私が知っている修道院とは違う気がする
きらびやかなダンスホールで婚約破棄騒動が起きた。理由は、伯爵令嬢が男爵令嬢をいじめたというものだ。王太子は、平民から男爵令嬢になり学園で健気に努力する彼女を可愛がった。それに嫉妬し怒り狂い婚約者である伯爵令嬢がその令嬢を執拗にいじめたという。始まりは、無視をし物を隠しお茶会ではドレスにお茶をかける。そして先月は刺客を雇いその男爵令嬢を亡き者にしようとした。日に日に弱る彼女に不信を覚えた王太子は、彼女からことの全てを聞き婚約破棄を申し付けたのだ。
「マリア!貴様は私の婚約者、そして次期王妃という立場でありながらリリーに執拗にいじめをしたそうだな!」
「そんな、殿下!何かの間違いでございます!私はリリーという男爵令嬢を今知りました。なのにどうやっていじめることが出来るのでしょうか。」
「フン、あくまで白を切るつもりか!お前に雇われた刺客が全て吐いたわ!」
「そんな…私、本当に身に覚えが無いのです!」
「マリア様、そんな酷い!確かに婚約者がいらっしゃるフロン様に特別な感情を抱いた私にも責任はあります。だけど、私を殺そうとするなんて…あぁ」
「リリー!大丈夫。僕が必ず君を守るからね」
その後、彼女は婚約破棄のほかに家からも絶縁を申し付けられ、手切れ金1000万ヤンを持たされて修道院に入れられることになりました。
「そ、そんな…私がこの大陸で一番恐ろしいといわれる【スネーク大修道院】に入れられるなんて…!」
「フン!本当は死刑にしてやりたいがお前は腐っても元伯爵貴族。この国の忌々しい法律で伯爵位の貴族は死刑に出来ないからな。修道院で神に祈りを奉げながら自分の罪をかみ締めるがいい」
スネーク大修道院について説明しなくてはいけない。この修道院はこの国が建国する以前より存在する修道院であり、広さがもはや小国と言っても過言でもない修道院である。そのため『大』がつく。さらに、修道士・修道女が逃げ出さないように高い堅牢な壁がぐるりと3重に建っており、出入り口はたったの1ヶ所。さらに、規律が厳しく『神の鉄槌』と称して鞭で打つこともあるとか。食事も質素で、影での修道士・修道女のいじめで辛くなり自ら命を絶つ者もいるという。手切れ1000万ヤンは、金を払ってでも厄介払いをしたいという現れである。
絶望の顔色をしたマリアは揺れる馬車の中で、涙を流しながら最後の王都の景色を目に焼き付けた。暫く進み途中に何泊かし御者が声を上げた。
「さぁ着いたぜ。お嬢さん?地獄の入り口だ」
「…あぁ、さようなら現世…」
門の傍には呼び鈴と立て看板があった
【希望を捨てないこと。神はいつでも見ている】
御者が呼び鈴を鳴らした
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『今日もどこかで
人の涙が流れる
愚かな者の企みで
そしてここにやってくる
罪なき騎士も高貴な姫も
皆、流す涙に変わりなし
フンフン、フンフンフ~ン』
部屋の中で1人の初老の男が歌を歌っていた。その歌に意味などは無い。ここは大陸一、規律が厳しいと言われる【スネーク大修道院】の一室。そこに扉をノックする音がした。
「はいりたまえ」
「はい、院長様。迷える子羊が参りました」
「ほう、今日か…随分と早いな。でその子羊は何をやらかしたのだ?」
「なんでも嫉妬に駆られ婚約者に執拗に絡む男爵令嬢をいじめたそうです」
「またか」
「またです」
「では、救いにいきますか」
「はい」
「それと君、それは外しときなさい」
彼女はそっとはずした
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呼び鈴を鳴らしてからどれくらい時間がたっただろうか。マリアは王大子の婚約者になってからは泣かないと決めたものの泣きそうになった。待っている間が酷く長く感じ自分の誓いがくずれそうだった。
「お待たせして申し訳ない。何しろ仕事が多くてね」
「あ、これは院長様。子羊をまた連れて来ました」
「君もご苦労だね。きみ」
そう合図をすると傍にいた修道女が小さい金属の音がする袋を渡した。
「ありがとうございます。ではすいませんが確認を…」
「うむ、中に入りなさい。えっと」
「マリアです、院長」
「マリア、君もだよ」
「…はい」
院内に入り二手に分かれた。院長と御者は先ほどまで院長がいた部屋に、修道女とマリアは別室に連れて行かれた。
「ほら、頭を出しな!髪を剃るんだよ!」
(あぁ、私の髪が…)
「ほら!これがあんたが着る服だ。早く着替えな、何をモタモタしているんだい!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ハッハハ、随分とやられていますな」
「うちは厳しいですから。脱走しようものなら修道院の名の通り蛇のようにしつこく追いかけますよ」
「院長、支度が済みました」
「入ってみなさい」
マリアの綺麗な髪は綺麗に剃られきらびやかな服は、地味な修道服になっていた
「うむ、確かに確認しました。では、書類を」
「はい、確かに。君、彼をお見送りしてあげて」
