31.無茶苦茶
憲伸の発砲を合図に。
ターン ターン ターン ターン ターン ターン
貴族クラブのスナイパーライフルが一斉に発砲される。
その弾道に向けて、構える大盾。
キーン
特製というだけあって、スナイパーライフルの狙撃すら防ぎきる。
フル装備型となった超・天才剣士・改2甲は、攻守において万全。
半端な攻撃が通用するはずもない。
「なーにが万全じゃい」
「背中がガラ空きやがなー」
「おうさ。死ねー」
甲型。唯一の弱点を見抜くとは……貴族クラブのくせに生意気な。
本来ならば、ミランダの防弾鎧を着用したかったところ。
しかしながら、さすがに特注のオーダーメイド鎧。
サイズが合わず、着用出来なかったのが悔やまれる。
したがって、超・天才剣士・改2甲。
大盾を構える全面は無事なれど、右側面。
そして背面からの攻撃には、無頓着。
「もらったでー!」
ターン
スナイパー貴族の狙撃弾が憲伸の背後に迫り来る。
「んにゃー!」
カキーン
ココロちゃんが拳銃の平で銃弾を受け、弾いていた。
「このバカにゃん! 無頓着だと分かっているなら、避けるにゃ!」
「ココロちゃん……いいのか?」
「いいわけないにゃ!」
俺に味方する。
それは、すなわち英下衆に歯向かうということ。
「ちがうにゃ! ココロちゃんが歯向かうのは、あの男だけにゃ!」
ココロちゃんが睨み付けるのは、解説席でマイクを持つ男。クロマック。
「ココロ……おまえ。英下衆貴族のくせに日本人の肩を持つんか?」
「英下衆とか日本とか関係ないにゃ! 大会ルールはルールにゃん。英下衆貴族は紳士たれ。にゃん。ルールを無視して、英下衆に反抗しているのは、お前のほうにゃん!」
「そのとおりです。クロマックさん。英下衆の名前に泥を塗るような真似は、いけませんよ」
「じゃかあしゃあ! 勝てばええんや。勝てば! お前ら! ココロもまとめて。無茶苦茶やったれ!」
ドカーン キュラキュラキュラ
闘技場の入場口。
入口ゲートをぶち怖し、金属音を響かせて1台の車が入場する。
「ただの車やないで。戦うための車。戦車や!」
「んにゃー! もうほんとに無茶苦茶にゃ!」
「超・天才流剣術・改2甲。ガトリング・デストロイ」
ドガガガガガガガ
連続発砲するガトリング弾。
その全てが戦車の装甲に弾かれる。
「がはは。車体全体を大盾と同じ鋼板で覆っとるんや! おまけに120ミリの弾丸を発射する戦車砲が付いとるんや。当たれば即死やでえ!」
大盾と同じ鋼板。か。
左肩に吊るす武器。
無反動砲を手に取り、左肩に構える。
「あっ……あかーん! 無反動砲はアカンて! おまえ。戦車がいくらするんか知ってるんか? そんなん。もし壊されたら。わい終わりやがな! お前ら。はよ撃て。撃たんかい!」
ターン ターン ターン
クロマックの叫びに、スナイパー貴族が発砲する。
「ちっ!」
キーン
やむなく大盾を使い防御する。
しかし……スナイパー貴族の狙撃が邪魔して、無反動砲を構える隙がない。
「ココロちゃん。スナイパー貴族を黙らせてくれ」
「無理にゃー! ここから距離が200メートルはあるにゃ。ココロちゃんの拳銃じゃ射程外にゃ!」
仕方がない。
俺は背負うスナイパーライフルをココロちゃんへ手渡した。
「スナイプ・デステニーを貸し与える。これで何とかしてくれ」
「スナイパーライフルに勝手に変な名前つけるにゃ! それにココロちゃん。これ使ったことないから無理にゃ!」
「それでは、このバスター・バズーカを貸し与える。こちらで戦車を任せる」
「それこそ無茶だし、そんな名前じゃないにゃー!」
あれもダメ。これもダメ。
ココロちゃん……それで本当に銃マスターなのか?
「ココロちゃんは武闘会に向けた近接タイマン仕様にゃ! 用途が違うだけにゃー!」
……ココロちゃんには幻滅だ。
敵だったときは手ごわかったが、味方になると役立たない。
典型的な駄目キャラではないか……
「憲伸くん。私にその大盾を貸し与えてくれないか?」
間近に聞こえる声に振り向けば。
全身防弾鎧に身をまとう、筆頭騎士・ミランダが立っていた。
「筆頭騎士……良いのか?」
「あかーん! 良いわけあるかいな! こら! ミランダ! お前。お前が優勝や。せやから大人しくしとらんかい!」
何やら口うるさくわめくクロマックを余所に。
筆頭騎士ミランダは大きくうなづいた。
「無論。銃を持とうが私は私。そして騎士道精神。それこそが私が私である理由。よって」
大盾を手に、筆頭騎士は憲伸の前に立ちはだかる。
「大会優勝者は憲伸くん。卑怯にもそれを曲げようというのなら……その身は、この筆頭騎士が守ってみせる!」
カン カン カン カン
器用にも。力業にも。
大盾を前後左右に振り回し。
周囲からの狙撃。全てを防いでみせる筆頭騎士。
「やるではないか。筆頭騎士。ココロちゃんより役に立つ」
その間。俺は自身でスナイパー貴族を狙撃して回る。
「うるさいにゃ! それより戦車が発射体勢に入ったにゃー!」
120ミリ主砲。
その砲塔が、奮戦する3人へと向けられる。
「ふん。騎士をなめるな! 英下衆騎士流防衛術。ナイト・オブ・パーフェクト! どこからでも来るが良い!」
何やらノリノリで、戦車に向けて大盾を構える筆頭騎士。
どう考えても、大盾で止められそうにないと思えるが……
「任せた。俺はバスター・バズーカの準備に入る」
完璧だというのなら任せるほかない。
「任せちゃ駄目にゃー! 無理にゃから。絶対、死ぬにゃー!」
大丈夫。死ぬのはココロちゃんではない。
仮にも大盾。筆頭騎士が死ぬくらいで済むはずだ。
「にゃから死んじゃ駄目にゃって!」
駄目だとは言われても。
戦車はすでに射撃体勢。
苦渋の決断。今さらどうしようもできないもの。
俺に出来るのは。
バスター・バズーカを肩に構え撃つ。
筆頭騎士の弔いを成し遂げる。ただそれだけだ。
「えーい。もうええ。こうなったら優勝はこのワイや。ミランダもまとめて。いてもうたれー!」
戦車砲塔が、今。まさに発射される。
その寸前。
ズバーン
真っ二つに叩き斬られる砲塔。
ドカーン
次いで小さな暴発。
戦車砲の発射に失敗。戦車が動きを止めていた。
……なにごとだ?
鋼鉄で作られた戦車。
もちろん、その砲塔も鋼鉄で作られている。
並大抵の腕で切断できるものではないはずだが……
「憲伸。アンタ。なに楽しそうなことやってんの?」
刀を手に戦車の前に立ちはだかる。
生意気そうな、その姿──
「まさか……お前……奈美か? 奈美なのか?!」
奈美である。




