30.優勝
最強武闘大会。その決勝戦。
いよいよ最後の出陣の時。
「ケンシン。ほら。見るの。この大盾」
ほう?
その大きさ、重さゆえ、両手で支える必要があった大盾。
それを皮バンドでもって、片腕に固定できるよう改造したのか。
この短時間にさすがはゴミィ。
これぞ天才の仕事である。
「……瞬間接着剤だけど……きっと大丈夫なの」
まあ……短時間でも保てば良い。
重要なのは盾であるということ。
「それで、ケンシンどうするの?」
もちろん──フル装備で行く。
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「それでは、最強武闘大会。いよいよ決勝戦。両選手の入場です」
「はあ……まさか、日本人が決勝戦まで来るとはなあ……ま、まあ銃のアピールにはなってるし? どうせココロには勝てんやろうし、ええか」
入場口を歩きゲートをくぐり、場内へと足を踏み入れる。
「さあ。最初に入場したのは……ああーっと!? これは……超・天才剣士・改2選手。もの凄い武器の数だああああ!」
「なんや……あれ……あれは、なんやあああっ!?」
もはや、俺は超・天才剣士・改2にあらず。
まず、右腰に太刀である撫子一徹を。
左腰に拳銃と小太刀を差し込んでいく。
首からお腹にかけて吊り下げるのがサブマシンガン。
ベルトで腰の後ろに括りつけるのがショットガン。
背中には、スナイパーライフルと斬鉄刀をたすき掛け。
右肩から吊り下げるは、ガトリングガン。
ついで、左肩から無反動砲を吊り下げる。
最後に左腕に大盾を固定して……完成する。
これが、超・天才剣士・改2。
そのフル装備型の甲型である。
ランクは限界突破のSSSSS。
地上最強の剣士。今がお披露目の時。
「どうやら、またまた選手名の変更。超・天才剣士・改2甲選手のようです。いやーそれにしても……凄い武器の数ですねえ」
「無茶苦茶やがな……むちゃくちゃでんがな! あんな装備。重すぎて動けんやろ? 動けるの? どんな体力やねん。せやけど……アカンて! あんなん反則やがな!」
続いて反対側より、入場するは、ココロちゃん。
最強のガンマスターに相応しく、見事、決勝進出を決めていた。
場内にて相対する俺とココロちゃん。
「ココロちゃん。ひとたび開戦すれば、この超・天才剣士・改2甲。手加減することはできない」
右肩から吊り下げるガトリングガン。
その銃身を左手で固定し、右手でクランクを握りしめる。
俺がこのクランクを回すと同時。
3つの銃身が回転を始め、次いで、ガトリング弾の高速連射が開始される。
刀であれば、みね打ちなど手加減もできようが、ガトリングガンに加減はない。
鉄板すら貫通、破壊する大口径のガトリング弾。
例え急所を外そうとも。
身体を掠めるだけで、即。致命傷となるその威力。
防ぐことも避けることも叶わず、ココロちゃんは死ぬだろう。
よって。
「ココロちゃんに降伏を勧告する」
このような戦いで、命を散らすには惜しい少女。
慈悲の心でもって見逃すのが、侍魂というもの。
「おおーっと! ここで超・天才剣士・改2甲選手。いきなりの降伏勧告だああああ!」
「は? はああああ?! なんや! アホかいな! ココロが降伏するはずあらへんやろ!」
プルプル。
うつむき加減に震えるココロちゃん。
「はい……ココロちゃん。降参します」
ポツリ。それだけを口にする。
「受け入れたああああ! ココロ選手。降参です。これは、つまり……超・天才剣士・改2甲選手。優勝です!!!」
「は? はああああ?! なんでや! そんなんアカンがな! 日本人が優勝とか! アカンって! こら! ココロ! アホか! われ舐めとんのか!」
場内に鳴り響くアナウンス。
その声に応えるようココロちゃんが言い放つ。
「アホはお前にゃー! あんなのと戦えるわけないにゃー! ココロちゃん。死んでしまうにゃっ!」
「そうですよね。無理もありません。あんな化け物を相手に。誰も戦いたくありませんよ」
「アホか! 無理とはなんや。無理とは。ココロ! 戦え! ええから戦わんかーい!」
真の強者は戦わずして勝利する。
圧倒的武力の常備。
これこそが平和への近道というものだ。
「無理にゃー! そんなに戦いたいなら、お前が戦えにゃー!」
とんでもない逆切れ。
クロマックとかいう監督も大変である。
「ココロ……われ。覚悟できとるんやろうな?」
「覚悟もクソもないにゃー! だいたいガトリングガンを奪われたお前が一番の敗因にゃー! 監督クビにゃー!」
何やら2人がギャースカやりあっているが……
とにかく、これにて、ココロちゃんへのリベンジも終了した。
おまけに、最強武闘大会にも優勝。
最後にひと暴れしてみたかった気もするが……最強すぎるというのも罪なものだ。
「えー。それでは、ココロ選手の降伏により、優勝は──」
「ちょっと待ったらんかい! はあ……ココロと戦ってる隙に、こっそり援護したろ思とったんやけど……もうええ。ココロもまとめて……みんなやってまえ! やったらんかい!」
解説の合図で。クロマックの合図で会場が動く。
観客席。その最上階から、スナイパーライフルを構える英下衆貴族が無数に姿を現した。
「ああっ?! 彼らはいったい? 解説のクロマックさん。これはどういうことでしょうか?」
「どうもこうもあらへん。ココロと日本人はお互い相打ち。両者死亡で、ミランダ・カノンが繰り上げ優勝じゃい!」
最強武闘大会。そのルールすら破ろうというのか。
「これはいけません。実況として不正を見逃すわけには……」
「ええか? この大会は銃のお披露目もかねてるんや。それが、優勝できませんでした。銃が剣に負けましたでは、銃の、英下衆の面目丸つぶれやがな!」
「いえ。あの選手は、その、もう剣士とは呼べませんので、銃の優勝で問題ないかと……」
「だまらっしゃい! 銃なんぞどうでもええんや! 英下衆が優勝できんかったら、監督であるわいの責任問題になる。わいが路頭に迷うんや……あかんやろ?」
「いえ。それは優勝を逃したのですから、当然ではないかと……」
「あほんだら! わいに、わいの家族に死ねいうんか? 死ぬんはあの2人や! ええから、やってまえ!」
クロマックの号令に。
現れた英下衆貴族が一斉にスナイパーライフルを構える。
「おらおらー。俺ら大会運営の貴族クラブや」
「その日本人は卑怯にも大会で不正を働いた」
「英下衆の優勝を阻止するという不正をなあ」
「せやからして射殺する」
「観客のみなさんは、なんも心配あらへん」
「ここで卑怯な日本人が死ぬとこを見物していってや」
貴族クラブ。
やはり最後は互いの決着を付けねば日本には帰れない。
そういう運命であるのなら──
「超・天才流剣術・改2甲。スナイプ☆デステニー」
ターン
先手必勝。
「うぎゃー」
火を吹くスナイパーライフル。
闘技場の最上階。狙撃のため構える貴族を一足早く撃ち抜いた。




