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東方開拓都市イスカの民話集

流浪鍛冶

作者: 笹本廉太郎

ユグノスという男を知っているだろうか。

東方開拓拠点都市イスカが未だ開拓村だった頃の話だ。


大陸の西端に存在する西方七王国が一つノバスから彼は流れてきた。

風の噂によればノバスにおいて、近衛騎士の武器鋳造を担当していたというのだからその腕は推して知るべきである。

ただ、彼には悪癖があった。

ありがちな話だが、賭け事に没頭しすぎたのである。

はじめはその月の飲み代すべてをを、次は月の稼ぎのすべてを、その次は……


結果、彼は支払いのために武器の横流しを行い、国に居られなくなったのだという。


開拓村イスカにおいてもその悪癖は治ることなく、とうとう借金のカタとして仕事道具の槌と金床を取られてしまったそうだ。

もう、こうなると彼を賭場に誘うものも手を差し伸べるものもなく喰うに困った彼は鍛冶屋でなく、農夫として開拓村へと再び流れていった。


彼が流れ着いたのはイスカからさらに北、サンドラと呼ばれる山岳地帯だった。

彼はそこで数年の間他のものと同じように、自然と闘い、土地を切り開き生きていったという。


明日を生き抜くことが賭けとなるような生活の中で彼は少しづつ変わっていった。

そしてある時のことだ、雪山で彼らは氷魔に襲われた。

吹雪に呑まれ、逃げ惑う彼らは一つの洞窟へ逃げ込んだ。


洞窟の中は外の寒気とはうって変わって異様な熱気に支配されており壁面には炎を放つ山の壁画とマグマの意匠を持った文様、そして古代の製鉄であろうか、大きなハンマーで何かを叩く人々の姿があった。


洞窟は、古代の祭壇であった。

古代の焔神を奉ったであろうそれには古びた金槌と金床が安置されており、ユグノスにはそれが自分を呼んでいるようにも思えたという。


焔の祭壇で一晩を過ごし、吹雪をやり過ごした彼らは氷魔を避けるように山を下りた。

焔の印の入った鍛冶道具も一緒に。


そして、同時に名鍛冶も戻ってきた。

山から帰った彼は人が変わったように鍛冶を行ったという。

焔の鍛冶道具で作られたそれは以前よりも質の高い道具となり、開拓の助けになったという。


彼の作った道具の一部は今なお現役であり、ま焔の鍛冶道具は彼の死後、イスカの街の鍛冶協会が管理することとなった。

また、後年開催されるようになった開拓府の主催する技術大会では、優秀な成績を残した職人に対してユグノスの名称とともに貸与されている。


自らの堕落によって流れる生活をしていた彼はこうして名を残し現代まで語り継がれているのだという。

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