02 プロローグ2
1話目の内容を少し変えました。
02 プロローグ2
「おにぃ、お腹すいた。」
お腹を抑える遥の横で、和穂がフロアマップでフードコートの場所を探す。
「中央エリアの2階全体がフードコートか。」
西エリアの内側円形通路から中央エリアへ向かう。
動く歩道が、アスタリスク状の形で円形通路と交差して中心から広がっているため、直進すれば中央エリアに着くようになっている。
中央エリアにつくと、エリアの中央の円形ステージで抽選会が行われていた。
「抽選会場ここなんだ。てか、めっちゃ並んでるね。」
風船のを持った人達が列を作って並んでいて、最後尾の先が見えないくらい並んでいた。
和穂は最後尾を見て
「1時間待ちくらいかな。」
「そのくらいかもね。」
遥も同意すると、店員の声が聞こえてきた。
「現在最後尾15分まちです。最後尾のプラカードの場所にお並びください。」
「えっ!?そんな少ないの?」
驚いた2人は疑問に思って抽選会の様子を見る。
スタッフの動きが尋常じゃなくスムーズで、お客さんをほとんど立ち止まらせることなくさばいている。
風船についてる抽選券を受け取り、くじを引いてもらう。風船が要らなければ回収し、景品受け取りカウンターに誘導する。
「こりゃすげーわ。」
「うん、すごい。これなら納得だね。」
少し怖いほど統制の取れた無駄のない動き。
事前教育がスパルタだったんだろうなぁ。
和穂の頭に、軍隊の訓練のような、怒号の飛び交う事前教育の映像が頭に浮かんだ。
景品は各テナントがそれぞれ景品を出しているようで、4Kテレビや冷蔵庫、海外旅行券やダイヤモンドなどの宝石まで、色々な景品が用意されていた。
遥がお腹が空いてイライラし始めていたので、抽選は後回しにして2階へ向かう。
抽選会の列の横を通り、エスカレーターに乗って2階にいく。
フードコートは、エリア中央の吹き抜けを囲むように、円形に広がっている。
フードコートはジャンルによって区画分けされており、『ラーメン』コーナー、『世界の料理』コーナー、『スイーツ』コーナーなどがある。
飲食だけで店舗数が300店舗入っているため、めちゃくちゃ悩む。
有名どころな外食チェーン店から個人店までかまえていて、ラーメンコーナーの中だけで20店舗はある。
とりあえず、2人はどれにしようか見て回ることにした。
「この辺は有名どころのチェーン店が多いな。」
エスカレーター近くのフードコートに入ってすぐのエリアは、ハンバーガー、うどん、海鮮丼、回転寿司、ステーキ点があり、みんなが一度は見たことのあるチェーン店が並んでいた。
「うーん、あんまり食指が動かないなぁ。」
遥が先を見ると、目の前に『世界の料理』と書かれた、アーチ状の看板が現れる。
このコーナーは各国の変わった料理出す店舗が集まり、普段食べなれない味や、ゲテモノ料理を楽しむことができる。
それぞれの国名が書かれた、各国の雰囲気をイメージした店作りをした店舗が並んでいる。
思ったより人気があるようで、2人組の女子高生が、まだ動いている料理をみて、キャーキャー騒いでいたり、外国人が祖国の料理を懐かしむように、目をつぶりながら味わっている。
和穂は外国人の料理を見ると、スプーンですくわれた料理と目があう。
料理から素材の目が生えている。
見つめ合う和穂。
なんの生物かはわからないが、皿から口に運ばれていく料理と目があっている。
外国人が口を閉じる瞬間、和穂は、
「ギャーッ!!」
という幻聴が聞こえたような気がして、武者震いをした。
「どうしたの? 大丈夫?」
「ウン、ダイジョウブダヨ。」
世界の料理コーナーは、精神的ダメージにより選択肢から外れたため、次のラーメンコーナーに向かう。
ラーメン博物館のように店舗が並んでいる。
チェーン店を始め、有名店の支店などが店を構えていて、お客さんの行列ができている。
遥の目が輝き出した。
「ラーメン食べたい!」
和穂は、遥かに引っ張られて目の前の東京にある有名店の支店の列に並ぶ。
魚介ダシの少し色のついたスープに、貝やトリュフをトッピングしてある塩ラーメンに、心を惹かれたようだ。
注文が終わり、近くのカウンター席で出来上がりをまつ。
隣を見ると、可愛い系のイケメン男子が、ラーメンの写真を撮りまくっていた。
ラーメンと自分のツーショットを撮る人は初めて見た。
取り終わると食べながら、スマホにメモを残しているようだ。
ブログかなんかやってるのかな、結構ガチっぽいな。
そう思いながら、鳴り始めたベルを持って、ラーメンを受け取りに行く。
