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セリフだらけですが……



 可愛げのない事ばかりを言う令嬢を睨み付けていると、真っ青な顔をしたフゴーリスタ公爵が、とんでもない事を口走った。


「公爵、すまないが、もう一度言ってくれるか?」


「殿下……大変お気の毒なんですが……我が娘と、婚約が決定してしまいました」


「な…………なんと……い、いや、もう一度確認させてくれ、公爵! 陛下は、貴殿にどのような内容の書簡を……」


「誠にご愁傷様です……」


「ぐうあああ」


 ひどく申し訳なさそうな顔をしている公爵。父親にこんな顔をさせるなんて、クラーラ嬢の人となりが察せられるというものだ。私と公爵の間に流れる空気は、国王陛下が身罷られたのかと思うほどの沈みっぷりだ。悲壮感漂う部屋に、何故か壁際に立つメイド達のくすくすとした笑い声が響く。


「ねえ、ちょっと!」

「なんだ!」

「ご愁傷様って、どういう意味かしら! 貴方なんかと勝手に婚約させられた私にこそ言う台詞じゃなくって?」

「貴方なんかと……だと?」

「こら! クラーラ! 不敬だぞ!」


 もう、ここまで来ると、いっそ清々しい。本音で語り合える相手として、逆に好ましいとさえ思えてきた。チラと顔を見ると、不機嫌そうに唇を尖らせている。まあ、普通に可愛い顔をしているとは思う。それに、甘ったるい匂いがしない。好ましい。私に媚を売らない。好ましい。この令嬢ならば、近付かれても嘔吐しないで済むのではなかろうか。少し近寄ってみるか。

 立ち上がり、クラーラ嬢に近付いた。足を一歩引き、身構えた彼女は、じっと私を睨んでいる。それに構わず、更に近付いて真正面に立った。


「な、なんですの? 近い」

「聞かせてくれ。きみは、万が一私と結婚したら、特別扱いをして欲しいか?」

「……特別扱いとは、具体的に?」

「具体的に、か。例えば、私に愛を囁いて欲しいと望んだり、行動の全てを知りたがったり、国外へ私一人で出かけなければならない場合でも一緒についてきたがったりするか?」

「は? まさか」

 クラーラ嬢は、眉間に皺を寄せながら、鼻で笑った。常に不愉快な態度をとる女だ。強烈すぎて、最初は衝撃が勝っていたが、もう慣れた。

「では、子供は? 子供は欲しいか? 私は、王族ではあるが、跡取りを作る必要はないし、自分でも強く望んでいない」

「あら! 本当? そこは気が合うのね」

 嬉しそうな顔をする。認めたくないが、可愛らしかった。彼女は子供を欲しがっていない。好条件がそろってきた。

「それと、きみは、香水の類は好きか?」

「あー……無理。ああいう匂いを嗅いでいると、食欲がなくなるの。それに頭も痛くなるのよね」

「…………完璧だ」

 ここまで条件が揃っているのに、何故こんなにもこの令嬢は腹立たしいのだろう。こう。小賢しいからだろうか。顎を撫でながら見下ろしていると、クラーラ嬢もまた私に確認したい事があるようだった。

「私も聞きたい事があるのですけれど。万が一私達が結婚したとして、私を自由にさせてくださいますか?」

「…………まあ、限度があるが……」

「例えば……昼過ぎまでベッドでだらだらしていたい、とか、食事は好きな時にとりたい、とか、他の令嬢達と交流を持たなくてもいい、とか? あとは、好きなものがあったら、躊躇なく買いたいですわ!」

「お前、本当に貴族令嬢か……?」

「お前って言うな!」

 私を険しい顔で指差し、大声をあげる。感情が昂りすぎだろう。本当に貴族令嬢なのか。公爵をチラリと見ると、いつもはもう少し性格もコントロールできているんですよ~殿下が特別なんじゃないですかね~と弱弱しい笑顔で言ってくる。こんな事で特別扱いされてたまるか。

「失礼。まあ、きみも失礼だがな。それで、好きなものとは、具体的に? 王族としての仕事は結構収入が多いが、さすがに、新しいドレスを買いたいだけ買われたのでは、無理がある」

「ドレスなんて必要ないわ。ちなみに宝石にも興味はないの。たとえば、本だとか、お菓子だとか、そういう、ちまちましたものよ」

「子供か」

「あとは、美味しい食べ物を見つけてワクワクしたり」

「食いしん坊か」

「まあ、坊やには、わからないでしょうね。こういう、大人の女性の楽しみ方っていうのが」

「幼女の間違いだろ」


 あとひとつ、どうしても譲れない条件がある。目の前のクラーラ嬢を観察する。主に、胸の辺りを。サラシを巻いているんじゃないかという貧乳っぷりだった。理想そのものだ。


「ちょ……どこ見てんのよ!」

「胸」

「さッ、最低! 貴方のどこが女嫌いなのよ!」

「いや、裸になった時に胸がデカいと吐くから、一応、な。よかった、小さくて。全然膨らんでないもんな。それ、わざと潰してるわけじゃないんだろ?」

「く、く、悔しいいいいい! 屈辱なんですけど!」

「えッ、屈辱を与えられたのか? そりゃよかった。ははは」

「笑い事じゃないのよ! 乙女になんて事を~~!」

 真っ赤になって怒っているクラーラ嬢が、面白くて、腹を抱えて笑った。侍女に羽交い絞めにされて暴れている。ああいうところも、貴族令嬢らしくなくて微笑ましいではないか。女という括りに入れておくには惜しい。この婚約は、自分には合ってるのかもしれない。書簡の中身を聞いて、すぐに解消に動かなければならないと思ったが、少し様子をみよう。陛下はあれで、個々をよく見てくれている。わざと、第三王子や公爵令嬢が不幸になるような婚姻はさせない筈だ。

 公爵を見る。苦笑いをしつつ、頷いてくれた。彼もまた、食えない男として有名だ。飄々としながらの実力者。繋がりを持っておくのも悪くない。


「今日は帰る。少しは令嬢らしくなるように勉強しておけよ」

「マナーは完璧だっつうの!」


 その台詞のどこがマナーが完璧な令嬢なんだと噴き出せば、クラーラ嬢は益々顔を赤くして怒り出した。



(つづく)

次回からは、フゴーリスタ視点に戻ります。

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