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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第一章 始まりの受難

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08-2

 鳥居とりいさんは言った。

「学校や店もだが、その他あらゆる施設の情報の収集、特に電子情報の収集は俺の専門分野の一つだ」

 なるほど……。そう言えば鳥居とりいさんは昼、パソコンルームにいた。そういうものが得意なんだろう。そう思って制服を受け取る。

 まずはボロボロの靴下を脱ぎ、手渡されたものの中から、新品を少し使ったような色合いの靴下を探し、それをいた。

 次はズボン。ジャージを脱いで後部座席の真ん中に置き、もらったズボンを穿いていく。

 穿き終わると今度は上着。それからベルト。

 サイズがぴったりなのを感じてから、生徒手帳やハンカチ等の移動。

 破れた服から新しい服へ。ジャージはサブバッグへ。

 よし。と、靴をいたその時、――それまで何か考えていたようだけど、その考えをやめて――鳥居とりいさんが僕に聞いた。

「ところで何に変身したんだ?」

「実は、なんでなれたのか僕にも分からないんですけど、それが……ルオセウ人なんです」

「ルオセウ人――! はぁ~っ……」

 鳥居とりいさんが呆れたみたいに驚いたあと、運転席からも声が。「そりゃあ女も腰抜かすわな、地球上に存在しないからな、あんなに青くてデカいのは――未確認生物でしかない」

 その時、当然か、僕はぞくっとした。「そうですね」と鞄を開けて自然にその中を確認し、二人に見えないように筆箱の中からシャー芯のケースを取ると、言ってみた。「あんなに青くてデカいのは、確かに怖い。僕も……逃げたくなるかも。……でも、なんで僕が変身したのもデカいって――」

 すると、運転席の男性が手に光るものを持って勢いよく振り向いた。

 光るものはナイフにしか見えなかった。それを持つ手を男性は既に振りかぶっている。そして鳥居とりいさんの首元にまっすぐ突き刺そうとしている。

 一瞬混乱してしまう。その混乱を振り払うように。「くっあああ!」叫びながら、僕は目一杯にサクラを『込め』、シャー芯を瞬時に目の前に出し、その芯を円盤状にした。それを鳥居とりいさんの前に動かす。

 それは、言わば黒い盾だ。そして、切り付けられてもいいように、その『芯』に、硬くなれと念じた――。

 黒い盾にナイフが刺さる――かと思いきや、キィンという音がする。刺さらなかったが故の音だ、金属に弾かれたかのような。

 瞬間、運転席の男は、これでは駄目だと思ったのだろう、そのナイフを引き、すぐに、黒い盾と運転席の間から差し込んできた。ちょうど鳥居とりいさんの膝辺りへと狙いを変えてきている。

 ――! もう一本!

 全ての判断は一瞬だ。僕はシャー芯を増加能力にてケースの外に出し、拳大にして素早く発射。目標は運転席の男性の側頭部。黒い拳大の弾丸が、彼のこめかみに当たる。と、彼はナイフを後部座席の床に落とした。

 直後、僕は全身にだるさを感じた。しかも目の前が急速に白んでいった。辛うじて、盾がフッといつもの芯に戻り床に落ちそうになるのは見えた……。芯が小さくなった段階で僕の目にはもう……見えてはいなかった。

 操作できなくなった。サクラが足りない症状の一つか。でも、今までこんなことにならなかったのになぜ。そう言えば練習の時は疲れたらすぐにマギウトをやめてる、今回はそれ以上に使い過ぎたってことか。

 今頃、黒い弾丸も、普通の芯になって車内のどこかをコロコロと転がっているはず。

 鳥居とりいさんの声がした。「何だ今のは! 何だ一体!」

 目の前が次第に見えてくる。そんな中、僕は必死に言葉にした。「こ、この人が……そうだってことです、少なくとも裏切者! 多分この機会に僕に近付こうとした!」うまく発音できたかは怪しい。感覚もおかしくなっていたから。

 そんな状況だったが、「そんな! 嘘だろ!」と鳥居とりいさんが言うのは分かった。

 運転席の男性は、「うぅ」と呻いて打撃を受けたこめかみに手を当てた。その直後、ガチャッと音が。

 ハッと気付く。「出ようとしてる! 鳥居とりいさん逃がさないで!」やっとハキハキと出た声。

「ああ!」と、後部右のドアから出た鳥居とりいさんが運転席のドアを外から押し、男性を出られなくした。

 すると、僕が芯を当てた側頭部を――痛むからだろう――手で押さえた格好で、男性が。「お前らはまるで分かってない! あの力は絶大だ! ならあれを増やすべきだ! いつかそれが世の中のためになる! 何でもできるぞあの力があれば! その準備が必要なんだ!」言いながら、男性は後部の床に手を伸ばし始めた。

