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5.路地、ライトニング・スラスト


大使館での話は終わる。

俺たちの転入は明日。

月曜日の朝。大使館前に集合ということで決定する。


「憲伸さん。本当に大使館に泊まらないんですか? もう外は暗いし危ないですよ」


そう。俺の身を案じる撫子なでこだが……

おのれ。嫌味か?


留学費用を国が負担するのは撫子ただ1人。

俺が大使館に寝泊りできないことを、知って言っているのか?


しかし、俺は超・天才剣士。

江戸時代で例えるなら、武士である。

弱音を吐くわけにはいかない高貴な身分。


「これも修行の1つ。異国の地を自分の目で見ておきたいのだ」


撫子に手を振り、俺は大使館を歩き去る。


トボトボ


時刻はすでに夜闇。

はたして飛び込みで泊めてくれるホテルはあるのだろうか。


本来ならココロちゃんを捕まえたかったところだ。

英下衆貴族であるココロちゃん。当然、自宅も英下衆国にあるわけだ。

心優しく可愛い天使であるココロちゃんに頼めば、泊めてもらえたはずなのに。

話しかける直前。慌てたようにココロちゃんが消えてしまったのが残念である。


トボトボ


しかし、さすが世界最強にして最先端の国。英下衆国。

夜だというのに通りは明るく、いまだ大勢の人が行きかっていた。


眠らない街といわれるだけのことはある。

しかし、俺は眠りたい。


英下衆国との時差は8時間。

今。英下衆国が夜だということは、本来なら深夜もよいところ。

眠いはずである。


「うふん。おにいさーん。どう? 寄ってかなーい? 1晩100ドルぽっきりよー」


眠気でフラフラ街をうろつく俺に、声がかけられる。


誰かと振り向けば、ボインボインの金髪美人。

残念ながら俺の守備範囲ではない。


だが、寝床があるというのなら、誘いに乗らざるをえない。


「うふん。こっちよーん。足元が暗いから注意してね」


女の背を追い、ビルとビルの間の路地を進んでいく。

眠らない街といえども表通りを1本、裏に入れば薄暗く不気味である。


「うふん。ここよーん」


女が立ち止まるは、路地の突き当り。

壁に秘密の抜け穴でもあるというのだろうか?


「うひょー。アンナ。でかした」

「そこそこ金持ってそうじゃん」

「ここでお眠りしてもらうぜー」


背後から複数の声がする。

明らかに剣呑なその響き。


「あり金を全部だしな。それで命だけは見逃してやんよ」


やれやれ。

常人ならあっさり騙されたのだろうが……

まさか超・天才剣士である俺をあざむけるなど、思ってやしないだろうな?


正面。

路地の突き当りで、妖艶な笑みを浮かべるボインボイン女。


「うふん。あんたはねー。ここの地面でお眠り──」


ボコオッ


「げぼらぁああぁ」


ボイン女の話が終わるその前に。

腹へ拳を打ち込み黙らせる。


「ア、アンナアアアア!」

「や、やろう。アンナに何しやがる」

「女を殴るなんて最低な野郎だぜ」


ボイン女の役目は終わったのだ。


初めての異国の地。

扱う武器も異なれば、修める武術の種類も異なるもの。

大学へ通うその前に。

ゴロツキどもを相手に、本場の戦いを経験する。


そのための撒き餌。


「ファックユー。かかってこい」


異国流の挨拶の後。腰の刀に手をかける。


「アンナの仇や。死ねー」


先頭に立つ男が懐からナイフを取り出し、腰だめに走り寄る。


周囲を囲うビルの壁面。

狭い路地において、取り回しの良いナイフは有効な武器である。


「ぎゃはーおめーの長い武器じゃ、抜けやしねーだろ」


反面。

俺が腰に履く刀の刀長は70センチ。

迫い路地で振り回すには長すぎる刃。


ズドスッ


突き刺さる刃。


「ひぎゃあああ」


絶叫を上げてチンピラがのたうち回る。


「超・天才流剣術。ライトニング(小太刀)・スラスト(突き)


