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27.屋上、スナイプ☆デステニー

「行ってきます」


 憲伸と入れ替わり、撫子の出番がやって来る。


「撫子。銃を相手に油断は禁物だぞ」

「撫にゃん。危ない時は、すぐ降参するにゃん」


 その言葉に撫子が振り返る。


「はい。ありがとうございます。勝ってきます」


 お辞儀の後。撫子は闘技場へと足を進める。


「えー。1回戦。第3試合。英下衆選手が敗れるという波乱の結果となりました。続きまして、4回戦です」


「ふん。あんなんマグレやん。アホやん。まあ、ええわい。今度の選手は1味違うでえ」


 場内。

 迷彩色に彩られた服に身を包むベレー帽姿の男が入場する。


「さあ。最初の入場は英下衆代表。ショット・ガーン選手。はたしてどのような戦いを見せるのか」


「はっはっ。ショット選手は現役軍人。それも、英下衆精鋭部隊の一員ですから、もう波乱はありませんよ。さらにはショット選手の持つ銃も一風変わった性能ですからね。楽しみにしてください」


 続いて羽織袴で腰に刀を1本。

 差しただけの撫子が入場する。


「日本からの招待選手。撫子選手。刀を操るサムライガール。情報では先ほどの超・天才剣士・改選手と同じ日本出身だとか。2度目の波乱を起こすことができるのでしょうか」


「なんやと? あのアホのドロボウ野郎と同じやと? ショット。手加減はいらん! ぶっ殺せ!」


 互いに一礼の後。

 闘技場の中央へと歩み寄る。


「これまでいずれも先制射撃で相手を秒殺してきた英下衆選手。しかし、ショット選手まだ銃を構えません。すでにお互いの距離は10メートルを切りました。クロマックさん。これはどういう作戦なのでしょうか?」


「はっはっ。そこがショット選手の持つ銃の面白いところでしてね。まあ、見ていてください」


 互いの距離約5メートル。

 ショットが銃の先端を撫子へ向けた。


 ドガシャーン


 発砲。


 弾丸を斬り弾き返す。

 そう身構える撫子が見たのは、自身に向かう無数の弾丸。


「おあーっと。これはあ?! 1発。発砲しただけにもかかわらず、無数の弾丸が撫子選手に向かっているぞお!」


「これこれ。これですよ! ショット選手の銃はショットガン。散弾。小さな弾丸ですな。それを同時に広範囲にばらまく銃なんです。射程距離は短いですが、もう相手は逃げようがないですよ」


 とっさに抜き放つ刀で、撫子は自身の前方に円を描く。


 カンカンカーン


 回転する刀に弾かれた散弾が、周囲に無数に弾け飛ぶ。


「これはあ!? 撫子選手。弾丸を刀で弾き飛ばしたぞー! 超・天才剣士・改選手に引き続き、またもや凄い剣の冴えです!」


「ほああああ?! ちょ、待てお!」


 しかし、高速で無数に飛来する小さな散弾。

 その全てを弾き飛ばせはしない。


「あーっと! 散弾を防ぎ切ったかに見えた撫子選手ですが……血を流しています。どうやら全部は弾けなかった模様です」


「ふう……いやいや! 全部とかそういう問題じゃないですから。弓矢じゃあるまいし弾き飛ばすとか、本来は土台無理なのが銃なんですから」


 刀を構える腕に血が伝う。

 小さな散弾とはいえ、複数発を受けたのだ。


 ガシャコン


 対するショットは、銃をスライドさせ薬莢を排出。

 新たな弾丸を込め構え直すと。


 ドガシャーン


 再度の発砲。

 散弾とはいえ、これ以上。

 身体に受けようものなら、撫子の敗北は免れない。


「ダメージが大きいのか? 動かない撫子選手に対して、ショット選手が発砲だ! どうなる? 撫子選手!」


「はっはっ。これは勝負ありましたね。女はショットガンを防ぎきれていません。そもそも多少でも防ぐのがおかしいわけですけど……まあ、いいでしょう。風呂はいろ」


 発砲の寸前。撫子は駆けていた。

 前へ。相手の銃口へと詰め寄る。


「んなあー? 撫子選手。これは自殺かあ? 自分から散弾に突っ込んでいったぞー」


「ははっ。気がふれたのでしょう。まだ若いのに可哀そうに」


 ショットガンの放つ散弾も、銃口を発した直後は1つの塊。

 銃口を離れるに従い、ばらけて拡散する。


 必然。銃口に近いほど、散弾は散弾ではなくなるのだ。

 銃口から放たれた弾丸が、弾け、散弾へと変化する。その前に。


「撫子流剣術。平打ち」


 バシーン


 刀の平で。

 固まりとなる散弾まとめて打ち返す。


 ドバシャーン


 弾き飛ばされた散弾が向かう先は、ショットの身体。

 ショットガンを放ったはずのショットが、無数の散弾に自身の身体を貫かれていた。


「あ! ああああっと。撫子選手。散弾を全て打ち返したのかあ? ショット選手。血を流しています」


「へああああああ?! おい! おかしいやろ? 散弾やぞ? なんで? ほわい?」


 血を流して座り込むショット。

 近づく撫子に対して、ショットガンを手放し片手を上げていた。


 すでにショットには、抵抗の意志も武器もない。

 そう判断したか、撫子は刀の切っ先をおさめていた。


 だが、ショットが掲げて見せるのは片手だけ。

 残る片手は背後に回されており。

 撫子が刀を鞘におさめる。その隙を狙って。


 バン


 取り出した拳銃を発砲した。


 勝利したと油断したのか。

 とっさの銃弾を避けきれず、撫子は右足を撃ち抜かれていた。


「あああーっと? 降参したかに見えたショット選手。まだ勝負を諦めていません!」


「ぎゃはー。ようやったでー。でかした! 間抜けが油断しおって! 無茶苦茶やったれー!」


 再びショットガンを手にしたショットが。


 ドガシャーン


 発砲する。


「ああーっと。撫子選手。再び刀を構えるが……これは防ぎきれません! 右腕を大きく損傷。これは勝負あったかー?!」


「よっしゃよっしゃ。ええでええで。降参なんぞアカンでえ。そら。ぶっ殺してまえー」


 腕と足を負傷。斬り払うことも。避けることも叶わない今。

 ここで撫子は死ぬ運命。


 ニヤリ。

 動けない撫子に向けて、ショットガンの銃口が向けられ──


 ズキューン


 発砲音。

 ショットの手から、ショットガンが弾け飛び。

 死の運命までもが、まとめて吹き飛んでいた。


 何が起きたのか?

 慌てて周りを見やるショットだが、場内に他の人影はない。

 客席との間には防弾ガラスがあり、外部からの介入は不可能。

 ならば、いったい?


 弾道を見上げる撫子が見たのは、客席のさらにその上。闘技場の最上階。

 屋根の上に伏せて、スナイパーライフルを構える憲伸の姿。

 防弾ガラスの高さ約10メートル。その上を越えての超精密狙撃。


「超・天才流剣術・改。スナイプ☆(運命)デステニー(狙撃)


 その幻聴を最後に、撫子は力なく地面に倒れ伏した。


「よく分かりませんが……とにかく試合終了! 撫子選手の気絶により、ショット選手の勝利です!」


「なんや? ショットの奴。女に同情でもしおったか? はあ。使えんやっちゃなー」


 救急隊が撫子を担架に乗せ、運び去る。

 憲伸もまた、スナイパーライフルを背負い、その後を追いかけるのだった。

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