 落としたナイフを取ろうとしてる――! 僕はとっさにそのナイフを取り、男性から遠ざけた。そして怒りを爆発させた。「ったくふざけんな! それっぽいこと言う癖に何なんだよコレは! こんなんで信じられるワケないだろ! どうせなら真っ当な方法でやれよ! できる限り!」呼吸を整えて、また。「僕に何かしてほしいなら言えばいい! なのに強硬するからこうなる! 疑わしい所を作ったからだ! そうだろ! 疑わしい奴の言葉なんてないのと同じだ!」

 僕はやはり震えていた。今の怒りもそうだが、恐怖はずっとある。

 こいつは鳥居とりいさんを殺そうとした。そもそも僕をさらわせた張本人だろう、僕の『かまかけ』に乗って『バレたらやるしかない』と殺す行動に出たのだから。

 ルオセウ人にも大小様々いるだろう、僕が変身したのが大きいとは限らないのに、彼はまるで見たみたいに『あんなに青くてデカいのは』と言った。『青くて異様なのは』とかならまだ分かるが、デカいとまで分かっている、その意味は……『彼が裏切り者で現場の情報を伝え聞いていたからだ』と、そう思えたのだ。

 もし違うなら彼は否定すればいい。否定されれば僕だって彼を裏切者だと判断し辛い。が、彼は暴挙に出た。それがもう全てを物語っている。

 誤魔化ごまかしてもボロが出るとでも思ったのか? とにかく彼自身、この現場でなら、鳥居とりいさんを殺せばあとはどうとでもなると思ったのかもしれない。

 僕はもう、今日の分のサクラは使い果たした。もう無理だ、何事もなく終わってくれ。そう思いながら、開きっ放しの後部右のドアの外に向けて。「鳥居とりいさん、この人の逮捕を――」

「ああ分かってる」

 鳥居とりいさんは運転席のドアを開け、その席にいる男性をシートベルトで縛った。そして誰かに電話。

 そのスマホを鳥居とりいさんがポケットに戻して少し経つと、体格のいい四十代くらいの黒髪男性がマンションの駐車場の方から近付いてきた。

 通りに停めてあるこの車に触れながら、車内を確認した彼が、鳥居とりいさんに聞く。「本当なのか」

「ええ。ウリュウさん、手錠あるでしょ、手と足で掛けちゃってください」

「よし、任せろ」



 そんなこんなで、運転席の彼は裏切者として捕まった。警察に、ではなく、隈射目くまいめに、ということになるのだろう。

 僕はもう車外に出ていた。

 後部座席には捕まったあの男。運転席には代わりに鳥居とりいさん。助手席にウリュウさんとやらが座っている。

 男性が手にしないように僕が持っていたナイフも、今はもうウリュウさんの手に。

 そのウリュウさんが運転席側に少し体を寄せて、僕に声を掛けた。「おい、ええと、大樹だいきくんだっけ?」

「はい」

 僕が身を入れて聴こうとすると。

「これからコイツを護送する、君はもう帰れ。家族に会ったらその時は、『誰かに付け狙われてて家に帰れなかった』みたいに……とにかく全貌ぜんぼうを隠して伝えるんだ。いいか? 詳細を言わないようにできるか?」

「ええ、大丈夫です」

 僕の返事を聞くなりウリュウさんは数度うなずき、助手席にゆったりと寄り掛かった。

 そしてあとは、周囲を気にしているだけのようだ。誰にも見られていないし聞かれていないよな? ということだろう。この車のサイドの窓には黒いフィルムが貼ってあるし、時間のせいか人通りもない。きっと大丈夫だろう。念には念をというか、癖で車外を見ているのに近いのかもしれない。

 ウリュウさんがそんな風にしている横で、鳥居とりいさんが僕に。「忘れ物はないな」

 大丈夫だ、鞄も靴も、制服も、ポケットの中身も、全てそろっている。「はい」

 すると鳥居とりいさんが。「じゃ、あとは……誰も怪しい人が君の家に入らないように、『うちの者』に見張らせておくから」

「はい」そう返事をしたのに、しばらく考えてしまった。本当にそれでいいのかと。何せ、裏切者が一人なのか、それとも……、ほかにいるかも分からないから……。

 まあでも、見張ってくれるのなら安心か。そう思って告げる。「……そうですね、分かりました。じゃあ、また」

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