そして、マリアと院長が2人きりになる。今まで、親しい異性と2人きりになるのは数えるほどしかないマリアは緊張した。暫くすると
「キャーーーーー!」
「クックク、あの院長も好きだね。女をいつも抱いてさ」
「…」
「あんたの時もそうだったね?クックク」
御者の男は汚い笑みを浮かべて修道院を後にし、王都に報告を済ませて自宅へと帰った
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「キャーーーーー!」
院長はいきなり、マリアの修道服を引きちぎったのだ。マリアは穢されると思ったが…
「いきなり、こんなことをして悪かったね。けど、ここまでしないと信じてもらえないからさ」
「え?…え!?」
マリアは驚いた。豪華なドレスとは言いがたいが動きやすく質素な、言い換えれば平民が着るドレスをいつの間にか着せられていたのだ。さらに剃ったはずの髪は可愛らしく短めに切られポニーテールになっていた。
「こ、これは?!」
「フッフフ、私の魔法だよ。さぁ行こうか、パラダイスへ!!」
窓を開けると先ほど室内から見た景色とはまるで違った。そこは本当に1つの国だったのだ。
「あ!新入りだ!」
「本当だ!おーい、院長。その子を紹介してくれよ!」
「今から下に降りるよ!ジョディーもすぐ帰るからな」
このやり取りを見て混乱に混乱を重ねたマリア。下に降りて行くと様々な年代の美しい人がたくさんいた。
「では、改めてマリア!【スネーク大修道院】…パラダイスへようこそ!!」
「あ、あのここは修道院ではないのですか?」
「表向きはそう。だが裏は裏切られたり、濡れ衣を着せられた者達がキズを癒す為のパラダイスなのだ」
「よ、院長!この大犯罪者!」
「初老をいたわらんか!まったく…というわけでなここにいる者たちは皆、身に覚えのない罪でここに入れられた者ばかりなのだ」
「じゃ、じゃあ」
「あぁ、お前さんが無実というのも知っている。なのに、若いのにその一生を神に仕えるだけで終わらせるのはなんともバカらしいと思うだろ?だから、ここでは自分の理性をちょいと外して自由に生きようというものさ」
暫く動けなかったマリアだが、先ほど自分の髪を剃ったジョディーがそっと後押しした。
「いいんだよ、ここでは我慢しなくて。全部吐き出しちまいな。楽になるよ」
「うわぁーん」
その後、マリアはパラダイスで楽しく暮らした。今まで体験したことの無いことをして、自分の家を与えられて本当にのびのびと暮らした。
「王妃教育が無いだけで、位がないだけでこんなにも幸せだなんて…本当の自分になった気がするわ」
「そうだろう?マリア」
「ジョージ!今日の畑仕事は終わったの?」
「うん、院長が今日の仕事は終わりっていうからさ…その…食事でも」
「えぇ、是非行きましょう!ジョディーの食堂がいいわ」
2人は仲良く手を繋いで、夫婦で経営しているジョディーの食堂に向かった。それをニヤニヤ見ている男がいる。院長だ。
「あの2人、結ばれるかな?」
「いきいきしているから時間の問題だろうね」
「そうだね。よし、ジョージ君の分の仕事も終わらせるか」
そして、数ヵ月後に彼らは結ばれ最高に幸せな式を挙げてみんなに祝福された。祝福の証として院長からペアリングを送られ、疑問に思うマリア。
「院長、これは?」
「私の生まれ故郷の慣わしでね。永遠の愛を誓い合った者とわかるような、一種の印だよ」
「ほら、私も付けてる」
「本当だわ。ジョディーのはお花の装飾品が付いているのね」
「だけど、来客が来た時には外してくれよ?修道院には装飾品はご法度だから」
また笑いがおきる。
マリアは後に自身の日記にこう記している
《婚約破棄をされたとき、私は本当に悲しかったです。だけど今はそうは思いません。心中の探りあいの必要の無い友達もたくさん出来ましたし、なにしろ本当に心から愛する人を見つけられたからです。私は本当に今、幸せです!》
登場人物~
院長
その正体は、蛇沼影利。神様からの依頼で罪無き者を救えということでファンタジーの世界に転生。1人1人救うのでは割に合わないと思い、ゴキブリホイホイならぬ悪役ホイホイ『スネーク大修道院』を造った。表向きは更生施設だが裏では、身分に捕らわれず自由に生きようという信条のもと施設に入っている者たちは楽しく暮らしている。童貞歴が200年を超えたことにより神と同格になった。
マリア
婚約破棄された令嬢。実は良く似た乙女ゲームの立ち位置にいた為、転生者による『偽断罪式』をやられる。修道院に入ってからは、心から愛するジョージと結婚できて最高に幸せな人生を歩むことになる。
ジョージ
マリアとは別の大陸で、ギャルゲーの悪役男子と似た立ち位置にいて転生者に『偽ざまぁ』をされる。修道院に入りたてのマリアに一目惚れし、結婚できた時は嬉しすぎてほっぺたをつねりすぎた。
フロン&リリー
マリアを修道院送りにした後、結婚するも順風満帆とはかけ離れた生活を送ることになる。なんとか、マリアを呼び戻そうとするが遣いの者が全員行方しれずになるため、断念。その後、王子は禿げ上がり王子妃は白豚のように肥えた。