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ラブコメなので、そろそろ甘い成分いれていきます。
「明日は、城下町に連れていく」
私が王宮に来てからの日課である王子妃教育の時間が終わり、午後のお茶の時間。第三王子殿下との親睦を深めるため、毎日行われているのが二人きりのアフタヌーンティーだ。殿下は眉間に皺を寄せながら、サラっと明日の予定を告げてきた。
「あら、デートのお誘いですか?」
「そんなわけあるか、馬鹿」
「馬鹿って言ったら自分が馬鹿~」
王族としての教育が進んでいても、相変わらず仲良しとは言い難い私達の関係だ。殿下は舌打ちをして、持っていたカップを置いた。
「王室御用達の店を、ちゃんと教えておく。過去に御用達だった店がそのまま今も変わらず名乗っていたり、情報操作されて皆にそう思い込ませている店が多いからな」
「何故に?」
「お前だって買い物するだろう? 変な店に入られて、王子妃が来る店だなんだと妙な宣伝に使われない為だ」
私が王宮に来て、十日が経つ。最初は、『きみ』と『お前』で迷走していたが、殿下は『お前』呼びを定着させてしまったようだ。最初の内は呼ぶなと叱りつけていたが、途中から好きにさせた。嫌いな相手にお前呼びされるとムカつくが、殿下にそう呼ばれても、気にならなくなったからだ。彼の口にする『お前』は、所有の印ではなく、単に口が悪いだけ、さらに私の名前を呼ぶのを照れているだけなのだ。
「私、基本引きこもりだから、買い物には出かけませんわよ?」
「は? 小物やら菓子やら買いたいだけ買わせて欲しいとか言ってなかったか?」
「御菓子なら、評判のお店で、侍女達に買ってきてもらいますもの。小物を買いたい時は、業者を呼びつけて品を選ばせてもらっていますわ」
「そういうところは貴族令嬢らしいんだな」
お店に入って店内で品物を選ぶ事をしたくないわけではない。行けば、キリがないからだ。前世三十五歳のおひとり様をナメるな。ちょっと買い物に出れば、両手に重い荷物を持って帰ってくる日常だった。
「若い娘達がキャッキャしているカフェなどにも興味はありますが、危ないですもの」
「危ない? 何がだ?」
「私のような貴族の令嬢が、一人で街を歩くのが」
「護衛をつければいいだろう?」
「落ち着かないもの」
前世、おひとり様だった私は、どこへ行くのも一人だった。一人が楽しかった。それでも、時間が合った友人とはよく遊びにも出かけた。それもまた楽しかった。
だが、護衛は違う。護衛は、カフェに入っても、同じテーブルにつく事はない。一人でお茶を楽しむ私の後ろに控えたり、少し離れたところで私の行動を見守ったりしているだけなのだ。常に見られている。そんなの、落ち着けるわけがない。
「落ち着かない?」
「ええ」
「今だって、周りには護衛も侍女も、私達を見守っているだろう?」
「王宮や自分の屋敷と、街中では、全然違うわ」
「うーん……」
「それに、貴方がいるじゃない」
「…………私が?」
「貴方が一緒にテーブルについているんですもの。安心して……」
「は?」
「え?」
「安心?」
「や、いや、あの、ちょっ……違うの! や、やだ、こっち見ないでよ!」
乙女か、私! いや、乙女だけれども! 生粋の貴族令嬢のつもりだけれども! 股の緩いなんちゃって貴族令嬢と違い、私は、これまでの人生、清く正しく生きてきたのよ! 男性への耐性も無いんだから、そんなニヤニヤしながらこっち見ないでちょうだい! お坊ちゃまのくせに!
「ふッ。そうかそうか、私が一緒だと安心するのか。それはそれは、初対面の時よりもだいぶ慣れてきたなぁ」
「ちょっと、犬猫と一緒にしないでよね」
顔が熱くなってきた。女嫌いのくせに、こういう時だけ絡んでくるの、卑怯だわ。中身が、三十五歳まで記憶のあるおばさんだからだといって、器は十代のピチピチ女子なんだから私。絶対にときめかないとは言い切れないのよ。
「まあ、とりあえず、出かける準備をしておけ。お忍びというわけではないので、着飾って待っていても大丈夫だぞ。昼前に出かけよう」
「あら。お忍びじゃないのね」
「そんなの、物語の中の話だぞ。普通に王族として買い物をする」
「護衛をつけて?」
「普通だろ」
確かに、お忍びで王族が市井を体験するなんて、前世でも物語の中だけだった気がする。拍子抜けして背もたれに体を預けると、殿下が立ち上がった。じゃあなと言いながら、頭を撫でていく。これ、彼は無意識にやっているようなのだ。最初の日は、護衛も侍女も、目を丸くしていた。だが、照れるでもなく、アフタヌーンティーの終わりは、いつもこうして撫でていく。指摘したら二度としてくれなくなるのではないかと思って、口にできない。頭を撫でられるのって、ときめき。相手が誰であっても。どうも犬猫扱いのような気がしてならないが。
「好きなものを買ってもよろしくて?」
「……約束だからな。まあ、婚姻前ではあるが、大丈夫だろ」
「覚悟しておいて下さいませね」
にっこり微笑んでやると、殿下は生意気そうな顔をして、鼻を鳴らして去って行った。ああいうところは、子供なのよね。
(つづく)
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