鎮圧完了
ガリィッ!ガギィッ、ギッ!
先程までとは違う。手を伸ばせば相手に触れれる距離で、ひたすら互いの得物を振り合う。
さらに違う点が一つ。今、この攻防の先を行ってるのは強襲者ではなくオウラなのだ。
「おらおらおらぁぁ!!こっちは片手だって分かってんのかぁ?!」
「…っっ…」
腕を伸ばし、大きく振る。デタラメに、そして強く・早く。
先程までの打たせてから考える戦い方ではない。時分が相手より勝ることを確信した戦い方。
相手より早く振れるのだから相手の攻撃は考えない。相手より力が有るのだからガードの上からでも叩きつける。勝ちが見えてるのだから『もしも』等は考えない。
(ま、まずぃ…こいつ本当に手を抜いていやがったのか!!)
捌いた警棒の威力に恐怖し、受けた一撃の重さに手の感覚が薄れていく中…強襲者は爆発的に大きくなる想いを隠すことが出来ない、
(おれ…負けるんじゃね??なら…)
大きく後ろに飛び退く、当然そのままでは追撃に殺られるので同時にオウラの胴に向けてナイフを投げる。
当然のように自らに目掛けて飛んできたナイフをたたき落とすオウラ。だが僅かな隙が生まれてしまう。
「あばよっ!!!」
その隙に強襲者は入ってきた窓から飛び出す。
そこは4階、普通に落ちれば死んでしまうだろう。
だが…
ガシッ!! バァリィィインッッッ!!
ただ落ちるのではなく、すぐ下の階の窓の上部に手をかけ、そのまま窓を突き破り3階の空病室へ飛び込む。『建造物への侵入』が強化される強襲者ならではの逃亡方法。
出さえすればまた入れる。
「危ねぇ…あんな脳筋の相手なんてしてられるかよ。殺れると思ったんだけど…まあ、無理ならそれでいい。次会った時は殺してやる。」
トスッ…
「よぉ、さっきぶりだなぁ!じゃあ殺してみろよ。」
しかし、そんな彼の相手はいかなる危険人物をも『鎮圧』出来る機動隊員であった。
「っ?!…いつのまにぃっ…」
振り返った時、彼の目の前には既に警棒を大きく振りかぶったオウラが立っていた…
ゴオォォンッッ!!!
鈍い音が病院全体に響き渡る。
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「な、なんか凄い音聞こえたけど大丈夫なのか?」
「まー、オウラの事だし大丈夫だよ。ちょっと遅いとは思うけどね。それより彩人バナナ食べよ、バナナ!」
ごそっ。バナナを取り出すジェシカ。どこにバナナなんて…ああ、母さんが持ってきてくれた果物の中から持ち出してきたなこいつ。
「本当に…色々常識が足りてないよなぁ、お前は。」
「彩人の常識なんて知らないよ。お腹が減った私と彩人に食べられる方がバナナも嬉しいよ?きっと。」
もぐもぐもぐ、頬を膨らませながらまともっぽい事を言うジェシカ。てか1本を一口で食うなよ…
「ふごふふごふっふごふごごふっふ、ふもふふもふごぉ?(やっぱり彩人を庇って利き手潰れちゃったのが不味かったのかな?)」
「なんて言ってんだよ…」
ふもふもと言われても何もわからない。まあ、出会ってからの僅かな時間でこの子はちょっとアレな子だと分かっているので最早気にならない。
「てかオウラさん、一応年上だろ?さんぐらいつけた方が良くない?ちょっと変な人っぽい感じもあるけどさ。」
「ふご、ふふんもふもふごふごご。(そう、変な人って分かってるじゃん。)」
スっ…
いきなり立つジェシカ。
「ど、どうしたんだ?いきなり。」
「ふふかふん。(誰か居る。)」
「だから何言ってるか分からないって。」
「ふふかふんふ!!。(誰か居るのっ!!)」
よく分からないが焦っているのか?辺りを見回して居るが今は深夜の2時間。病院に来る人どころか辺りを出歩く人すら居ないはず…。
ごくり……(バナナを飲み込む音)
「そこだぁっ!!!」
「うわっ!(びっくりした)」
いきなり叫ぶとポケットから金色の細長い物を取り出すジェシカ。(よく見ると空港などで売っている金色の厨二心をくすぐる剣のキーホルダーだった。)
それをなんの躊躇いも無く投げつける。かなりの速さで投げていたので剣の勇者の能力が発動していたのだろう。こうゆうの好きそうだしな。
「おいおい…危ねぇな…」
「?!」
ジェシカが厨二キーホルダーを投げつけた茂みの中から声がする。そして、
ガサガサ…
茂みの中からその声の主である男が現れた。