40 危険を冒す可能性
ヴェレンさんが電話をしたあと、どこかからこの第一会議室にイチェリオさん、シリクスラさんが帰ってきた。一緒に歌川さん、右柳さん、嘉納さん、奏多さん、舞佳さんも。
彼ら全員にヴェレンさんが今しがた知ったことを話した。
すると、ここのリーダーである嘉納さんが。「分かりました。こんな話にでもなれば連携を取ろうとは思っていました。長である私が行きましょう」
そうは言っても、と。私は一つだけ悩んだ。それこそ対策本部と我々がどう接触を取るべきか。
まず、以前もこういったことで(私の部下や大樹くん一家を探す時に)話したことがあった警視総監に電話をしてみるか。
「もしもし――」
この件を話すと、警視総監は言った。「わ、分かりました。では……総理に直接話しましょう」
……一時間後。
正装した希美子さんのタオルゲートを通って、私はとあるホテルの部屋に移動した。
その部屋には警視総監がいた。彼が言う。「や、今日はまたお綺麗な方と。もしや彼女も――」
「ええ。マギュートという力の使い手です。他言は無用です」私が人差し指を立て、口に当てる。
「ですな、当然、混乱は困る」警視総監はそう言ってから。「では、移動しましょう」
警視総監は警備を付けていた。屈強な男性。その者と共に部屋を出る。その部屋は一〇〇五号室だったが、そんなことはどうでもいい。大事なのは行く先だ。
廊下を歩いてエレベーターに乗り、一階へ。そして歩いて外にまで行くと、警視総監はとある車の後部座席に乗った。私と希美子さんもそこに。
「さあ、頼むよ」警視総監が言った。
一緒について来ていた警備の者が運転し、どこかへと車を向かわせた。
途中、警視総監が話を振った。「実際、彼女らはどういう方なんですか?」
向かい合わせに座ることができる大きな車内で、私は考えた。
今回の事件については、私達以外にとっては想像もできないようなことだらけ。仲間として信ずるべき相手の頭に変な想像がこびりつく前に、色々と知らせてはおくべき。
話そうと思ってから核心を話すまで――彼女の話になるまで――、少し時間が掛かったのは否めない。
とにかく話し終えると、『フジミヤダイキ』についても聞かれたが、私は話すのを拒んだ。「それは到着してからの会議でお願いします、私も二度手間は疲れますのでね。別の話にしましょう」
我々の組織・隈射目の話くらいならした。ついでに、最近は休みにどうしているか、今の気分は、というくらい。
運転中、どこかの門の前で、警備が我々の車を止めた。そして何かのリストと照らし合わせた。警視総監が総理に電話をし、対策本部の会議に参加することになっている、そのリストを確認しているのだろう。
通された先で車が停まった。
降りて確認する。
目の前にあるのは、どうやら総理官邸。対策本部を、となればやはりそういう所か。
前例のない非常時ということで全く別の場所になるかもしれないとも思ったが、そうならなかったのは、恐らく、『対策本部を何者かに狙われた場合にその場所近くにいる者が巻き添えを喰らうのをできるだけ防ぎたい』、そんな思いが少しでもあったからだろう。どうせ喰らうなら我々だけで。もし破壊されれば、その時はどこか別の場所で開くしかないが。それでも無関係な者があまりいない場所にするだろう、恐らくは。
官邸の中に入って通路を歩く。SPだらけの中、とある部屋の前で立ち止まる。
そこへ入る。
ここでなされることを秘密にされた会議。その場へ私達が到着したことを受け、近くにいた男性が私達を席へと案内した。
ある時、会話が聞こえた――というより、始まったと言うべきか。
「さすがに眠いね、非常時だから仕方ないが」
そう言ったのは、机に置かれた名札と顔からすると――防衛大臣のようだ。
「夢であってほしいが、夢を見てしまうことになりますか」と、一時の笑いを起こしたのは、ここに呼ばれた警察庁長官であるらしい。
