黒雪伝説・王の乱 2
大広間では、黒雪の親衛隊が注目をあびていた。
しかしそれは遠巻きに遠巻きにで
彼女らの周囲には、見えないドーナツが置かれているかのように
空間がポッカリ空いていた。
数日前まで海賊だった彼女らにとっては
慣れない軍服を着せられた上に
お貴族様たちの好奇の目に晒されるのは、ひどく耐え難い。
間が持たずにジリジリしているところに、黒雪がやってきた。
頭領、レグランドがホッとして黒雪のところに走り寄る。
「黒雪さま、おお、ドレス姿がお美し・・・い・・・?」
「お世辞など言わずともよろしい。
私の美容係など、遠慮なく罵詈雑言の嵐よ。
まったく、高貴な姫君に向かって・・・。」
広間の中央に親衛隊を連れて行った黒雪が、大声で言った。
「皆さん、ご紹介しましょう。
今回の旅で功績を上げ、私の親衛隊となった女性たち
名付けて、肉塊三姉妹です!」
「ちょ、その名前はご勘弁を!!!」
すがりつくレグランドに、黒雪はガラ悪く舌打ちをした。
「注文が多いわね。」
「初めての注文だし!」
「はいはい、わかったわかった。
えーと、黒雪親衛隊です。
皆さん、よろしくお願いします。」
部屋中から拍手が鳴り響いた。
人々が親衛隊の体に無邪気に触れて喜ぶ。
「おお、デラ・マッチョではないか!」
「凄いですわね、デラ・マッチョですこと。」
「デ・・・、デラ・マッチョ・・・?」
わけわからん褒め言葉?に、呆然とする親衛隊であった。
“デラ” が何かと言うと
頭の悪いヤツが、メガ → ギガ (だったっけ?) ときたら
次の単位は デラ だ! と言い張った事に由来する。
ちなみに今でも、テラよりデラの方がそれらしいと思っている。
スペイン語っぽくって良いではないか!
「・・・私の存在は無視ですか・・・。」
王子が暗い顔をして、黒雪の背後でつぶやいた。
「うおっ、びっくりした!!!
あなた、いるならさっさと声を掛けてくれれば良いのに。」
「・・・普通の妻は、夫を真っ先に探すものですがね・・・。」
目を逸らしながらブツブツ言う王子に
黒雪はニッコリと微笑んで、頬にキスをして耳元でささやいた。
「私の忍耐力はそんなにない、って事はご存知ですわよね? ふふっ」
微笑む黒雪のこめかみに、太い血管が浮いているのを見て
王子は恐怖を感じたけど、どうしても不満が拭い去れず涙目になる。
「だって・・・、だって・・・」
「二児の父親が 『だってだって』 じゃありませんよ?」
黒雪の微笑みは最上級になった。
王子の背中に妙にサラリとした汗が流れ落ちた時に、広間に声が響いた。
「王さまのおなーーーりーーー!!!」
一同が頭を下げて迎える。
王は、ゆっくりと広間に入ってきた。
「こたびは王子と妃の働きにより、資源が見つかった事
まことに喜ばしい。」
王子と黒雪は、王の前に出てお辞儀をした。
良いけど、毎回のこの儀式が面倒なのよね
この王、無能なくせにこうやって威張りたがって
パーティーばかり開くのがうっとうしいわ・・・
たまにはあんたも何か役に立て、っつの。
黒雪は王子とのケンカのイライラも合わさって
心の中で、いつも以上にリキの入った罵倒をしていた。
「だがしかし、その真意は
余をおとしめようとする企みと聞いた。
正当な王の権威を脅かす、この不届き者たちを捕えよ!!!」
会場が は??? と、なった。
もう、誰ひとり残らず、は??? である。