7.銃マスター
道場における英下衆騎士との立ち合い。
なんなく相手騎士を床へと沈め落とす。
「やろう」
「おのれ」
「ぶっころす」
途端。騒めきを見せる見学騎士たち。
集団で俺をリンチするつもりか?
だとするなら、やはり、こいつらが犯人。
集団で1人をぶちのめすことに躊躇いもない。
唾棄すべき連中。
「待ちたまえ」
冷徹に騎士たちを見下す俺の前で。
1人の騎士が声を張り上げる。
「騎士道精神を忘れてはいけない。まずは勝者を称えるのが先だ」
騒めく騎士たちを抑え、その騎士は大きな音で拍手を始めた。
「おめでとう。憲伸くん。見事な技だ」
続いて他の騎士たちまでもが、拍手する。
ふむ?
まさか騎士に、まともな人間がいるとでもいうのか?
ありえない。
そして、仮にそうだとするのならば、それは困ったことになる。
相手がクズであればぶった斬るに支障はないが、普通の人間を斬るのは、あまり好みでない。
おまけに、せっかく犯人を見つけたと思ったのに、また犯人捜しのやり直しとなるではないか。
よって、こいつら騎士にはクズでいてもらう必要がある。
「雑魚すぎる。騎士とはこの程度か? まさか本気ではあるまいな?」
あえて挑発。騎士のゲスイ本性を暴き出さねばならない。
「我が国であれば、子供でも勝利できそうではないか」
安い挑発に騒めく騎士たち。
「や、やろう」
「いわせておけば」
「ぶっ殺す」
だが、先頭の騎士は再び片手を上げ、騒めきを鎮めていた。
「憲伸くん。それ以上、我々を挑発するのであれば、見逃すことはできない」
何を恰好つけているのか?
「御託は結構。全員でかかってこい」
手招きで挑発するも。
「御断りする」
あえなく断られてしまった。
「騎士は常に正々堂々。集団で1人にかかるなど下衆のやることだよ。血がみたいのならスラムにでも行くとよい」
一丁前に頭が切れるのか挑発にも揺るがない。
「騎士の方。名前は?」
「筆頭騎士。ミランダ」
なるほど。
完全に配下の騎士を掌握する。
筆頭騎士の名にふさわしい見事な統率力。
「貴方は?」
「超・天才剣士。憲伸」
互いを見つめる視線が絡まりあう。
残念ながら俺の見立て違い。
威風堂々としたその態度。
奈美のリンチに関わりは、なさそうである。
「奈美の件。何か知っているか?」
手がかりを失ったのであれば。
目の前の騎士には、その分、働いてもらわねば折り合いがつかない。
俺の質問に筆頭騎士は、しばし硬直する。
「……聞いている。残念な事件だった」
だった。か。
所詮。連中にとって留学生の件など一時のこと。
すでに過去の記憶。
だが、俺の中では、まだ終わってなどいない。
「構内での事件。大勢で1人をリンチするのは下衆のやる事ではないか?」
「全くその通り……申し訳ない」
筆頭騎士が頭を下げる。
「筆頭が頭を下げる必要ないっすよ」
「だって、俺ら関係ねーし」
事件は知っている。
だが、自分たちが犯行を行ったのではないという。
では、なぜ頭を下げる?
「リンチにあうその前。構内の立ち合いで怪我を負ったという。立ち合い相手は誰だ? お前か?」
対峙する筆頭騎士。
冷静にして寡黙な相手だが、圧倒的な気を感じる相手。
怒らせてはマズイ相手。
敵対するのは得策ではない相手。
仮に奈美が不覚を取るのであれば、コイツだろう。
「彼女は強かった。彼女こそ騎士にふさわしい高潔な逸人」
あのアバズレが高潔だというのなら、俺など菩薩である。
「彼女との立ち合い。残念ながら私は彼女に手傷を負わせることは叶わなかった」
なんだ……名前だけでたいしたことないではないか。
「彼女に手傷を負わせたのは……セーラ。銃マスター・セーラ。」
やはり銃か。
「セーラ。どこにいるのか?」
「極上サロン。高級貴族の集う場所」
必要な情報は得られた。
騎士に背を向け、歩き去る。
「極上サロンへ行くのなら、止めておいたほうがよい」
背後から聞こえる筆頭騎士の声。
止めろといわれて、止めるわけにもいかない。
そのために、英下衆国まで来たのだから。
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壁際でつまらなそうに立ち合いを見つめるココロちゃんに声をかける。
「ココロちゃん。極上サロンというのはどこにあるのだろうか?」
「にゃ!? おにいちゃん。そんな場所に何の用事にゃん?」
極上サロンの言葉に、一瞬、ココロちゃんの顔が驚いて見える。
「ココロちゃん。知っているのなら案内して欲しい。セーラという者に用件がある」
「いやにゃん。ココロは撫子のお供だから、おにいちゃんの頼みは聞く必要ないにゃん」
ごもっともではある。
肝心の撫子はといえば、道場で戦士に混じって剣を振っていた。
「かー。まいったー」
「お嬢ちゃん。強すぎんよ」
「まるで歯がたたねえ」
「嬢ちゃんは天才剣士だぜ」
「いえ。まだまだ。お手合わせ、お願いします」
……まあ、今日はまだ編入初日。
焦ることはない。