「はは、そんな事はない方がいいですが、疲れていてはどうしようもありませんよ」これは内閣危機管理監。
うなずきだけを見せる者がいた。官房長官だった。
この面々を前にどこに座ればいいのかと見ながら案内され、『専門家』とだけ印字された名札が三つ並んだ所の前で、手でどうぞと示された。
専門家用の席……その三つの席の中でなら適当でいいということであろう。それならと私はそのうち真ん中に座った。
私の右に警視総監、左に希美子さんが座ってからまた数分が経った。
何やら機材の準備がやっとできたようで、持ってこられたモニターに総理大臣が映った。
その際に、危機管理監が号令を掛けた。「では会議を始めます。まずは専門家の意見を――」
「それよりこれは非公開ですか」ふと防衛大臣が言った。
すると総理が。「そうです、非公開の緊急会議です。取材陣もその機材も入れていません。記録係にも口外無用となっています、そのはずです」
そのあとで、官房長官が口を開いた。「どこかから情報が洩れ、ルオセウ人という者達の過激派に渡れば、我々の作戦は台無しにされ兼ねません。それを防ぐためには当然ですね」
防衛大臣は眉に少々しわを増やした。「……確かに。それに、ほかの国の動きも気になります。まあ非公開にするだろうとは思っていましたよ、しかし、確認せずに進める訳にも行かないでしょう」
「そうですね、慎重で何より」官房長官がそう言って私と希美子さんに目を向けた。
誰かの強い溜め息のような音が聞こえた所で、警察庁長官が。「ところで彼らは何の専門家ですか。緊急ですしその説明の用意ができなかったのも分かりますが」
警察庁長官は、そこで一旦深く息を吸う。と、また。「そもそもなぜ警視総監とここへ来たのか。どういう繋がりですか」
私は立ち上がった。「わたくし、嘉納丑寅と申します」
この中に終始無言で、今まで特に反応もない者がいた。副総理だ。彼が言う。「総理から聞いています。私から説明しましょう。お座りになって結構ですよ」
私が座るのも待たずに、副総理が教え始めた。
「彼は、マギュートという特殊能力について熟知していて、ルオセウ人の血を分けた末裔である日本人と知り合いだとか。彼自身は日本を影から支えてきた特殊組織の一員で、現在の当主。その特殊組織は、ルオセウ人の血を引く佐倉守という一族の協力を得たり、その代わり協力したりといった関係だった。ゆえにこの能力を知っていたということです」
「まさか。昔からあのような力があったと、そういう訳ですか」防衛大臣が聞いた。
私は二度小さくうなずき、答えた。「その通りです」
「警視総監はこのことを知っていたんですか?」強く聞いたのは警察庁長官。
これにも私が。
「先代当主の時から警視総監は既に組織をご存知でした。私はそのことを知っていたので最近でも彼の協力を得られましたし、実際ご協力頂きました。ある者の犯行を止めるために。先代ともそのような協力関係だったはずです」
「ええ」と警視総監がうなずいた。「まあ知らないこともありましたが」
そこでまた私が。
「今日は政府の対策に進言したいことがあり、どなたかにご連絡をと思いまして、繋がりのあった警視総監から総理にご連絡頂き、出席させて頂いたという次第です」
「ふむ……。ではなぜ今まで、私を頼ることがなかったのですか? 警察庁は都道府県を超えて調査できるよう取り計らうことができる。そのように協力することができたはずですが」
「他意はございません。捜査や逮捕、機動隊への直接の指示等のために現場に近い者に協力を求めることばかりだったということです。警察庁に協力を仰ぐのが合わないということが――」
「作戦の立案やまとめ役は必要なかったということですか? 永続的な協力ができたかもしれない……が、それでもですかな?」
