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王宮で学びます。


★4月11日、確認していたら、この回の最初の方の文章が欠けてしまっていたので、もともとの状態で更新しました。昨日までの話を読んで下さっていたかたは、読んでいただけると嬉しいです。読んでも読まなくても、話の流れに違いはないのですが(´ω`;;



 腹を括るしかないと思った。


 王族に絶対的な権限があるわけではないとはいえ、王が決定した婚約を、簡単に覆す事は難しいだろう。面倒事は嫌いだ。

 一生独身でいたいという願望も、叶えるのはかなり難しいと思われる。なんだかんだ言って、適齢期になれば、適当な相手を見繕われて結婚するのが、この世界の女性の普通だ。自分に甘い父に今まで駄々を捏ねていたが、結局は従わざるを得なくなるのは目に見えている。

 好いた相手の一人もいれば断る事も出来ただろうが、生憎、そんな相手はいない。断る理由もない。二人で結婚相手に望む事をあげていったら、ものの見事に合致したのだ。まるで運命の相手のように。平凡な見た目を望んでいた私であるが、この世界の住人はどいつもこいつも美形で、特にキラキラしていた第三王子殿下にしても、平凡の範疇だった。逆に、美形ではない人間を探す事の方が難しい世界って。


「だからって、なんか納得いかないのよねえ~」


 前世で、大人というものを体験している私でも、今世は今世だ。器が違う。記憶はおとなでも、精神はまだ生まれたばかりの幼児だった。だから、小さな頃から、子供らしかった。反抗期も普通にあった。なんなら、今でも反抗期だ。頭の中ではわかっていても、精神をコントロールするのは難しかったのだ。

 前世で十八で結婚するというのは、早婚の方だった。こちらの世界では普通だが、記憶が邪魔をする。抗ってしまう。けれど。


 腹を括るしか、ないのだ。




「ああ、来たのか」


 面白くなさそうなフランシス殿下は、王宮のエントランスで私を出迎えてくれた。不本意だと顔に書いてある。これから、私は、王族としての教育を受ける為、王宮に住む事になった。

「仕方なく」

「相変わらず可愛くない」

「可愛かったら好きになっちゃいますもんね」

「なるか!」

 父は、出来る範囲で頑張れ、と、困ったように笑いながら私を見送ってくれた。どこまでも私に甘い父だ。

 フランシス殿下の後ろには、何十という使用人が並んでいる。普段ファッション王族だなんだと軽んじられている王族だが、こういった公式のイベントには、きちんとした対応が求められているのだ。私の後ろには、新聞記者たちが控えている。皆、私達からは遠く離れているので、話している内容などは聞こえてはいない。表面上、第三王子の新しい婚約者である公爵令嬢が、目出度く王宮に迎えられた、という演出をしなければならないので、悔しそうな顔をしながらも、殿下は私の手を取り、恭しく口付けた。


「女嫌いでも、そういう対応は出来ますのね」

「公式の仕事だからな」

「あら。公式の場でも、殿下が女性に近付いたり触れたりする事は、今までなかったと記憶してますけれど?」

「…………お前は大丈夫なんだよ!」

「は?」

「お前は、吐き気を催すような匂いもさせてないし、擦り付けてくる胸もないだろ。だから平気だ」

「ちょ……な……ッ!」

 胸が小さいと言っているのだ。一番気にしている事を、この男ときたら。嫌がらせで自分に香水をしこたま振りかけてやりたいと思ったが、それは諸刃の剣。ほんの少しの量でも、きっと自分自身、吐き気が止まらない。

「怒るな。笑え。公式の場だぞ」

「ほほほ、誰が私を怒らせているのやら」

「ふふふ、お前を悔しがらせられるのが、今の私の一番の楽しみだ」

「悪趣味!」

「最高の賛辞だな」

 キラキラしい笑顔を振りまいている。周囲の人間は、そのフランシス殿下を見て、呆気にとられていた。第三王子が笑うだなんてと、あちこちから聞こえてくる。それは不敬って言わないのかしら。


 殿下にエスコートされながら、国王の執務室へ向かった。途中、何かにつけ理由をつけては王宮に足を運んでいるという貴族令嬢達とすれ違うたびに、睨まれる。あからさまに敵対心を向けられるが、私が望んだわけではないので、理不尽な態度に腹が立った。だから、見せつけるように、殿下の腕に縋り付き、勝ち誇ったように笑ってやる。

「なんだそれ」

「……何が?」

 頭の上から、低い声が聞こえてきて、見上げると、殿下が眉間に皺を寄せて不可解な顔をしていた。

「私に縋り付きながら、他の令嬢を威嚇するような性格だったか?」

「あのですねぇ、何もなければ、私は気のいい女なんですのよ?」

「気のいい女とは」

「けれど、やられたら三倍返しが基本ですの。理不尽な態度を取られたら、相手が一番嫌がる態度で返します」

「敵を増やしまくるんじゃないのか?」

「敵ならば倒すまで」

「簡単に倒せるものかね?」

 ふふんと苦笑しながら、殿下が面白がる。倒せるか倒せないかではなく、倒さなければならないのだ。私の安全の為に。無駄に恨まれるのは、好きではない。であれば、原因を潰していくしかない。

「一度敵認定をしましたら、完膚なきまでに叩き潰しますわ。この、私を、怒らせた事を、一生後悔させてやります」

「…………まあ……暗殺には気を付けて……」

「そうね。私も、私直轄のアサシンを雇わなければ」

「怖い」


 国王陛下は、ふわっとした方だった。殿下に生意気な態度を取っていた私を、面白いと言い、そなたにしか第三王子は任せられないのだと微笑まれた。一体私の何が、そんなにお気に召したのかわからない。だが、精一杯の努力を持って、婚姻に至った場合は第三王子殿下をお助けすると、自然に約束をしていた。


 私の王宮での部屋は、長期滞在向けの客室だった。まだ第三王子と婚姻を結んでいるわけでもないので、当然といったら当然だ。私を部屋まで送り届けてくれた殿下は、何か言いたげにしていて、なかなか去っていかない。


「何か?」

「いや…………」

「歯切れが悪いですね。変なものを食べたんですか?」

「そういう……王族に失礼な事を平気でいう令嬢だから……絶対に王宮に来るのを嫌がると思っていた」

「ああ……」

 婚約の知らせが来た時にあれだけ文句を言った私だ。そう思われるのも仕方ない。だが、よくよく考えたら、こんな条件のいい結婚は、これから先、無いと思うのだ。それを伝えると、殿下は目を見開いて、口を押えた。


「私も……条件だけでいったら、きみが当てはまりすぎていて……」


 誠に遺憾だとでも言いたそうな顔をしている。理屈ではわかっていてもどこか納得いかないのは、お互い様なのかもしれない。


「まあ、何にしても、しばらくは楽しめそうです。食事が」

「食いしん坊め」

「あと、私が他の令嬢に恨まれたりしないよう、殿下も注意してくださいね」

「自分自身でも、敵を作るなよ。影のような者を雇いたいなら、私に相談しろ。じゃあな」

「痛ッ!」


 殿下は、私にデコピンをすると、そのまま立ち去ってしまった。乙女の顔に何をしてくれる? 奥歯を噛みしめながら怒りに震えていると、私付きの侍女達が、肩を震わせて笑っていた。



(つづく)

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