21.改造
「ちなみに……ココロちゃんも最強武闘大会に参加しないと駄目にゃん」
最強を決める大会。
おそらくは、英下衆国の新武器である銃のお披露目をかねた大会。
それこそが、奈美が。今は撫子だが。
他国から腕に自信のある者が招待された理由。
他国から腕利きの猛者を集めた上で、銃でもってボコボコにする。
英下衆国の武力を世界にアピールする大会。それが最強武闘大会。
当然。銃マスターであるココロちゃんが参加しなければ始まらない。
「だから、おにいちゃんの優勝はないにゃん?」
優勝は、ある。
前回の立ち合い。
俺はノーマルの超・天才剣士だった。
だが、次にココロちゃんが戦うのは、超・天才剣士・改。
ノーマルとはレアリティの異なるSSランク。
同じ結果になると思わないことだ。
「ココロちゃんは、やっぱり貴族クラブの代表としてですか?」
「そうにゃん。でも、貴族クラブの代表は、ココロちゃんだけじゃないにゃん」
そもそもが、ココロちゃん。
貴族クラブというには、他の貴族と態度が違いすぎる。
いったいなぜ貴族クラブなど、非道な連中とつるんでいるのか?
「貴族は全員、貴族クラブに入らないと駄目にゃん。お家事情ってやつにゃん」
貴族は貴族で大変そうである。
「ココロちゃん。あまり貴族クラブ好きじゃないにゃん。おにいちゃんが優勝するなら、それはそれで面白そうにゃん。まあ、無理にゃけど」
どうやらココロちゃんも陰ながら俺を応援している。
となれば、あとは優勝するだけだ。
「ケンシン。この拳銃……あ、お客様なの? ナデコと……ココロ」
「ゴミィちゃん。お邪魔してます」
「……にゃん」
ココロちゃん。
相変わらずゴミィのことは、あまり良く思っていないようだ。
「そういえば、おにいちゃん。奈美にゃん。日本帰ったあと大丈夫にゃん?」
……唐突な話題転換。
「自宅療養中。無駄に頑丈だから、じきに治るだろう」
「奈美にゃんは強い。面白い人だったにゃん。なのに……ゴミにゃんだけ、のうのうと英下衆にいるのは、おかしいにゃん」
「……ごめんなさいなの」
「ゴミィ。気にする必要はない。悪いのは銃に敗れた雑魚い奈美のほうだ」
案外。ココロちゃんは根に持つタイプなのか?
いや──違うな。
「もちろんココロちゃんが気にする必要もない」
ココロちゃん。
奈美が貴族クラブにリンチされる要因となった怪我。
自分との立ち合いが原因となったことを気にしているのだろう。
だからこそ、ゴミィに辛く当たる。
「気にするにゃん。ココロちゃん。奈美にゃんとは良いライバルになれると思ったにゃん」
残念だが、それはかなわない夢。
奈美のライバルは俺をのぞいて他にない。
「そういえば、ゴミィちゃん。何か拳銃がどうとか言いかけてましたけど?」
「うん。ケンシンに見せてもらった拳銃。少し改造できそうなの」
「その拳銃。おにいちゃんのじゃなくて、ヤリオのにゃん。泥棒にゃん」
失礼ながら泥棒ではない。
持ち主が名乗り出ない落とし物は、拾った人物の物となる。
そして、ヤリオは半身不随の病院生活。
名乗り出ようはずもないので問題ない。
「ココロの言う通り、わたしは逃げていただけなの。黙っていれば、我慢していれば何とかなるの。と。だから、今は自分からやるの。ケンシンに恩返しすることで、がんばるの」
俺は別にゴミィに恩を売ったつもりは、みじんもない。
強者が弱者を守るのは当然の理屈。
「……好きにするにゃん」
奈美が助けたのに、何も変わらず。
ゴミのままであったゴミィに腹を立てていたのだろう。
ゴミィがゴミでなくなったのなら。
ココロちゃんがゴミィを嫌う理由もなくなった。
「……ありがとうなの。それで、ケンシン。少し改造すれば、拳銃の装弾数を増やせそうなの」
ほう?
本当だとするのなら、拳銃の欠点が解消されるわけだが。
「んにゃ? そんなこと考えてたにゃん? ココロちゃんの拳銃も改造してほしいにゃん」
それは許可できない。
ただでさえ強いココロちゃん。
これ以上に強くなられては困るという。
「あの……憲伸さん。剣士として拳銃を使うのはどうかと……」
撫子。まさか本気で言っているのではあるまい?
「いえ。流派としてどうなのかと。憲伸さんは天才流? でしたよね。師範方がどう思われるか……大丈夫です?」
撫子の心配も、もっともである。
だいたいにおいて歴史のある流派こそ、新しい物を取り込むことに抵抗があるもの。
もっとも──
「その心配は必要ない。天才流剣術の開祖は、この俺だ」
そもそも、天才流剣術を扱うのは俺1人。
門下生など1人もいないのだ。
「我流。大変そうですが……楽しそうでもありますね」
「撫子も我流じゃないのか? 撫子流剣術と言っていたが?」
「いえ。撫子流は500年続く伝統流派」
流派と同じ名前。
もしかすると撫子は、剣術の道では大物の家系なのか?
「私の母も撫子です。代々。撫子流開祖の直系は撫子を名乗りますから」
ということは、撫子が次期当主というわけか。
「いえ……現在の当主は、傍系の者」
本家が分家に取って代わられたということか。
撫子にとっては悲しい話だろうが、実力主義であるならば、よくある話。
「母は剣を振る人ではなかったのです。ですが、当主の直系という期待が強すぎたのでしょう……無理をしすぎたのです」
あまり愉快な話ではなさそうだ。
「周囲の者にとっては期待外れの駄目な母だったのでしょうが……私にとっては、いつも優しい良い母でした。ですから……母のためにも、私は何としても優勝します」
最強武闘大会に優勝。
圧倒的な結果を示して奪われた当主の座を取り戻す。
それが、わざわざ危険な大会に出場する撫子の理由。
俺が出場するのだから運がなかったとしか言いようがない。
「……憲伸さん。やっぱり辞退してもらえませんか?」
同じ日本から出場する者として、撫子を応援したい気持ちはある。
だが、出場する者。誰にも夢があり事情がある。
いちいち他人を気づかい手を抜いたのでは、何一つ成すことはできないのだ。
「残念だが、諦めたほうが良い」
出場する者。全ての夢を打ち砕き、どん底に叩き落とす。
超・天才剣士・改と戦うからには、諦めてもらう他ない。




