旅立ちの時
第三射。
命中箇所、胴。
3本もの矢を体につけた白狼はダッ、とかける。
速い。
「当てられんっ!!」
第四射を放ったバルタイがそう叫ぶ。
突進。
「それで決める気か!!」
選択としては正解だろう。
バルタイの矢も、俺の剣も、やつを貫くには至らない。
無駄な血を流す前に、多少傷ついても確実に倒す、という事か。
今までの突撃は俺を真正面に捉えずやや左にそれて、爪で掠るように突撃していた。
なぜなら俺の攻撃を避けるためなのだが………そもそもこいつ遠くからペチペチやるっていうのバルタイのスタイルと丸かぶりなんだよな………。
だが今度は違う、真正面から見据えて、もう斬りかかられようと、撃たれようと、構わない、そんな感じだ。
俺は周囲を見回す。
もともとだだっ広い場所でやっていたからかなりスペースがあるが、ここは森だ。
「………!やってみるか。」
やつの突進を俺は下がって逃げ続ける。
心の蔵を一突きすれば、ワンチャン一撃でやれるかも知れない。
問題は、どうあってもこれをまともに受けてはいけないということだ、じゃなきゃまた全身を粉砕骨折してしまう。
「来いよ……!!」
俺は下がって下がって、ついにお目当ての物にたどり着く。
もう白狼とは10mを切っている。
俺はそこに間一髪で飛び込んだ。
森の木々の中に。
不意をつかれた白狼がブレーキをかけるがもう遅い。
何本か木々をなぎ倒して停止する。
そして爪で俺を攻撃しようとして………横薙に振られたものだったため、木々に阻まれて止まってしまう。
俺はまだ平気だが、やつからすればここはジャングルジムだ。
考えても見てくれ、ジャングルジム、そのど真ん中。
そんなところで暴れたって、まともに体を動かせるわけがない。
逃げてももう遅い。
「ハァっ!!」
俺の剣はやつを一突きして、それは胴体のど真ん中、心臓だかなんだか、とにかく何かしらの臓器を傷つけた………。
「やったようだな!!」
そうバルタイが言いながら近づく。
そう、いい加減わかっているだろうが、聞く分にはおれは完璧に、一瞬で頭の中で理解できるようになっていた。
だが、俺の顔は浮かない。
結局最後の一突きが貫通したが、それ以外はまともに通らなかった。
実はバルタイが出したあの木の丸太を真っ二つにする訓練、あれだって未だできていないのだ。
こいつは、バルタイが言うにはこれでもAからFまでで言ったらE級の最上位の域を出ていないらしい。
冒険者もAからFの6段階あるが、おれは最下位の一歩上の魔物を倒したに過ぎないのだ。
そもそも狼は本来群れて集団で襲いかかるもので、こいつははぐれたのか単体だが、だとすればその真価を発揮していないことになる。
「気にするな、Eはベテランなら一撃で倒せる相手だが、素人なら絶対倒せない敵として知られている、もうお前は素人じゃないってことだ。」
もぞもぞと、その時狼が動き出す。
俺は一歩後ずさる、死んでなかったのか。
だか、もうまともに動くこともままならないようだ、地面にはこれでもかと血が流れている、もう失血で意識も失う一歩手前だ。
「わかってるな?」
そい後ろからバルタイが声をかける。
「分かって、ます。」
俺は若干ぎこちない言い方でそう返すと、剣を取る。
やつの顔を見る。
その顔は、苦悶に歪んでいた。
ハッ、ハッ、そんな荒い息が聞こえる。
「やれ、お前がやったんだ、お前がやらねばならない。」
バルタイがそう言う。
わかってるよ。
そう返して、俺は迷いを断ち切るように剣を突き立てた。
「あと、3日かぁ、はぁ、結局お話はしてもらえないか。」
そう私はつぶやいていた。
あの男の人が重傷で運び込まれてもう一年が立っていた。
彼が外の世界からやってきたと聞いたとき、私は絶対会いに行く、そう誓ったのだ。
だが、彼は怪我が治ったあとも部屋から出ようとせず、覗いてみればノートに何かを書いている。
結局何日立っても出てやこない、だから私はついに乗り込むことにした。
だけど、彼は噂通り言葉を話せないし、明らかに乗り気ではなかった。
再三頼み込んでもついに首は振らなかった。
だけど、それはある日のことだ。
「手伝う!!」
私は彼が言葉の勉強をしていることを知るとそれに協力することにした。
まるで言葉が話せれば話もしてくれるかのように、そんな約束はしてないけどね。
でもいいや。
話してくれないなら、“自分から見に行く。”
ただそれだけの事。
手に持っていたのは、受付嬢、冒険者ギルドの受付嬢の求人募集だ。
「待ってなさいよ〜、絶対行くんだから!」