白髪ねぎにトリュフ、もう1つキノコっぽいものがトッピングされていて、いい香りが広がる。
スープを飲むと、貝の旨味と香りが合わさり、心地良い旨味が口だけでなく鼻にも広がる。
和穂は、麺を食べ始めると、スープを飲み干すまで、手が止まらなかった。
スープを飲み干した後、遥は感動して目が煌めいていた。
「これ、みんなに教えたい! こんな美味しいラーメン初めて食べた!」
「みんなに...、そうだ!!」
遥の言葉で和穂は閃いた。
このショッピングモールの情報を集めて紹介するホームページを作れば、多くの人が見るに違いない。
今日はオープン当日だから、まだライバルは少ないはずだ。
そして、アフリエイトでボロ儲けだ。
和穂の頭の中にはどこかの偉い人がいってた言葉が浮かぶ。
「思ったが吉日、それ以外は凶日。」
すぐにやるしかない。
「バカにぃ、また変な事考えてる?」
呆れた顔で遥が和穂を現実に引き戻す。
「ごめんごめん、このショッピングモールの素晴らしさを多くの人と共有し、
みんなでこの感動を分かち合いたいと考えていただけだ。」
きれいなことをいっているが、ゲスいにやけ顔で台無しだ。
食べ終わると、2人は西エリアの2階に向かった。
向かう道中、和穂の目には店舗一つ一つが、HP記事と札束に見えていた。
(俺がくわしいのは家電、ガジェット系かな。ファッションや手芸は遥が得意だからちょっと手伝ってもらおう。 後は、食べものや生活雑貨、動植物園やアトラクション、イベント…、結構あるな。 ガチでやるには仲間が必要だな。 出来れば各ジャンルに詳しい人が欲しいな。)
和穂が考えながら歩いていると、遥が思考を遮る。
「西エリアついたよ。」
西エリアの2階は『趣味』のエリアだ。
スポーツやアウトドア、ゲーム、園芸、芸術など、あらゆるジャンルの趣味を網羅したテナントが並んでいる。
1階同様、外側は一般的で幅広い人に需要のあるテナントが多く、中央から内側通路になるにつれ、ニッチで専門的なテナントが増える。
「あっ、手芸屋さんがある!」
遥が小走りで店舗に近づく。
遥は手芸が趣味で、編み物や刺繍、裁縫、羊毛フェルトなど、いろいろな作品を作っている。
その腕前はプロ並みで、部屋の中にある作品のほとんどがインスダグラムにアップされ、高評価を得ている。
「ゆっくり見てていいからな。 俺は隣のプラモ屋にいるからな。」
和穂はプラモデルショップに入り、展示されているガン○ムを見始めると、1、2分で遥がやってきた。
「おまたせ。 あんまりいいのなかった。」
店を出ると、外側通路をぐるっと周り、中央通路を簡単に見て、内側通路にやってきた。
内側通路に入ると、遥のスイッチが突然入った。
「えっ、何このお店! ヤバイ!」
通路に入ってすぐの羊毛フェルト専門店にそそくさと入っていく。
中から「なにこれかわいい!」や「え、これどうなってるの?」という声が聞こえてくる。
「あ~、こうなったらしばらく出てこないな。」
和穂は頭をかきながら、遥に他の店を見てくると言い、通路をあるき出した。
ボードゲームや電子パーツ、模造刀、盆栽といろいろな専門店があり、しかもそれぞれレベルの高い専門店が揃っているようだ。
各々の店で、その道の人たちだろう、スーツ姿の男性が「これはっ!」と何かを発見したり、渋いおじさんが「いい仕事してますねぇ。」と感心したり、女の子が「ハァハァ・・・」と息を荒げながら、気持ち悪い笑みを浮かべていたり、それぞれ楽しんでいる。
フッ...
和穂の前を白いものが通り過ぎた。
すぐに目で追うと、白いワンピースを着た、白色の長髪の少女だった。
少女は通路を横切ると、テナント間の壁に吸い込まれるように消えていってしまった。
周りを見渡すと、見えていたのは和穂だけだったようで、他の客は何事もなかったかのように買い物を楽しんでいる。
「疲れてるのかな...。 そろそろ帰るか。」
白い少女が頭から離れず、ぼーっとしながら遥のいる店に戻ると、店主のおじいさんと遥が熱く語り合っていた。
「そろそろ帰るぞ。」
気がついた遥は腕時計を見る。
「えっ、もうこんな時間!? おじちゃん、また来るね!」
「おぉ、遥ちゃんならいつでも大歓迎だよ。 これ持っていきなね。」
「ありがと♪ じゃあまたね。」
紙袋を持って、鼻歌を歌いながら出てきた遥を見て、和穂は妹のコミュ力の恐ろしさを感じた。
「何このコミュ力おばけ。」
家に帰ると、和穂は早速『ベスカレット紹介ホームページ』の作成に取り掛かった。