「どの役職も代替わりします、『人』が次々と。その時期を予見することはできないでしょうし、次代の長官も協力的かどうかでまた違ってきてしまうでしょう、永続的な協力ができるかは……正直、希望的過ぎるのではと。協力を仰げる際は仰ぎますが、仰ぎたい相手が我々の情報を秘密にできる者でなければ……。精査は必要です。我々は、人命等を優先し最高の判断を下す、そのために、協力を求める準備を常にしています。それによって最短となる手段を取れる、今回も取った、これまでも。同時に、『現場により近い者に協力して頂けるのであればその方がよい』と考えた、そのようなことばかりだった、それだけでございます」
「……警察庁を通すよりも、ですか」
「そうです」
「ふむ。その方が速やか、ということなら……、まあいいでしょう」警察庁長官が肩から力を抜いた。「それで、『あれ』はどういうもので、我々はどうすればいいのですか」
私は希美子さんに目配せした。
希美子さんが言う。
「私は、先程話された――ルオセウの血を引く末裔の佐倉守家の者です。マギュートには一般的に、念動力、サイコキネシス、テレキネシスと呼ばれるような力が――」
……マギュートの説明や、ルオセウ人の穏健派捜査員との繋がり、二度目のジャック犯との連携を今はすべきではない、なぜなら……ということを話し終えたあと――これから対策の話をしよう――という段になった時、官房長官が言った。「――全く。なんて恐ろしい」
大樹くんのことも、彼らはもう真実を知った。
そのあとで、中継で参加している総理の声が。
「では……イマギロ特殊捜査部部長だと思われるルオセウ人が本人かどうかの確認を取るため補助部隊を作り、その指示をする者を立てる――それまで過激派犯人の船を探していた捜査員に、一時的に捜査をやめさせ、本人確認の補助部隊に今は回しておく――ということでよろしかったですか?」
希美子さんが私の顔をうかがった。
「はい、それでよろしいかと」私がうなずくと、希美子さんもうなずいた。
すると防衛大臣が言った。
「自衛隊と組ませましょう。ですが一つ、気になります。その過激派の者達が、別の場所にもしも現れた場合は、あなた方と組ませる自衛隊の部隊とはまた別の部隊等、その地域の警察も向かわせ、逮捕や調査をさせたいと思っています。それでよろしいですか?」
「はい」私が答える。「その場合はそのようにしてよいと思います」
この段階で私は思っていた。このあとのことについて、もっと詳しく予定を組み、情報共有すべきだろう――と。
ならば、まず私達がすべきことは、恐らく……。「では、まずは、自衛隊の協力を得られること、感謝致します」そう伝えると私は一礼。
そしてまた私が。
「その自衛隊ですが。最初は陸上自衛隊と会って話したいと考えております。恐らく過激派の船は、郊外の……上から地面が見える所にあるでしょう、山のふもとか、もっと奥、あるいは郊外の森の中の広場……、奥まった陸地の可能性が高い。船があると気付けない可能性――こちらが先に気付かれてしまう可能性――それらを考慮すると、飛行物では恐らく無理があります、何かあった場合は陸上自衛隊を動かす、その可能性が海空より高いでしょうから――」
すると防衛大臣がうなずいた。「では、眞霞駐屯地に行くといいでしょう、優秀な者が揃っておりますから。そこに人員を集めるとよろしいかと」
そこで警視総監が。「では、警視庁の人員もそこに」
「助かります、お願いします」私はここでも一礼。そしてまた。「では、私は戻って協力関係にあるルオセウ人達に報告し、彼らを眞霞駐屯地へ運びます。警視庁の人員、機動隊とも協力したいので、彼らも運ぶ上で、警視庁から車で出発したいのですが……」
「構いません」と、警視総監が私に向けてうなずいた。
「では」と、私は希美子さんに促した。
すぐに、希美子さんはタオルをゲート化させた。
「そ、それがマギュート……ですか」防衛大臣が驚きの声を。
「とんでもないですな」こちらは危機管理官の声だった。





