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15.立ち合い、ダブルスラッシュ


肩を抑えて地面に横たわる貴族クラブの面々。

総勢9名。

これにて奈美の仇討ちは終了した。


ピーポーピーポー


救急車に運ばれ、入院。

当分。悪さはできまい。


「おにいちゃん。奈美ちゃんのこと。そんなに好きだったにゃん?」


馬鹿なことを。

あんな下品で粗野な暴力女。


ただ、奈美が敗れた連中を退治。

奈美の鼻を明かしたいだけである。

断じてそれだけである。


「奈美ちゃんのことで、ココロちゃんを恨んでるにゃん?」


奈美が怪我をしていなければ。

人質がいなければ、貴族クラブごときに敗北はなかっただろう。

……そう思わないでもない。

だが、それはただの逆恨み。


「正々堂々1対1の立ち合い。勝利したココロちゃんを祝福するだけだ」


勝者を非難しては、敗者は浮かばれない。


「にゃん。でも、奈美ちゃん。その怪我が原因でリンチされちゃったにゃん」


「だからか? ココロちゃんが撫子の案内役を引き受けたのは?」


天使のように心優しいココロちゃん。

撫子が奈美のように貴族クラブに目をつけられないよう。

大会まで危険に近寄らないよう、護衛するつもりだろう。


「そうだったんですか? すみません。私も貴族クラブと敵対してしまいました」


「大丈夫にゃん。撫ちゃんはまだセーフにゃん」


奈美をリンチした連中を退治した今。

俺も、いたずらに敵対するつもりはない。


「おにいちゃんはアウトにゃん。完全に敵対したにゃん」


なんという理不尽な世の中。

悪事を成す連中を退治しただけというのに。

逆恨みも良いところである。


「敵対したとするなら、どうなる?」


「死ぬにゃん」


ココロちゃんの言葉と同時。

構内から。そして構外からも駆け寄る複数の足音。


「ここかー。貴族クラブ相手に暴れとるアホがおるんわ」

「貴族クラブ集合やー」

「これは、ココロさん?」

「その男と女2匹が反抗しとるって奴かいな?」

「え? 女2匹は関係ない?」

「そうっすか。なら男を取り囲めー」


悲しい世の中である。

正義を成した俺が取り囲まれねならないとは。


「そんな……ココロちゃん。どうにかならないんですか?」


俺の身を心配してか、撫子がココロちゃんに問いただす。


撫子。まさか俺が貴族クラブなどという連中に殺されると。

そう思ってやしないだろうな。


「どうにもならないにゃん。貴族は面子を大事にするから、憲伸を絶対に許さないにゃん」


20名を超えても、続々と集まり続ける貴族クラブ。

そのいずれもが、手に銃を抱えていた。


「へっ。ヤリオを倒したからって貴族クラブの組織力をなめんなよ」

「じきに100人の構成員が集まるぜ」

「おう。全員に銃を持ってくるよう言っとけよ」

「おめーもう逃げ場はねーぞ」


まったく……どいつもこいつも。

超・天才剣士を舐めるにもほどがある。


「そもそもが、超・天才剣士に敗北はありえない。俺に敵対して痛い目を見るのは貴族クラブの連中だぞ?」


俺が逃げる前提で。負ける前提で話を進めないでもらいたい。


「そうにゃん? 日本じゃ奈美ちゃんに負けたって聞いたにゃん」


いったいどこから、そのようなガセ情報を……

いまだトータルの勝率は俺の勝ち越しだから、俺の勝利に決まっている。


「にゃん。それじゃ……ここでココロちゃんと少し立ち会うにゃん?」


ほう?

奈美が敗北した相手。銃マスター。ココロちゃん。

俺が勝利したとなれば、奈美のみじめさがさらに際立つというもの。


「そんな。ココロさんの手をわずらわせるまでもないっす」

「こんな雑魚。いっせいに銃を撃てば、あっさりイチコロっすよ」

「俺らに任せてほしいっす」


抗議する貴族クラブの面々をココロちゃんが手を振り黙らせる。


「ココロちゃんに任せるにゃん」


貴族クラブ最強の銃マスター。

貴族クラブの連中に恐れ、敬われるココロちゃんを破るならば。

俺に敵対する愚かさを理解。集まった連中も解散するというわけだ。


「よろしくお願いする」


一礼。

腰から刀を引き抜き、眼前へと構える。


対するココロちゃん。

両手をぶら下げ棒立ちのままである。


「言っては何だが……このまま初めて良いのか?」


お互いの距離は1メートル。


銃を扱うからには、距離を離して戦うのが基本。

いきなり接近した状態から立ち合いを初めては、ココロちゃんに不利である。


「大丈夫にゃん。ココロちゃんは天才にゃん」


大層な自身である。

残念だが、天才の上には超・天才がいるもの。

ココロちゃんには可哀そうだが……敗北を知るのもまた勉強。


「ならば行くぞ! 超・天才流剣術。ダブル・(2段)スラッシュ(斬り)


カキーン


右から袈裟懸けに切り捨てる1刀が、硬質な音と共に弾かれる。


刀を弾いたのは、銃。

ココロちゃんは、懐から取り出した拳銃を左手に、憲伸の刀を弾いていた。


なるほど。さすがは銃マスター。

高速の斬撃を、たかが30センチにも満たない拳銃で防ぐとは。


だが……ダブルスラッシュは超高速の同時2段斬り。


弾かれた反動をも利用して、身体を一回転。

再度、逆方向からの高速斬り返しがココロちゃんへと襲い掛かる。


斬られた者は、左右から同時に斬られたと錯覚するほどの圧倒的速度。

ココロちゃんの拳銃は先ほどの位置のまま。

逆方向からの斬撃に全く反応できていない。


殺った。


カキーン


……む?


