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ブルーピーシーズ ~不思議な力が発現し子種や命を狙われ迷いの中で生きた僕の半生と関わる人々の生き方~  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)
第一章 始まりの受難

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05-3

 居那正さんは言った。

「ただ、君がどうして、というのがまだ分からないんだよねえ」

 そうだ。血のせいだとしても、この一族と関係があるのか、それとも関係ないのか。これは小さな違いに見えて、実はとても大きな違いなんじゃ……?

「とにかく色々と……調べる前に聞くけどね、君の親の、どちらか片方の祖父や祖母に会ったことがない、なんてことはないかねえ」

「あ、それなら、父の祖父母には会ったことがありません」それは事実だった。

「聞いてみたことはあるかい? その理由を」

「ああ、はい。父は孤児だと言っていました。物心付いた時から親を知らなくて、孤児院で育った……って言ってました」答えてから呼吸を挟んだ。「母方のお爺ちゃんとお婆ちゃんには毎年夏に会ってます」

「ふむ。そっちの家系は調べてもあまり意味がなさそうだねえ、父方かなあ……、可能性がない訳じゃあないだろうけど――。ふむ……。君が捨て子だった、という可能性もなくはないが……」

「…………」可能性の話だとしても、あまり考えたくはなかった。アルバムに僕が産まれた頃の写真はあるはずだが、それがもし僕を気遣っての偽造なら……?

「ま、それはさておき」という声が聞こえ始めたのと同時に僕も声を発していた。「ほかに僕が知って――」質問をやめるのも何なので続けた。「――おいた方がいいことってないんですか?」

「……そうだね、マギウトの詳細について教えるよ」

 来た! あのシャー芯が増える能力のほかに、僕には何があるのか。それを学べば『あんな目』に遭いそうになっても何とかできるかもしれない。

 僕が興味を示すと、居那正いなまささんはすぐに古書とイラストをバッグに戻し、同じバッグを漁った。取り難い位置にあったのか、ゴソゴソとしたあとで、一振りの刀を出してきた。小太刀だ。

 護身のためにすぐに出せるという形にはしていないらしい、逆に奪われないようにするため?

 所持は認められているんだろうか。まあ多分、こんな特殊な存在の一人が、支障が出る物を持つなんてことは――。

 と思っていたら、認可状のようなものも出てきた。――やっぱりそうだよな。

「私ぁ小太刀を操るマギウト使いでね。こうやって浮遊させたりもできる」

 彼はそれをやってみせた。

 こういうのは何度見ても不思議だ。どうなってるんだろう、これ。

 そう言えば『あの現場』で扇子を念力らしきもので動かした女性もいた。あれもこういうことだったんだ。

 じゃあ僕も? 僕の場合、芯を浮かせられるってこと?

「あの――僕はシャープペンシルの芯を操れるんです。あ、念のため今日持ってきてまして」

 ポケットに手を突っ込んで芯のケースを取り出したら、それを一本外に出し、念じた。すると増えた。

 今目の前に……ケースの中にあるのは十本くらい。テーブルに置いたのが一本。その一本が二本に増えたという状況。

「なるほど。ちょいと、ちいちゃいねえ」期待を外れた感じらしい。

「あの、小さいと何か……?」おずおずと聞いた。

「拡大化にサクラを食っちゃうんだよねえ」少し残念そうだった。

 そうか、大きな物を動かすだけよりも、サクラの消耗が激しいのか……?

