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デート続きます



 王室御用達のレストラン。高給取りの庶民や、貴族達が、予約をしないと入店できないらしい。引きこもりの私は来店した事がないが、兄は何度か食事に来た事があるそうな。


「嘘でしょ」


 偶然街で出会った兄は、私と殿下のデートにくっついてきた。兄が同行するなんておかしいでしょと同意を求めたが、殿下は、これはデートではないのでご自由に、とあっさりしたものだ。王族特典なのだろうか、予約した人数よりも多くなったのに、レストランは無問題とばかりに笑顔で了承してくれた。満席ですと断ってくれてもよかったのに。


「なんだその口のきき方は。お前、殿下にもそんな口をきいているんではあるまいな」

「滅相もございませんことよ」

「殿下、申し訳ありません。教育が行き届いておりませんで。なにせ生粋の庶民である前世の記憶があるも……」

「きゃああああ! お兄様!」

 秘密! 家族の間だけの秘密なのそれ! なに勝手に暴露してくれちゃってんの? 殿下の方を見ると、目を見開いている。ほら、驚いているではないか。前世の記憶があるなんて、電波ですよ電波。これ、この縁談、終わったんじゃないかな。私を嫁がせたくて淑女教育に必死だった兄のせいで、この縁談は壊れてしまったんではないかな。笑える。いや、笑えない。

「何を叫んでいるんだ馬鹿者め。三十五歳の記憶があるというのに、何故お前はいつまでも落ち着かな……痛ッ!」

 腕を伸ばして兄の頭を掴み、テーブルに叩きつけてやった。立ち上がり、殿下を見下ろす。私と兄を交互に見て、口をパクパクさせていた。終わった。何もかも。こいつのせいで。兄が頭をあげようとしたのを、もう一度上から押さえつけてやる。ゴチっと音がして、静かになった。


「殿下、今この愚兄が言っていた事は、フゴーリスタ家の最重要機密ですので、どうか他に漏れないようお願いします。護衛の方々も、わかっておりますわね」


 護衛達が、ブンブンと首を縦に振る。殿下は、いまだに口を半開きにしたまま、私と兄を見比べていた。衝撃が大きすぎたのかしら。まるで子供みたいな顔をしている。よい物件だったのに、このクソ兄のせいで。苛立ちは最高潮だ。脇腹を蹴り、椅子のまま倒してやった。

「ごふ!」

「先に帰ります。秘密の件、くれぐれもよろしくお願いします」


 駆け出した。丁度いいタイミングで扉が開き、私は給仕の横を走り抜けた。後ろから、殿下が何か叫んでいたが、何と言ったのかは聞こえない。もう終わり。荷物をまとめて実家に帰り、父に頼みこんで一生面倒見てもらおう。今回の縁談を駄目にした兄にも、責任はある。父がいなくなっても兄に面倒を見てもらおう。


 あの野郎、今度会ったらぶっころしてやらぁ、と巻き舌で文句を言いながら歩いていると、エメラルドグリーンの壁の店が目に入ってきた。『薄荷屋』と書いてある。薄荷専門店だ。ミントの店だ。私は誘われるように、ふらふらと近づき、扉をあけた。


「うわ~、いい香り~」


 薄荷の香りが店内に満ちている。スゥっとした、爽やかな香りだ。まず目についたのは、入口から入ってすぐの大きなテーブルに並んでいる、クッキー類。何種類ものクッキーは、どれも美味しそうだった。クッキー以外にも色々並んでいる。薄荷の御菓子。素晴らしい。薄荷ドロップなんかも大量。前世、ミント大好きレディだった私。涎が出まくりだ。大きな籠を手に取り、なんでもかんでも放り込む。全ての御菓子を食べて、お気に入りを見つけなければ。大人買い。公爵令嬢買いだ。金に糸目はつけねぇ。なんでも持ってきな状態だ。

 店の壁沿いには、棚が並んでおり、そこにお洒落な感じでスプレーなどが置いてある。薄荷スプレー、懐かしい。枕にシュっとしたり、ハンカチにシュっとしたり。香水の類は苦手だが、きつい薄荷の香りは大好きだ。ミントの香りのクリームも並んでいる。ハンドクリーム、ボディクリーム、なんだこの薄荷の楽園は。この店を買い取ってしまいたい。いや、ここを、クラーラ・フゴーリスタ御用達の店として、大きく盛り立てたい!


「うわ。爆買いしてる」


 扉が開く音がしてそちらを見ると、殿下が立っていた。私を指差して呆れたような顔をしている。

「あら、殿下」

「ここは、王室御用達の店ではないんだが?」

「関係ありません。私はもう、王族になるような身ではございませんし」

「は?」

「婚約破棄されるのでしょ?」

「なんで」

「前世三十五歳の女だから。というか、前世がどうとか言っちゃってるちょっと不思議ちゃんだから?」

「…………アントニオが……」

「兄がどうかしまして?」

「泣いてた」

「まあ、みっともない」

 コロコロ笑ってやる。泣こうが喚こうが、もう許してやらない。暴露罪は重いのだ。しかし妹に蹴倒されて泣く貴族って。

「お前の前世の話は聞いているから大丈夫だぞ」

「はい?」

「婚約が成立した際に、全て聞いた。まあ、驚きはしたが、お前はお前だしな。年上の私を坊ちゃんとか言った理由もわかってスッキリした。前世の記憶云々は関係ないんだ。条件に合うかどうかの婚姻だから」

「え、じゃあ、婚約は継続……?」

「そうだな」

「なんだ…………」

「荷物まとめて実家に帰るとか、やめろよな」

 あら、行動が読まれている。それにしても、追いかけてきてくれるなんて、私って結構愛されているんじゃないかしら。政略結婚とは言っても、お互いの条件が合致しての婚約ですものね。愛も生まれてしまうわね。

「ふふふ。そんなに実家に帰って欲しくなかったの? 私と結婚したい?」

「…………そうだな。お前以外と結婚するなんて、考えられない、かな」


 デレた! 奇跡! 残念なのは、そう言っている顔が、ものすごく不本意そうなところなのだが。まあ、今の私はお気に入りの店を見つけて幸せ最高潮なので、色々なものを許す。


「じゃあ結婚してあげるから、この籠の中の商品を全部買って下さいね。あと、この店、王室御用達にしてください。私、これから週一で通いたいです。それが無理なら、クラーラ・フゴーリスタ御用達のお店で。購入代金は、殿下が出してね」

「なんだこの量! ちまちまちまちま籠に突っ込みやがって! ブローチと同じで、一回ひと箱とかにしろ!」

「違うの! ちょっとずつ買って一度に全部味見して、あとで美味しかった御菓子を大量購入するのー!」

「我儘言うなあああ!! お前のどこが三十五歳の記憶持ちだ!」


 結局全部買ってもらえた。ちなみに、後日、正式に王室御用達の店になった。私が購入してオススメした御菓子を、王族の人達のお茶会に出したら、大喜びされたのだ。



(つづく)

デート終わり。次回、波乱が。

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