鞘から抜くと同時。

小太刀をチンピラの脇に差し込んだのだ。


俺が腰に履く刀は2本。

通常の太刀と小太刀。


狭い路地であろうとも。

小太刀であれば、取りまわすに何の支障もない。


ナイフを取り落としたチンピラの頭へ拳を叩きつける。


ドカン


気絶によるノックアウトで戦闘不能。

チンピラ相手だろうが、負ける気はしない。

さすがは超・天才剣士の俺である。


「や、やろう!」


血を流して倒れる仲間を見て、残る2人は明らかにびびっていた。


「どうした? 銃はないのか? 貴様ら雑魚が俺を倒すには、銃でもなければ無理だぞ」


例え異国の地であろうとも、俺の超・天才流剣術は通用する。

後は、銃を相手に戦えるかどうかを知るだけである。


「んな、銃なんて高価な物。あるわけねーだろ」

「銃を買う金あるなら、カツアゲやってねーっての」


開発されたばかりで、いまだ英下衆国以外には出回っていないという銃。

さすがにチンピラが持てるほど、お安い代物ではないようだ。


「つまらん。ならばもう用はない。死ね」


ドカン


残る2人。

先頭の男を殴りつけ、気絶させる。


「ひー。た、助けてくれえええええ」


あろうことか、最期に残る1人は悲鳴とともに路地を逃げ出していた。


仲間を見捨て、逃げ出すなど……

英下衆国。紳士の集まる国だと聞いていたが、噂程ではないようだ。


仕方がない。

血を流して気絶する男の身体。

包帯を巻き付け応急治療を施してやる。


死ねとは言ったが、本当に死なれても困るのだ。

殺人罪で捕まったのでは、大会に出場できなくなる。


最後に気絶する2人の身体から財布を抜き取り、路地を後にする。

今晩の宿代にはなりそうだ。


ウーウー


路地を出る俺の前で、黄色と青に塗装された車が急停車する。

車体に書かれた文字から判別するに、どうやら警察。

パトカーのようである。


何か事件でもあったのだろうか?

確かにこの辺りの治安は悪い。

俺ですら美人局により、有り金をむしられる一歩手前だったのだ。

素人であれば、尻の毛まで全て抜かれているだろう。


ご苦労様です。


パトカーを降りる警官に会釈する俺の両腕が、ガッチリ両側から取り押さえられた。


「お、お巡りさん。こ、こいつです。こいつが俺のダチを殺ったんす」


警官の背後でギャースカうるさくわめくのは、仲間を見捨てて逃げた男。


「殺人容疑で逮捕する」


哀れ。俺は逮捕されてしまった。



「まったく。憲伸くんが逮捕されたと聞いて、来てみれば」


「すみません。お手数をおかけします」


翌日。

迎えに来てくれた大使館員と共に、俺は警察署を後にする。


殺人容疑で逮捕された、その後。

警官が見つけたのは、路地に転がる男女の姿。


警官が事情聴取しようとしたところ、逮捕されると思ったのか、パニクッた男女は抵抗。

逆に逮捕された後の自供により、俺の殺人容疑は無事、晴れることとなった。


「だからといって、刃物で人を傷つけた上に財布を抜き取ったのだ。私の口添えがなければ、傷害罪と窃盗罪で刑務所いきだよ」


あくまで自衛したまでのこと。何も問題ないというのに。


「だけど、相手を殺さなかったのは良い判断だよ。いくら外交特権とはいえ、人を殺したのでは擁護しきれないからね」


「すみません。ありがとうございます」


まあ、大使館の。国の力があれば、多少の犯罪は揉み消せることが分かった。

昨晩の件は俺的には犯罪ではないが、郷に入っては郷に従え。

英下衆国のルールで犯罪だというのなら仕方がない。


「いや。我が国でも立派な犯罪だよ。それより、ほら。ここが英下衆大学だ」


大使館員に連れられ、英下衆大学の校門まで辿り着く。


「あ。憲伸さーん!」


校門で手を振るのは、撫子と。


「げ。来なくて良いのににゃあ」


面倒くさそうな笑みで手を振るココロちゃん。


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