Dランクの壁
俺はその日も平原にいた。
「………ゴブリンか…………!」
またか、俺はそうつぶやくとさっと走り出す。
ゴブリンもこっちに気づくが、体制を整える前に1体、2体とサクサク倒していく。
ブンブン四方八方から奴らの棍棒が迫る。
「そんな木でできた棒切れくらい………。」
俺はザンッ、とそれをすべてたたっ斬る。
そして、倒す。
「もう、なれたもんだな、ゴブリン狩りも。」
だが、ゴブリンもまだまだ来る。
ヒュン!!
「………弓持ちは珍しいっ!!」
俺はサッと飛んできた矢をかわす。
俺の目の先にいるのは弓を持ったゴブリンだ。
俺がほかを無視して奴を狙おうとすると逃げ出し始める。
「………ちっ、狙えっかな………。」
もうかなり距離が空いている、走ったって今更追いつけない、そして俺が戻った頃に再び矢を飛ばすのだ。
「剣で切る分にはなぁ!!」
俺は肩にかけていた弓を取り出し、奴を狙う。
ヒュンと飛んでいくそれはやつの肩に当たる。
あれでもう動けないだろう。
「さあ、次だ次、来いよっ!!」
残りのゴブリンを片付けにかかる。
ザンッ!ザンッ!ゴブリンは単体ではそんなでもない、むしろFランクの魔物だ。
それが問題になるのは奴らの拠点に乗り込むときで、こんな遠出しているゴブリンのちっちゃい部隊ぐらいはなんとでもなる。
もっともそれだって30体はいるが、今更それで臆する俺じゃない。
その時、ゴブリンがニヤリと笑った気がした。
「その手には乗らん!!」
俺はざっとジャンプして下がる。
俺が下がろうとした先には落とし穴があったのだ。
「何回引っかかったと思ってる………。」
ゴブリンはそれを見ていよいよ勝てないことをしり、四方に散り散りになる。
それを俺が弓で何体かやったあとに戦いは終わった。
「これで、条件のEランク依頼10個を達成しました、Dランクに昇格できます。」
そう受付嬢が告げる。
えーと、だいたいEランクに、昇格してから………3ヶ月?
なんだかなぁ………そんなに日が立った気がしないんだよな、これを小説で例えるならば、師匠に教えをこう描写のあと、修行シーンすべてカットしていきなり免許皆伝のシーンに飛ぶような………。
「まっそんなわけ無いかっ、サーラさん、その試験今すぐ受けられる感じですか?」
「………なんだかペラペラ変な喋りがなくなった途端話すようになりましたね………はい、今すぐ出来ますよ、ああ、ただ試験官がいないと………。」
その時、カウンターの奥から人がやってくる、黒いフードを身に纏うその人は、どうしたと言って近づき、フードをとる。
「何だサーラ?試験官なら私がやるぞ。」
そういって割って入ってきたのは………すげえ、すっげえ美男子、もうキラッキラもキラッキラだ。
よく見ると耳が長くてとんがっている。
「エルフ………!?」
「初めて見たかな?エルフは森からあまり出たがらない、私は違うがね、外の生まれなんだ。」
「なるほど………。」
エルフ………いるのかこの世界に。
「私はCランクで、後衛で魔法使いをやっている、よければ手伝うよ。」
「いいんですか?リューゼさんがそんなことして?」
「構わん構わん、暇だったんだ、さあ、試験場は訓練場を使わせてもらおうか…。」
「ギルドの地下にこんな広い空間があったなんて、知りませんでした。」
「訓練場なんて言っちゃいるが、こんな試験や講義のとき以外は開放されないんだ、だから知らない奴も多いんだ。」
そこは、石造りでつくられた縦40、横20mほどの空間だった。
なんだか観客席も見え、さながら闘技場………いや事実闘技場なのだろう。
「いいのか、そんな装備で、取りに行く時間は作れるが。」
「いや、これが自分の最強装備です、もともと普通に狩りに行く予定でしたから。」
ほう?そういってリューゼは杖を出す。
「確か、Dランクの昇格試験だったな、いいか、Dランクはいっぱしの冒険者がもつランクだ、生半可な実力じゃあやれないぞ………試験内容はある程度試験官が自由に決めれるんだが、そうだな、模擬戦にしよう、あらゆる手段を使え、手加減するな、俺が怪我しても気にするな。」
「はい!!」
お互い位置につく、距離にして約20mだ。
「初めっ!」
リューゼさんがそう言うと同時に俺は駆け出し………たりはせず、隠していた弓を放つ。
それはリューゼさんの胴体に吸い込まれ、刺さる前に突如弾かれる。
よく見れば、まるでガラスのように半透明な水色の板状のものが宙に浮かんでいる。
「魔法………!」
「シールドさ、大したことじゃない、魔法使いなら誰でもできる。」
だが、俺はその間にも距離を詰めていた。
もう10mを切っている。
だが、リューゼさんの後ろに炎4つ灯ったと思う間もなくそれは俺に向かってくる。
「くそっ!!」
俺はそれを交わすがもう次が………8個ほど迫ってきていた。
技術じゃかわせない、俺は横に急旋回し、ただ全力で走る。
そのまま端近くまで移動した。
「まぁ、あたってもそこまで威力は無いんだけどね、とはいえ4つ避けたのはなかなかだ………。」
俺は急にあたりが暗くなったのを感じ取り、とっさにかわす。
見れば地面が盛り上がり、竜の形をして俺がいた場所に食らいついていた。
くそ、その場にいるのも無理だな。
火炎弾が飛んでくる。
「やってみるか!?」
俺はリューゼさんのもとへ走り出す、火炎弾は避けない。
「たたっ斬る!!」
俺はそれをぶった切る、切る、切る、刃の部分ではなく、剣の腹の部分で叩くようにしたのもあり、あっという間にかき消える。
「こうすると魔法がかき消えるんですよね!」
「EランクやFランクは万一の被弾を嫌って、中々やらない手だけどね!!」
俺は残り3mをジャンプですっ飛ばし、剣がついにリューゼを捉える。
ガン!!
