26.1回戦、ダイビング☆スター
最強武闘大会。
いよいよその本選が開始された。
「1回戦。まずは我らが英下衆選手が入場します。サブ・マシンガ選手」
中央まで進み片手を掲げるサブ選手。
「うおーいよいよ最強武闘大会の開催やで」
「楽しみだぜ。世界最強の選手を決める大会やもん」
「どの選手が勝つんやろうな?」
「分からん……分かるのは優勝は英下衆選手っつーことだけや」
「とりま、サブ選手を応援しようぜ」
「おー」
場内を盛大な歓声が覆いつくした。
「続いて、海外からの招待選手です。ボクシン・グチャン選手」
アナウンスに続いて入場するボクシン選手。
「うおーまじかよ」
「ボクシンってあのボクシン?」
「すげー選手が出場するなあ」
その上半身は裸。
両手にボクシンググローブをはめての入場。
「これまた凄い歓声です。それも無理ありません。みなさんご存じ。ボクシン選手は、つい先日までボクシング世界チャンピオンだったのです。解説のクロマックさん。これは、サブ選手。厳しい戦いになるのではないでしょうか?」
「はっはっ。まあ、確かに相手が相手ですからね。ですが、英下衆のみなさん。ご安心ください。私の予想ではサブ選手の圧勝ですよ」
闘技場中央で向かい合う両選手。
「さあ。試合が始まりました。お互いの距離は約10メートル。まずは様子を見ていこうといったところでしょうか?」
華麗にステップを踏み、相手選手を値踏みするボクシン選手。
対戦相手であるサブ選手は、だらり垂れ伸ばした手で腰から銃を取り外し。
パパパパパパパッンッ
連続発砲。
「ああーっと! これは何がおこったのでしょうか? ボクシン選手。右腕から血を流しています」
「はっはっ。あれは英下衆の開発した新型銃。サブマシンガンですよ。射程距離はやや短く精度も今ひとつですが、1秒間に10発の連続発砲が可能な武器になっています」
わけが分からないよとばかりに狼狽するボクシン選手。
その姿を尻目に、サブ選手はサブマシンガンの弾倉を交換。
パパパパパパパッンッ
再び連続発砲する。
「ああーっと! またまたボクシン選手。今度は左腕を撃たれました。ボクシン選手。サブ選手に近づくことすらできません。1発もボクシングパンチを放てないまま負けてしまうのでしょうか?」
「はっはっ。まー相手の選手。ボク、なんでしたっけ? まあ、少しは抵抗してもらわないと盛り上がらないですなあ」
両手を上げる。
ことも出来ず、地に頭をこすりつけ、ボクシン選手は降参の意を示していた。
パパパパパパパッンッ
地につける頭が弾け飛び、試合が終了する。
「かー。英下衆選手。強いねえ」
「あれが噂に聞く銃かあ。最強じゃね?」
「ボクシングとか。なにあれ。うける」
「英下衆さいこーや。英下衆ばんざーい」
自国開催。
自国選手の活躍により、会場は盛り上がっていた。
続いて第2試合。
英下衆代表。ミランダ・カノン選手が相手選手を爆破し終了する。
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「超・天才剣士・改選手。試合時間です。入場してください」
「ケンシン。どうするの?」
ゴミィが目を向ける先は、ガトリングガン。
予選大会の戦利品にして、俺の持つ最強武器である。
本選開催までの期間。
ゴミィが整備したため、問題なく使用は可能である。
が。
「必要ない」
右手に太刀。左手に拳銃を持ち、控室を後にする。
ガトリングガンは優れた武器。
いや。優れ過ぎる。というべきか。
ゴミィの手助けを借りて試射した結果。
その銃口は、1分間に100発の銃弾を発射する。
その銃弾は、厚さ10ミリの鉄板をも貫通する。
人間の身体など、あっさり粉みじんに粉砕する破壊力。
人を殺すための武器。試合に使って良い武器ではない。
「さあ。第3試合。続いて入場するのは、予選大会を突破しての出場。超・天才剣士・改選手です」
「おい! あの時のドロボーやん! こいつ。殺せ! ワイのガトリングガンを返せや!」
すでにスナイパ選手は入場済み。
闘技場。憲伸の対角線の反対側。
地面に伏せていた。
憲伸が入場する。闘技場に片足を踏み入れる。その瞬間を狙い。
ターン
狙撃した。
「あああーっと! 超・天才剣士・改選手が入場する瞬間を狙っていたかあ?! スナイパ選手の先制攻撃です!」
闘技場内は広い。
しかし、場内へ通じる通路は狭く、銃弾を回避する猶予はない。
逃げ場のない閉所を狙っての狙撃。
「はっはっ。これは決まりましたわー。スナイパ選手の持つ銃は、スナイパーライフル。1000メートル先のコインでも正確に撃ち抜く、超超遠距離武器なんですよ。もう終わりですわ。風呂はいろ」
狙いは正確。
真っ直ぐ憲伸の心臓へ。
到達する。その寸前。
「超・天才流剣術。バレット・カット」
カキーン
抜き放ち打ち払う。
必殺の狙撃弾は、壁面へめり込み止まっていた。
「ああーっ!? な、なにが起こったのでしょうか? 超・天才剣士・改選手。は無傷です」
「へ? へあああああ?! なんや!? なにがどうなったんや?」
「どうも、超・天才剣士・改選手が、銃弾を切り払ったように見えたのですが……?」
「いやいやいや! ありえへんから。銃弾の速度は音速やで? あんた。そんなん斬り払えるわけあらへんやろ!」
混乱する解説席と同様。
わけが分からないよ。とばかりに困惑するスナイパ選手。
それでも、さすがは英下衆代表。
即座に排莢。次弾装填にかかっていた。
駆ける。
次弾装填までの10秒間。
憲伸は、全力でスナイパの元まで駆けていた。
「あーっと! これはスナイパ選手。危ない。距離を詰められそうです」
「こら! アホんだら! そんなん反則や。こら止まれ! ……いや、間に合うわ。撃て。スナイパ!」
事実。スナイパが射撃体勢に移るころ。
互いの距離は未だ20メートル。
ニヤリ。スコープを覗く顔がにやけていた。
ターン
同時。2つの発砲音が場内に鳴り響く。
必殺の狙撃弾は、前のめりに飛び込む憲伸の頭上を掠め飛び去り。
スナイパ選手の頭が、ザクロのようにはじけ飛ぶ。
「超・天才流剣術・改。ダイビング☆スター」
埃をはたき落としながら立ち上がり、憲伸はつぶやいた。
アクションスターのごとく頭から飛び込み、地面に倒れ込みながらの拳銃射撃。
20メートルの距離から正確にスナイパ選手の頭を打ち抜いたのだ。
「おいおいおいお。英下衆代表が負けたぞ?」
「まじかよ。どうなってんの?」
「銃弾って斬り払えるものなのか?」
「いやいや。無理やろ。まぐれか?」
「そやな。まぐれや。いやー。良かった良かった」
騒めく観衆を余所に、憲伸はスナイパの元まで歩み寄ると。
地に落ちたスナイパーライフルを手に取り、背中に背負う。
「ああああ! あのアホ。またか! 今度はワイのスナイパーライフルを! 返せ! ドロボー!」
「えーっと。勝者は敗者の物を好きにしても、ってこれ2度目ですから。覚えてくださいよ」




