32.海外留学
憲伸たち3人の前に立ちはだかる戦車。
120ミリの戦車砲が発射される。その寸前。
ズバーン
砲塔を切断。
地面に降り立つ1人の剣士。
その姿は──
「奈美か? 奈美なのか!?」
奈美であった。
「ふん。憲伸。アンタ。アタシが寝てる間に、面白そうなことやってるわね」
この苦境を面白い。か。
まったく……とんだ戦闘民族。
「今ごろになって起き出してきたか。寝坊も良いところだぞ?」
だからこそ、そのふてぶしさが頼もしい。
「うっさいわね。そのぶん働けば良いんでしょ!」
奈美が刀を振るう先は、戦車の車体。
キーン
「かたっ! なにコイツ?」
さすがの奈美も。
戦車を叩き斬ることは無理である。
「んなら……これでどうよ!」
ズバーン
奈美が切り捨てたのは、戦車の下方。
その履帯。車でいうならタイヤ部分。
「このアマ! なんで鋼鉄を斬れるんや! キャタピラがやられたら動けんやろ!」
……叩き斬れるようである。
しかし無茶をする。
仮にも鋼鉄。刀の刃を痛めても知らないぞ?
奈美の刀だからどうでも良いが……
「奈美。下がっていてくれ。その先は。戦車の相手は俺がする」
戦車を離れる奈美を見てとり。
「見て驚け! 英下衆留学でさらにパワーアップした俺の技を!」
肩に構える無反動を発射する。
「超・天才流剣術・改2甲。バスター☆バズーカ」
チュドーン
砲弾は戦車の装甲を直撃。
盛大に爆発。四散させる。
「アンタ……なにそれ?」
「超・天才流剣術・改2甲。バスター☆バズーカだ」
「……は? ぜんぜん剣術じゃないじゃない」
やれやれ……これだから素人は困るのだ。
そもそもバスター・バズーカというのはだな……
「んにゃー! 奈美にゃん。無事だったにゃん!」
「ココロ。その……どうも迷惑かけたみたいね。ありがとう」
肩に担ぐ姿勢がキモであるからして、うんぬんかぬん……
「奈美くん。その、久しぶり。といっても私のことは覚えていないか……」
「え? ミランダでしょ? 筆頭騎士。手ごわい相手だったから、もちろん覚えてるわよ」
「手強い……奈美くんに槍を当てるすら出来なかった私だが……それでもか?」
「当然じゃない。筆頭騎士の防御。もの凄く上手かったもの。ほんと、苦労したんだから」
引き金を引くタイミングが、にんともかんとも……
「ナミ。ごめんなさいなの。わたしのために大怪我を……」
「ゴミィ……謝るのは私の方。守り切れなくて。途中でいなくなって、ごめん。でも……今度は守るから!」
……誰も俺の話を聞いていない。
というか、ゴミィ。
お前。控室にいないと駄目だろう。
危険な闘技場内にまで来てからに。
「わいの戦車が……わいの夢が……こんのガキ……ガキイイイイイ! わいの邪魔ばかりしくさりおって!」
どうやら俺の相手をしてくれるのは、ただクロマックだけ。
ならば。
「来い! クロマック。降りて来い。貴様も戦士なら、正々堂々。最後の勝負といこうではないか」
「アホんだら! ワイは将官や。指揮官や。お前のような木っ端兵隊とは違うんやで。お前の相手は、貴族クラブの兵隊どもやがな!」
闘技場。入口ゲートを通り。
銃を手に多数の貴族クラブの面々が姿を現した。
「いくでー」
「せやけど、あいつら戦車を……」
「アホ。ここで行かな、クロマックさんに殺されるだけや」
「せやな……行くしかないでー」
貴族といえど、下級貴族。
上級貴族であるクロマックの命令には逆らえない。か。
「おらー。とりあえず、新しく来た女を狙え!」
「せや。ココロさんやミランダさんは危険やしな」
「あんな女。なんか弱そうやし、いくでー」
「いっせい射撃やー死ねー」
突撃する貴族クラブ。
総勢10名が構える小銃。
その狙いは、奈美。
ちっ。
奈美の奴は以前、小銃にやられて大怪我を負ったばかり。
トラウマ。フラッシュバック。
あれだけの小銃に狙われては、悪夢がよみがえる。
「奈美くん。ここは私に!」
大盾を持って奈美を庇おうとする筆頭騎士。
「……必要ないわ。どいていて」
片手で制した奈美が、刀を抜き放つ。
白木の鞘から引き出される白銀の刀身。
その刀身には、70センチもの長さに渡り、青白く波打つ刀文が浮かんでいた。
まさに名刀と呼ぶにふさわしい、その逸品……
「……待て。奈美。それは……俺の白銀刀ではないか!」
あのアマ! 俺の白銀刀で戦車を。
鋼鉄を斬りつけたというのか?!
ダーン
奈美を狙い、一斉に発砲される小銃。
迫る銃弾の数は10。
「ふー……はあっ!」
キーン
ただ一刀。いや……ちがう。
いったい何回。斬ったのか?
以前とはまるで桁違いの、その剣速。
まるで目にも止まらぬ電光石火の剣。
全ての銃弾が斬り払われ、地に落ちていた。
……奈美のやつ。
怪我する以前より、はるかにパワーアップしている。
敗北を糧に、さらに強くなったというわけか。
もはや俺の剣など、届かないほどにまで……
「アンタの母さんから預かって来たのよ。アンタが野垂れ死んでないか。これを持って見てきてくれってね」
母さんが? 質屋から買い戻したのか?
というか、そのようなお金があるのなら。
最初から質に入れる必要なかっただろう。
「アンタの覚悟を試したって言ってたわよ?」
……なるほど。
父の遺品を手放してでも。
名刀を売却しても、守るというのかどうか?
俺の本気を試したと。
そうであるなら──
「見せてやろう。俺の覚悟。俺の本気。この俺の奥義を!」
パワーアップしたのは俺も同様。
その俺の最大最強奥義。
「超・天才流剣術・改2甲。ガトリング☆デストロイ」
ドガガガガガガガ
「ぎゃー」
「しんだー」
「やっぱりか」
「さよーならー」
10名もの銃士を一瞬で粉微塵とする。
これが超・天才剣士・改2甲。これが俺の実力。
「なんか……アンタ。変わった?」
お前……目が悪いのか?
今の俺は全身が武器庫と化しているのだ。
どこをどう見ても。以前の俺とはまるで別人。
「んー。そうじゃないわよ。なんか吹っ切れたというか……」
……そうか。
だとするのなら。変わったのは俺の心。
奈美に敗れ。その強さに置き去りとなる。
剣について。将来について思い悩む日々。
だが、そうではないと。
何も悩む必要はないのだと。
例え剣に劣ろうとも。世界は剣だけではない。
他に生きようは、いくらでもあると。
それを教えてくれたのが、英下衆国。
奈美の敵討ちから始まった海外留学。
それが、いつの間にか俺の成長へと。
本当の留学になったというのであれば──
今こそ。お世話になった英下衆国に。
最大の感謝をこめて。
「クロマック。英下衆国に仇なす暴徒。日本を代表して。この俺が、西古 憲伸が貴様を討つ」




