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邪神の天使の冒険譚  作者: 椎亜
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プロローグ

鬱蒼と林立する森に爛々と輝く赤黒い瞳が無数に存在している。それは『魔物』。ゴブリンやコボルト等のファンタジーの定番はもちろんとして、オークやオーガという中型の魔物までが魔物の群れを成している。

目視するだけでも、九千はくだらないだろう。その群れが今一つの都市を襲おうとしている。


対する冒険者と呼ばれる者達は総勢で七百もいるかどうかだろう。また、彼らの周りには都市の警備などで在住している騎士等もいるが、それらを合わせても千を超えるかどうかというところだろう。


勝てるとは思えない。当たり前だ。目視だけで軽く九千はいるのである。その背後にも何千という魔物がいるのだろうから。それをたかが数千人で?無理に決まっている。


だが勝てないと知っても、都市に住む家族を友人を守ろうと、彼らはその震える手足に鞭を打ち死地に脚をつけた。誰もが悲観になり、諦感の念を顔に浮かべる。


どこからともなく表れた激しい大地の脈動が響きつづける事に、彼らはその顔を蒼白に染め上げていく。冒険者たちはその圧倒的な戦力差に脚を震えさせ、奥歯をカチカチと鳴らしながら恐怖する。


ぐっと奥歯を噛み締め、蒼白に染まっている顔に一発入れて必死に恐怖を圧し殺す。各々が自らの相棒に手を伸ばし、地獄の様な時間を固唾を飲んで待ち続けた。


―――――ただ一人を除いては。


冒険者の後方、それも都市の外壁に一人の少女目を閉じて座っていた。肩まで伸ばした澄んだ黒髪を後ろ手に一束に纏めて流し、外壁の縁に脚をかけている。彼女の腰には一振りの長剣があるだけ。装備というものは剣以外に見当たるものはなくその様は戦場にでるものからしたら異常以外の何者でもなかった。


それからしばらくして、魔物の群れの先頭が最前列の冒険者にも見えてきた。


魔物の群れの先頭は牙狼と呼ばれる魔物。それにゴブリンとコボルトの群れ、そして数体のオーク。


魔物の群れと冒険者達が接触するのが後数百メートルといったところだろうか、彼女は外壁から軽く飛び降りると猫の様なしなやかさで地面に着地する。


音もなく着地した少女は双桙に白銀の燐光を描きながら脚を魔物の群れに向かわせる。突如表れた少女に誰もが胡乱な眼差しを向け、その美しすぎる容姿に誰もが驚愕を露わにした。モーゼの海の様に割れる人垣に、まるでそこが自らの道であるかの様に脚を進める。


一歩、一歩そしてもう一歩と、無防備に魔物の群れに近づく少女に誰もが止めようとしなかった。否、止めれなかった。


少女の顔には先程までの楽しげな顔はなく、只々冷淡な表情を浮かべていた。周りに寒冷な冷気が生じ、草木に霜を振らせていく。冷気の発生源は言うまでもないだろう。少女の膨大な魔力を伴った冷気が空間全体を掌握する。


少女は歩みを止めず、世界の一部に干渉する為に詠唱を開始する。あと数秒もすれば相手の先頭と接触するだろう。最前列を疾走する牙狼たちはその無防備に歩いてくる存在を一瞬警戒するが、取るに足らない相手と判断し嘲笑を浮かべる。


そして彼らの鋭利な爪が少女を襲おうとした瞬間―――


絶対零度(アブソリュート)


―――そう静かに紡がれた瞬間、膨大な魔力が敵を襲う。絶対的な冷気を纏った魔力は少女の最も近くにいた牙狼へと最初に牙を向き、それから後方の魔物の群れをも侵食する。


――『絶対零度』。

水属性魔術の派生。氷魔術の上級魔術を少女が独自にアレンジした超級魔術である。


それは魔物の第一陣を容易く飲み込み、いとも簡単に魔物の群れを全滅させると、飢えた獣の様に更に後ろに控えていた魔物の群れをも食い散らす。その余りの光景に魔物も人間も関係なく顔を蒼白に染めて、余りの恐怖に足が竦む。


対して、それを見た少女は相変わらずの無表情だが、その口角を僅に上げ微笑を浮かべると――――


▲▽▲▽▲▽▲▽



数日後、ある一つの情報が世界中に知れ渡った。


それはある一つの中立都市で起きた大規模な戦いのことだ。

魔物の数は総勢で五万は軽く超え、逆に相対する冒険者の数は千と少し。余りの絶望的な数にも関わらず、その戦場をひっくり返し(あまつさ)え魔物達を全滅させて勝利したなんていう馬鹿げた話であった。

それも魔物のほぼ全ては一人の人物が倒したという。


その話を聞いた殆どの者はそんなのは有り得ないと嘲笑を浮かべたが、少数の者は、ある者は驚き、ある者は興味を示しと様々な反応であった。

それでもその者たちの確かなことは、その存在を取り込もうとする意志があること。


後にこう呼ばれるその人物―――。


『絶対者』ティア=ミストルテイン。

異世界にて命を落とした転生者であり。


――邪神の加護を受けた天使である人物だ。

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