場だしさ」今の僕は、バイト仲間を信用していない人に見えるかもしれない。まあ、中には酷い人間がいてもおかしくはないけれど、それだけで来てほしくない理由にするのは弱い、よな……。
そう思って更に考えた。そして思い付いた――が、今思い付いたのだという印象を持たせないように、顔に出さないようにしながら。「それに、自慢するみたいになっちゃうと思うし、そういうのも、なんか違うかなって」
あくまで誠実な人間でいたい、ということだった。
本心ではある。内容は嘘だけど。だって本当に好きだから。そして人として正しくありたい。一部真実だからこそ嘘が隠れる、これは白い嘘だ、そう信じた。
実千夏がこれで顔を赤らめてくれれば――、そして了承し、日曜日は会わないと言ってくれれば、日曜日には、僕がマギウト練習場にいることができる。僕がマギウトを学ぶことは誰のためにもなる、もちろん実千夏のためにもきっとなる、家族のためにも。もしものことが起こっても、その時対応できる使い手でいたい。そしてそれを実千夏が知っているべきじゃない、関わらせるべきじゃない、そう思った。
「分かった、じゃあ日曜日は夜とかに、電話だけするね。デートは土曜日」
「うん、それならオッケ」
ごめん実千夏。
そう思いつつ駅まで隣を歩く。途中、ほかにも色んな話をした。どんな映画が好きかとか、普段何かゲームをするのかとか、そんな普通の話を。