しかし、シールドがそれを阻む、傷がついた様子はない。
「フンッ!!」
俺は瞬間、腹のあたりをなにかに吹き飛ばされたのを感じ、端まで戻された。
「空気を固めてぶつけた、こんなものでもなかなかのものだろう?」
そこでリューゼは俺が倒れたまま動かないことに気づく。
「………?」
瞬間、俺の手から2つ3つ白い玉が飛んでいく。
「おっと………!?」
それはリューゼさんのシールドで弾ける。
湧き出る煙がリューゼさんの周りを満たす。
「これは………よろず屋のところの煙玉じゃ無いか!」
「とっておきですよっ!!」
俺はその中に飛び込み、もう一回切った。
「………危なかった、一本取られるところだったよ。」
それすらもシールドが防いでいる。
「自動で防御してくれるんですかそれは!?」
「まさか、ただCランクならそれくらいはできる、私もやるもんだろ?」
そして、だ。
そうつぶやくとフワッと風が通り過ぎ、煙幕もかき消える。
「ただの煙なら風魔法でどうにでもなる、次は唐辛子を混ぜるんだな。」
俺は下がりながら次の一手を考えるが、まるで思いつかない、煙幕はこの日の為に考えた最後の手立てだ。
そもそも、ただ切りつけてもだめだ、あのシールドが破れなくてはどうしようもない。
どうする、どうする!
「粘るね、中々筋がいい、ちょっと本気を出すよ!」
刹那、俺は飛ばされる、空気の弾だ、威力はちょっと吹き飛ぶくらいだが、空気でできているため見えない。
「くそっ………!!」
俺は見えない空気弾を全く避けられず、あれよあれよと吹き飛ばされる。
「決めるぞ!!」
彼の頭上に巨大な炎の玉ができる、デカイ。あんなものを出せたのか、これがCランクの実力………!!
それに熱気が凄まじい、20mは離れているのに、それでも熱い。
「はぁっ!!」
それはドンドンせまってくる。
終わりか。
熱気のあまり、目を開けることももはやままならなかった。
突如としてあれ程の熱気が消える。
「………!?」
「勝負あり、だ。」
俺はヘナヘナと倒れ込む。
「頑張ったじゃないか、ほら、たちなよ。」そうリューゼさんが手をさしのべる、俺はそれを取って立ち上がる。
「中々、いや、かなり筋がいい、あの火炎弾を避けたのもそうだし、煙幕だってまたしかり………だが、ついにシールドを抜く事も、シールドが出る前に攻撃することもできなかったな。」
「………。」
俺はリューゼさんの分析を黙って聞いている、正直かなり全力を出した。
勝負なんてものはたいてい全力を出す前に死ぬか、全力を出す前に倒すかだ、リューゼさんが本気を出せば………例えば初手であの巨大な炎を出されたら即死する………正直10秒持たないが、手加減をされ、しかし倒すこともできない、そんなあんばいがここまでギリギリの戦いを作ったのだ。
「あのシールドは魔法使いが習う中でももっとも難易度の低いものだ、だいたいDランクの防御特化くらいかな?あれを抜けなければ、残念だがまともにやるのは無理がある、今日の昇格は持ち越そう、なに、いくらでも機会も時間もある、ちょっと考えてまたやりに来い。」
そうリューゼさんに優しく言われて、俺はガクガクうなずいた。