 少しショックだった。

 じゃあその分、頑張れば! と思ったけれど、同時にこうも思った、『それは多分、実力の差があまりにもある二人が同じ練習をすると追い付けないような問題をはらんでいる』と。つまり、革新的な練習が必要になる。そんな都合のいいことなんてそうそうない。

 それに僕は、その道にどっぷり浸かりたい訳でもない。

 まあそんなもんだろう、別にいい。

 居那正いなまささんはそんな僕の想いを知ってか知らずか言葉を選んだようだった。

「じゃあね、まずはどんなものであるのか、全ての能力を説明するかね」

 そこに僕の感情を推し量るような言葉はなかった。逆にそれが配慮であるように思えた。

「お願いします」

「うん。まずね、マギウトは、操作と付与をするものなんだ」

「操作と付与……」

「そう。まず一つ。念力によって対象の存在する場所を操作すること、物体操作をすること、これはいわゆるテレキネシスと呼ばれるもの、なんでしょ?」

「ああ、そうですね」

 漫画や小説、映画なんかでたまに見掛けるやつだ、テレキネシス。まあサイコキネシスの方が馴染みはあるけど。

 ――そうか、扇子を操った女性がやっていたのがそれか。

「操作能力としての二つ目は、対象の大きさの操作、これは巨大化や縮小、伸縮だとか呼んでるよ、一方向にだけ大きくすることもできる」

 そこまで聞いて思った、念力もそうだけど――大きさを変化させてしまうなんて、それってどういう理屈なんだろう、と。

「不思議そうだねえ」

 居那正いなまささんは僕が何を考えてるのか分かったみたいだった。

「念力で動かしたり、体積が増えたり……、こんなのは物理法則を無視してるよね。でも、それを可能にするのがサクラなんだよ、君の体内にもあるエネルギー、その秘密は、何にでも変わる粒子らしいんだ。でも、私らの体内で作られるもの以外、今の技術では生み出せない。まあその粒子が何にでも変わると言っても、マギウトの対象に、もしくはその対象に変化をもたらす何かに、という限定的なものでしかないけどね」

 なるほど、少しだけ納得がいった。まだ何かの作品の中みたいな実感しか湧かないけど。

 居那正いなまささんは続ける。

「操作能力の三つ目は、対象の強度の操作。軟らかくして積んでクッションにしたり、硬くして盾にしたり。これは硬いか軟らかいかだけだね。操作能力の最後の一つ、四つ目は、対象の数の操作。つまり、君がさっきやったやつだね」

「数の操作……、ってことは、減らすことも」

「そうだね」

 なくならせることまでできるなんて。ということは、サクラは物質を一時的に巨大化させたりすることもできながら、対象を風化させる反応まで……? シャー芯で言えば、炭素は……ガスにでもなるのかな? そういえば二酸化炭素がCO2って表記だな、Cだから、酸素の代わりみたいに合わさって消えてなくなる変化はありうるのか? そうさせる『こともある』のがサクラ……ってコト

だよな、この説明によると。

「でね」

 話はまだ続くらしい。きちんと耳を傾ける。

「ほかにも、『役割の付与』――という力もある」

「役割の付与?」

「そう。付与の能力の一つは、刃物化だ。つまり、操作の対象物を組み合わせて刃物に似せたり、もしくは平らにしたりすれば、刃物の性質を付加できる状態になる、そこにサクラを込めると、まるでよく切れる刃物のように働く。これは割と便利で、薪割りなんかにうちの人も利用してるよ、使い方を誤ると怖いけど、怖いのは、まあ、包丁や斧と一緒だね」

「へ、へえ、刃物化……」

「そう。刃物の役割を付与している、ということでそう呼ぶ。それと、あと一つ、役割の付与の力がある。それは『ゲート化』だ。君なら、芯を門状に組み合わせて複合的に『付与』する。『お前は門だ、ゲートであれ、場所と場所を繋げろ』とね」

「え、それってつまり……、通ったら別の場所、ってことですよね?」

「そうだね、そういうこと」

 驚いた、そんなことまでできるなんて。

「ただし、その目で、肉眼で、見たことがある、行ったことがある場所じゃないと行けないみたいなんだよね、不思議な話だけど」

 それはつまり、繋ぐってことは、先にも門ができるのかな……。門Aに入ったら門Bから出てくる、あれ? 凄いじゃん――ってのがこの瞬間移動のはず。だからこそ、先をイメージできないと駄目ってことか……? でも、かなり遠くだと無理なんだろうなあ……。

