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のろのろ更新。
城下町デート。
「ここからここまで、ぜ~んぶ、一つずつ下さいな!」
大きな棚に綺麗に並べられていたブローチを指し、御付きの店長さんに声をかけた。店長は口をぱっかり開けて固まり、隣にいた殿下は、俯いてこめかみを押さえている。
ざっと見て、二百種類ぐらいあるだろうか。棚には、ガラスで出来た毒キノコをモチーフとしたブローチが並んでいるのだ。
「待て待て待て。ちょっと買い方がおかしいだろ」
「え? どこがおかしいんですの?」
「全部一つずつって何だ。普通はどれか一つを吟味して決めるものだろう」
「だって、これ、シリーズものですのよ?」
「だからなんだ!」
「シリーズなら、全て集めるべきじゃない!」
「ワケがわからん! 一度に二百もブローチをつけて歩くわけじゃないだろ。数を絞れ!」
「ブローチ好きじゃないから、もともとつけて歩かないもの」
「じゃあ、なんで欲しがった!」
「毒キノコだから」
前世では、毒キノコグッズを集めていたものだ。それが実用的かどうかなんて、関係ない。毒キノコであること。それが大事。
「二百も買ってどうするんだ。飾っておくのか?」
「え、買う事が大事なのよ。ちょっと眺めたら、買ってきた時と同じように袋に入れて、封印でしょ」
「子供より悪質だな。却下だ」
「なんでも買ってくれるっていったくせに! 嘘つき!」
「ちょ、おま、やめろ! 店で騒ぐな!」
現在店内貸切の状態なので、他のお客様に迷惑にはならない。店長がだいぶ引いているけれど、約束をやぶる殿下が悪いのだ。
「あ、あの、一度に買うのではなく、来る度に一つずつ殿下にプレゼントしてもらうのは、如何でしょう?」
控えめに、提案をしてくれた。二百回来店する前に、シリーズが無くなってしまうのではないかと聞くと、私がその買い方をしたら、それだけで宣伝になって、ロングセラー商品になるのだそうだ。王族って凄い。
「それに、毎回このお店を訪れて殿下から贈り物をされるなんて、とてもロマンティックね。恋人達の定番になりそう」
「それにしたって二百回は多いけどな」
「萎える事言わないでよね」
初めてなので、五つ買ってもらった。前世の定番、ベニテングタケのデザイン違いのブローチを全て。これぞ、毒キノコってキノコ。赤に水玉模様。本当に可愛らしい。
ご機嫌で、店を出る。外に出ると、遠巻きに、市井の人々が私達を見ていた。ニコリと笑って手を振る。わっと歓声があがり、護衛達に緊張が走る。たくさん集まった人々の期待の籠った視線が一斉に注がれている。しかし、中には王室に不満のある民もいることだろう。悪意が無い人間ばかりとは限らない。集まった人々を興奮させるような事をして、護衛達に、悪い事をしてしまったかしら。
「貴方、貴族の間では女嫌いで冷たい王子ってあまり評判よくないけど、一般の方達には人気あるのね」
「…………何を言ってる。彼等は、王族に反応しているだけだ。私個人を慕っているわけではない。王子である私と一緒にいるから、お前も王族だと思っている。そのお前が、笑って手を振った。彼等には、それだけで、小さな幸せなんだ」
「小さな幸せ。とても素敵な言葉ね。貴方も手を振ってあげたら?」
「こんな仏頂面でか? 無駄に愛想を振り撒いて女達に勘違いされては困る。私は、愛想のない女嫌いの王子として、これからも気儘にやっていくさ」
不覚をとった。寂しそうに苦笑いをした殿下を、愛しいと思ってしまったのだ。王族として、小さな頃からプレッシャーが半端なかっただろう。これだけ美しい容貌なのだ、幼い頃から女性に狙われていたかもしれない。女性の胸が大きいのが苦手なのは、大きな胸の女性に襲われたから、とか? 女嫌いは、そこから来るの?
(既に過去の事だけれど、もしそうだとしたら、なんて事してくれたのかしら。この男は、私のよ? 私の理想の男なんだから!)
殿下の腕に絡み付いた。ぎゅうと腕に抱きつくと、『は?』という間の抜けた声をだしながら、私を見下ろしてくる。
「なんだ、いきなり」
「政略結婚だって浮気は許さないって事よ。さ、次の店に行くわよ!」
「浮気? 何故急に? おい、胸をすりつけるな! 無い胸を!」
「あるわよ! 少しは! 揉んでみなさいよ!」
「わああ! 破廉恥な事を往来で叫ぶな!」
まあ、反論はしない。前世の記憶で、恥じらいというものは、たまに完全に消えてしまう。卑猥な事を言う女が悪だって騒ぐ連中もいたけど、私はそういうネタを面白いと思っていたし、自分でも結構悪ノリするタイプだった。性にオープンなおひとり様だったのだ。モテないけど。
二人でぴったりくっつきながら歩きにくそうに歩いていると、屋台から良い匂いが漂ってくる。串焼き肉だ。前世ではよく食べ歩きをした。
「あれ食べたい」
「……あそこは、王室御用達ではない」
「馬鹿じゃないの? 王室御用達の屋台なんて聞いたこともないわ」
「特に食べ物はきちんとした店で……あッ、こら!」
殿下を置いて走り出す。慌てた護衛達が私に続いた。チラと後ろを振り返る。きちんと殿下の元にも護衛が残っている。優秀優秀。
牛ハツ串を注文した。殿下の分も、一応買っておく。辛めのソースをたっぷりとつけて、お行儀悪くかぶり付いた。ああ、ここに、口煩い兄がいなくて良かった。幼い頃から、父よりも口煩い兄に、淑女教育のなんたるかを説教され続けてきた私だ。
「殿下もどうぞ~」
にこにこしながら一串渡す。訝しげな顔をして一口噛んだ殿下は次の瞬間、目を丸くした。
「……うまい」
「そうでしょうそうでしょう。私の言う事に間違いはないんですのよ」
「淑女としては、完全に間違っているけれどな」
背後から、ものすごく低い声が聞こえてきた。全身に鳥肌が立つ。あわあわしながら振り返ると、兄だった。
「おにいさま…………」
「やあ、クラーラ。王子妃教育は、どうやら順調のようだな? こんなにお上品な公爵令嬢を、私は未だかつて見た事がないよ」
笑顔が怖い。その後ろで引き攣った笑顔を見せている従者も、なんとなく恐い。殿下は我関せずといった風に、黙々と串焼きを食べていた。
(つづく)
デートはまだつづく・・・
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