01 プロローグ1
長編小説初投稿です。
「本日ついにオープン! 世界最高峰の広さを誇る超巨大ショッピングモール『ベスカレット』!」
家の近所に今日オープンするショッピングモールのテレビCMが流れる。
クマのマスコット達と一緒に、家族連れが楽しそうに店内を回っている映像だ。
「やっと、この日が来たか!」
月城 和穂、17歳。片田舎の高校3年生だ。
新しい物好きのミーハーで、長年近所で建設が進められていたショッピングモールのオープンを待ちわびていた。
建設が始まったのは、和穂が小学校6年生の時くらいだった。
広大な工事現場に、毎日少しずつ生えてくる鉄骨を眺めるのが、彼の放課後の日課だった。
決して、友達がいなかったとかではない。
外観が完成し、施設内容が少しずつ明らかになっていくにつれ、オープンを待ちわびる気持ちがはちきれんばかりになっていた。
ホームページ情報では敷地面積約200万平方mであり、東京ドーム約44個分、某夢の国が約4個分入る広さらしい。
めちゃでかい。
朝食を食べ終わると、和穂は早速『ベスカレット』へ向かおうとする。
「おにぃ、ちょっとまってよ!」
月城 遥、14歳。片田舎の中学3年生だ。
和穂の妹だ。
今日は土曜日で学校は休みのため、兄妹いっしょにベスカレットへ行く約束をしていたようだ。
自転車で10分くらい走ると、『ベスカレット』の全体が見えてくる。
パン!!パパパン!!
花火の音が響き渡り、屋根の上を見上げると新規オープンと書かれたのバルーンが上がっている。
高級リゾートホテルのようなおしゃれな外観で、まだ敷地内に入ってないにもかかわらず、視野がすべて建屋で埋まるほどに大きい。
家からも一部見えていたが、近くで見るとやはり圧巻の大きさだ。
ベスカレットの周りは、いつもの片田舎の様子とは違い、多くの車や人で溢れていた。
敷地周りの交通網も同時に開発を進めていたため、車が止まるほどの渋滞は起こらず、スムーズに駐車場に流れていく。
立体駐車場は外観を損ねないように地下に作られているようで、車が次々と地下に入っていく。
駐車場は地下がメインのため、地上の平面駐車場は少なく、代わりにバスやタクシー、送迎車用の巨大ロータリーが設置されている。
敷地内に入ると、空港とかによくある動く歩道が敷かれていた。
「こっ、これは!」
「おにぃ、私、初めて見た!」
「俺もだ...!」
この二人、生粋の田舎ものである。
映像でしか見たことがなかった動く歩道に乗るため、自転車を降りた。
2人は、初めてエスカレーターに乗る子供のように、少しゆっくりと、足を動く歩道に乗せる。
「うぉ!」
「みてみて! すごく速く歩ける!」
科学の進歩に感動し、自転車を引きながら動く歩道を堪能する。
降りるときに前に倒れそうになるお約束を経て、入口近くの駐輪場に自転車を止める。
開店時間の少し前についたが、扉前にはすでに長蛇の列が出来ていた。
オープン記念セールが行われると、大々的に宣伝されており、世界最大級のショッピングモールの物珍しさも合わさって、地域外からも多くの人が来ているようだ。
列に並んでいると、クマのようなゆるキャラ風マスコット達が、並んでいる列に風船を配り始める。
テレビCMに登場していた、『ベスカレット』の公式マスコット『ベスカちゃん』だ。
ベスカちゃんには多くの種類がいて、それぞれ表情が異なっている。
笑顔のベスカちゃん、すまし顔のベスカちゃん、ちょっと照れた顔のベスカちゃんなど、表情は様々だ。
ベスカちゃんの設定として、同じ表情のベスカちゃんは1人しか、この世に存在しないとなっている。
スッと、和穂の前に風船を配るクマの手が差し出される。
手の作りが異様に本物そっくりで、妙なこだわりを感じる。
「ありがとう。」
受け取りながらベスカちゃんの顔を見上げると、人を見下してあざ笑う悪役顔のベスカちゃんだった。
「oh...なぜその表情...。」
時が止まったように少し見つめあったあと、見下しベスカちゃんは、後ろに並ぶ人に風船を配り始めた。
「わぁ、ありがとう!」
和穂の隣で、遥がキメ顔のイケメンなベスカちゃんから風船をもらい、ツーショットを撮っている。
少し後ろから、子供の少し泣き声の混じるありがとうが聞こえたきがした。
風船の紐の先に抽選券が付いており、抽選会を開催するようだ。
開店時間になり、人が入り口に雪崩れ込む。
「いらっしゃいませ!」
女性スタッフ達とベスカちゃん軍団が入り口のサイドに並び、店内マップを配っている。
「あ...、ど、どうも。」
今度は、遥が無表情のベスカちゃんからちょっとした圧を受けながら、少し引き気味で店内マップを受け取る。
後ろから子供の少し悲鳴のようなありがとうが聞こえたきがした。
内装は高級ホテルのロビーのようなリッチな感じの装飾になっていて、2階まで吹き抜けになった通路の両サイドにテナントが並んでいる。
天井には、すでにいくつかの風船が引っかかっていた。
紐の先にクマの手がついた風船の束も引っかかっていたが、和穂は目をそらした。
通路の真ん中にはベンチやオブジェクト、掲示板などがあり、通路の左右にそれぞれ逆方向に動く歩道がある。
取り合えず近くのベンチに座り、店内マップを見てみる。
『ベスカレット』は西エリアと東エリア、その2つを結ぶ中央エリアに別れている。
西エリアは正円形、東エリアは楕円形で南側が大きな屋外イベントスペースになっている。
中央エリアは東西のエリアを結ぶ、広めの通路スペースになっている。
「ねぇ、まずはどこに行く?」
「そうだなぁ、まずは近くから回ってみるか? 今いる場所は…、西エリアの北側のB出入口前の外側円形通路かな。」
西エリアの1、2階は、外側、真ん中、内側の三重丸の通路があり、通路に沿って円形にテナントが並んでいる。
2人は、外側円形通路から動く歩道に乗って時計回りに通路を進む。
このエリアの1階はファッションのエリアになっている。
外側通路は、よくショッピングモールで見かける有名なチェーン店が並び、中央通路に行くと少しジャンルが絞られた専門店やファッション雑貨などの店舗が多く見られる。
内側通路に行くと、ブランド店やアクセサリー、時計など高級志向な店揃えになっている。
遥は外側通路のときは、あそこ見たい!、ここ見たい!とはしゃいでいたが、内側の高級店の前では、ビビって静かになっていた
西エリアの1階を回り終わった頃には、昼になっていた。
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