6.大学、スピニング・ブレイク
英下衆大学の校門。
撫子とココロちゃんの2人と合流。
さっそく構内へと足を踏み入れる。
「おい。あれ見ろよ」
「新しい留学生か」
「あの男。殺人未遂で捕まったそうだぜ」
「なんでそんな男が放し飼いに?」
「圧力だよ。外交特権。きたねー野郎だ」
ひそひそ噂をするのは良いが、聞こえているぞ。
「おにいちゃん。有名人でうらやましいにゃん」
うらやましいのなら、なぜ俺から距離をとるのか?
撫子の影に隠れるよう、遠ざかるココロちゃん。
そんなシャイなところも魅力的である。
「みなさん誤解しています。憲伸さんは暴漢に襲われ、仕方なく自衛しただけなのに」
おのれ。撫子め。
たかが暴漢に襲われた程度で、俺が本気で自衛したと侮っているのか?
あのような技。ただの児戯に過ぎない。
ただ、相手をいたぶるために刀を抜いたまで。
本来なら、小指1本で追い払えたというのに。
「撫子ちゃん。最初の講義は何処いくにゃん?」
「うーん。憲伸さん。決めてもらっていいです? 私もご一緒します」
ほう?
異国の大学で初めての講義。
何を選択するかで、俺の実力を見極めようと。
そういうわけか?
「だが、俺は大学生。撫子くんは高校生。俺が選択する講義に着いて来れないと思うが?」
「そうかもしれませんね。でも、1人で講義を受けるのも寂しいですから……理解できないまでもご一緒させてください」
舐められたものだ。
どうせおめーが選択する講義なんて、保健体育とかエロ方面だろ?
ギャハーってな寸法か。
そうまでいうのなら、一番難解そうな講義を選択するまで。
「えー。相対性理論がーどうとかこうとか微分積分があれとかそれとか……」
なんだ?
この講師は何を言っている?
さっぱり意味不明なのだが?
講義するにも地球の言語で行ってもらわねば困るという。
「あの講師。ところどころ解釈が間違ってるにゃん。相対性理論とは……」
「ああ。それで理解できました。どうりで、私が習った授業とは……」
この2人は何を言っているのだろうか?
俺を欺くため、分かった振りをしているのだろうか?
ともあれ、一番の年長者である俺が置いて行かれるのはマズイ。
「……なるほど。さすが英下衆大学の講義はレベルが高いな」
適当にうなずいておくとする。
「……怪しいにゃん」
そんな艶めかしい目で見ないでくれ。
構内だというのに欲情してしまう。
「それじゃ次の講義は私が決めてもいいですか?」
良くはない。
「撫ちゃんが決めるにゃん」
決めるんじゃない。
「それじゃ次は、戦闘訓練に行きましょう。私。英下衆騎士の訓練に興味があります」
脳筋野郎め。
だが、まあ、戦闘訓練に興味があるのは事実。
「やれやれ。仕方ない。俺も行くとしよう」
もしかすれば、本物の銃が見れるかもしれない。
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ココロちゃんに案内され訪れた武道場。
槍を手に訓練する者。
剣を手に訓練する者。
大きく2種類に別れて、訓練が行われていた。
「槍を持つのが騎士。剣を持つのが戦士だにゃん」
英下衆国で最も有名なのは、槍を持つ騎士。
事実。武道場でも槍の訓練を行う者が大半である。
「私たちも訓練に混ぜてもらえるのかしら?」
当然。同じ生徒であるからして問題ないだろう。
「君たちが留学生か。英下衆流は実戦形式での訓練となる。武器を持って集まれ」
問題は騎士の訓練か。戦士の訓練か。
どちらの訓練に参加するかだが。
「やっぱり最初ですから、同じ剣を使う戦士の訓練が良さそうですね」
撫子は木刀を手に戦士の集団へと歩み寄る。
「撫子です。日本から留学に来ました。よろしくお願いします」
一礼。戦士たちへと挨拶する撫子。
「ひゅー。礼儀正しいね」
「留学かい? 大歓迎だよ」
「可愛い……ぽっ」
「さ。一緒に訓練しようか」
英下衆紳士というだけあって、なかなか礼儀正しいようである。
いきなりの乱入者とも仲良く訓練するあたり、さすがである。
しかし、撫子め……ヒヨったな。
剣を使っての訓練など、日本でいくらでも可能である。
せっかく本場。英下衆国まで来たのだ。
英下衆騎士と訓練せねば、意味はない。
俺は木刀を手に騎士の集団へと歩み寄る。
「日本から留学に来た憲伸です。よろしくお願いします」
一礼する俺の姿に、騎士の一団が騒めいた。
「また日本からの留学生か」
「野郎。英下衆騎士が舐められたまんま終わるものかよ」
「コテンパンにのしてやろうぜ」
「ぶっころす」
なぜ殺気立っているのか?
英下衆紳士の礼儀正しい対応はどうなったのか?
「前は、未知の武術である日本の剣術に後れをとったが」
「同じ手はもう食わないぜ」
「今度は俺たちが勝つからな」
前は? 今度は?
そうか。奈美のことか。
どうも連中の口ぶりから察するに。
奈美の奴は、騎士を相手に立ち会い、ボコボコに打ち倒したようである。
だが、待って欲しい。
騎士をボコボコにしたのは奈美であって、俺は無関係である。
無関係である俺を相手に、怨念のこもった目を向けるのは、やめて欲しいところである。
「来いや。おらあ」
いつの間にか俺の眼前には、金属鎧を全身にまとい、金属槍を構えた男が立っていた。
ただの講義でただの立会だというのに、ガチ装備すぎではないか?
確かに槍の先端は丸められ、殺傷力は落とされているが、金属の固まりに変わりはない。
当たり所が悪ければ、死にかねない立ち合い。
だが、まあ……
「お手柔らかに頼む」
一礼。腰から木刀を引き抜き眼前に構え立つ。
連中が奈美への恨みを口にするのなら。
奈美をリンチした犯人の可能性もある。
俺の目的は2つ。
最強武闘大会での優勝。
そして……奈美をリンチした犯人を見つけ出し、仇を討つことだ。
「死ねやおらー」
槍を両手に騎士が突撃する。
金属鎧を身にまとうその身体。全身が凶器と化すランスチャージ。
槍を回避したとしても、鎧の体当たりを食らえば、全身の骨が打ち砕かれる。
迫る槍先を前に、身体を半回転。
独楽のように身を捻り、槍先をすり抜けると同時。
片手にする木刀を遠心力のまま。
相手の頭部へと叩きつける。
スパーン
小気味よい音と同時。
突進する相手の進路がわずかにズレていた。
必殺の体当たりは目標を逸れ、俺の脇を通りすぎ。
ドカーン
騎士は派手に床へと転がり倒れ込む。
「超・天才流剣術。スピニング・ブレイク」
いかに頑丈な兜を被ろうとも。
頭部を打ち脳震盪を誘発させる。
超・天才流剣術の前に、鎧は意味を成さないことを思い知ると良い。