 その時居那正いなまささんが言った。「遠くに行く時に便利だね」

 できるんかい! 思わず心の中で突っ込んでしまった。

「どのくらい遠くまで行けるんですか? そのゲートで――」

「ん、まず、私ぁ試したことがあってね――まあ先人もやったことだが――、北海道から沖縄へは行けなかった、ゲート化されなかったんだよ。その距離だと何度やっても成功しない。東京から北海道へは行ける。ちなみに、隈射目くまいめは時を経るごとに支部を増やして――昔は東京にしかなかったが――北海道、山形、滋賀、岡山、高知、福岡、沖縄にある、だったかな、多分合ってる。その支部のゲートルームに繋げようとして確認したんだ、部外者に見られちゃあ困るからね。で、徐々に距離を伸ばして――どんなに練習しても、どんなにサクラを消耗しても、北海道支部から岡山県支部までくらいの距離、それが限界だった。誰にとっての最大距離もその程度だろう、そう思っていいと思うよ」

「なるほど、そのくらいの距離……」

「そう、だからこそ、ルオセウ人は、ゲートでルオセウに戻ることができなかった。私もこの説明を私の……祖父から聞く前は、ゲートで帰ればいいじゃないか、と思ったんだがね、それができないから故郷を想うことしかできなかった、そういうことになるよね――あ、燃料もなかったみたいだしね」

 そうか……。

 改めて、辛かったんだろうな、と思った。「なるほど、そうだったんですね」

「ちなみに言うとね、うちの実家、長野だけどね、私ぁゲートでここに来てるんだよ。何十回も練習して距離をのばしてからやっとできた。まあ、それももう、何十年も前のことだけど」

「ん? それって凄く時間が……、できるまで何年も掛かるってことですか?」

「そうだねえ」

 マジか。ふむ。

 にしても現象が現象だ、凄過ぎる。それだけサクラには凄いエネルギーがあるってことかな――。

 と、その時、居那正いなまささんが「さて」と手を合わせた。

「君が知るべきことは、これで全て教え終えた。じゃ、私ぁもう帰るかね」

「あ、はい」

 そのタイミングでドアが開いた。檀野だんのさんだ。戻ってきて僕に。「カード、作ってきたぞ、大樹だいきくんのはこれ」

「ありがとうございます」受け取りながら。

「そうだ、ゲート化を覚えたら直接来ていいからね、ここに」と、檀野だんのさんが言った。

「あ、はい」そうか、ゲートを作れれば一歩で来れるんだ。

 直後、居那正いなまささんが言った。

「そうだ、最後にマギウト練習場に行こうか。その近くに、ゲートで繋いでいい場所があってね」そこで言葉を切ると、居那正いなまささんは立ち上がった。「ああ、さっきも言ったゲートルームというのがそこでね」

 そう言われて、僕は、あ、と気付いた。ゲートで繋げる空間を決めておかないと周りを巻き込んで危険かもしれない? だからそういう部屋を作っている? 多分そうなんだろう、なら、僕は確かに見ておく必要がある。そう思ってついて行くことにした。

「じゃあ檀野だんのさん、ありがとうございました。今から練習場に行ってきます」

「おう、俺もここでの仕事に戻る。帰る時は普通に来た道を戻って出ればいいからな。ああでも、梯子はしごを登ったあとの裏部屋では、グリンモントの店員に電話を掛けなきゃいけない、それだけは気を付けろよ」

「分かりました」

 僕がそう言うと、居那正いなまささんが歩き出す。

 そういえばと思って聞いてみた。「檀野だんのさんって、この組織で、本来どんな仕事をしてるんですか?」

 檀野だんのさんは言った。「変装と交渉術。外部の人間と会って話すのは俺が一番多いと思うよ」

 そうか、それで。そう思ってから、「あ、じゃあ行ってきます。また」と、居那正いなまささんについて行った。

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