逆方向。

必殺の斬撃もが弾かれる。

弾いたのは、またもや拳銃。

ココロちゃんが、右手に持つ拳銃。


右手に拳銃。

左手に拳銃。


これは……ココロちゃん。

拳銃2刀流というわけか。


「2丁拳銃と言ってほしいにゃん」


2刀流も2丁拳銃も。

いたずらに2つ持てば良いというものでもない。

利き手でもない逆の手で、自在に刀や銃を扱う。

常人には難易度の高い領域。


「さっすがココロさん」

「早すぎてよく分からんが……とにかくココロさんぱねえ」

「おらおらー雑魚が。おめーもう終わりや」


刀を受け止めたままのココロちゃんが、さらに接近する。

そこは、互いの鼻と鼻がぶつかる程の至近距離。


左手の拳銃が素早く動き、銃口が狙うは憲伸の身体。


!? これがココロちゃんの戦闘スタイルか!

接近戦のさらにその先。超・接近戦。


「終わりにゃん」


この距離であっても、銃身の短い拳銃ならば自在に振り回せる。

反面。俺の太刀は刃渡りが邪魔をする。振るうに難がある距離。


「ちっ!」


ダン


発砲の寸前。

腰に差す小太刀を左手で抜き取り。


カキーン


銃口を叩き反らす。


「にゃ?! おにいちゃん。やるにゃん」


2刀流。

小太刀がなければ、今の銃撃で終わっていた。


「それは、こちらの台詞」


などと感心している場合ではない。

この距離で戦うならば俺が不利。


右手の拳銃がひるがえり、次に狙うは憲伸の頭。


カキーン


小太刀を振るい、銃口を反らすのが精一杯。


それでも、当座は凌いだ。

拳銃の装弾数は1発きり。

ココロちゃんの左手の拳銃は、先ほどの発砲で弾切れ。


瞬時。

ココロちゃんの手の平から拳銃が滑り落ち。

その両手に新たな拳銃が握られていた。


なに?

まだ拳銃を隠し持っていたのか?

しかも、贅沢にも拳銃を使い捨てることで、銃弾を補充しただと?


小太刀1本では、2丁の拳銃は防げない。

閃く銃口が、憲伸の胸へ押し当てられた。


「やろうっ」


咄嗟に右手の刀を手放す憲伸。


ダン


発砲の寸前。

ココロちゃんの手首をつかみ、銃撃を捻じ曲げる。


「にゃ! いたっいたたたたにゃん」


全力でもってココロちゃんの手首を握りしめる。


この手を離してはならない。

小柄なココロちゃん。

力でもって制圧する。


ドスッ


「ぐふっぅ」


腹に銃把が撃ち込まれる。


つかんだはずの手首がひねられる。

このまま握っていたのでは、逆に俺の関節が決められる。


ココロちゃん。

この動き。ただものではない。

格闘術の心得どころではない。

おそらくは師範クラスの実力。


やむなくココロちゃんの手首を離し、咄嗟に距離をとる。

が、距離を離し態勢を立て直すことは出来ない。


ココロちゃんの持つ拳銃が地に落ち。

その両手に新たな2丁の拳銃が握られていた。


やろう!

いったいいくつ拳銃を隠し持っているのか?


ダン ダン


ココロちゃんの両手の拳銃が火を吹いた。


2発の銃弾が狙うは、対角線上の焦点。

俺の右肩と左足。


刀を投げ捨てた今。

手元に残るは左の小太刀1本のみ。


小太刀1本で切り払うには、難しい。離れた位置。

おまけに近距離からの発砲とあって、銃弾に速度と威力がある。


キン


1発を斬り払うのが精いっぱい。


ズドスッ


残る1発が憲伸の左足を撃ち抜いた。

走る激痛。ほとばしる血。

足の力が抜け、思わずひざまづく。


「にゃん。おにいちゃん。思ったよりも……やるにゃん」


思ったより。だと?

超・天才剣士を何だと思っている?


上から見下ろすココロちゃんもまた、右腕から血を流していた。


「超・天才流剣術。バレット(銃弾)・リバース(弾き返し)。俺に銃弾は通用しない」


弾き返した銃弾が、ココロちゃんの右腕を掠めたのだ。


「思いっきり通用してるにゃん。おにいちゃん。もう両足が使えないにゃん」


確かにココロちゃんの言うとおり。

左足。太ももは、ゴミィを庇った時に撃たれている。

誤魔化しながら戦ってきたが……

右足までもが撃たれたのでは、戦闘速度を維持するのは不可能である。


「つまり……勝負あり。にゃん」


撃ち終えた拳銃を捨て、さらに2丁の拳銃を両手に構えるココロちゃん。

ココロちゃんの傷は腕を掠めた程度。拳銃を撃つのに何の支障もない。


対する俺の太刀は、ココロちゃんの足元にあり。

手元に残る小太刀は、先ほどの弾き返しにより刃が欠けていた。


「うおー。さすがはココロさん」

「相変わらず早すぎてよく分かんねーが……とにかくすげーぜ」

「ざっこ。やっぱ刀なんて相手になんねーわな」


……絶体絶命。


これがココロちゃんの実力。天才銃マスターの力。

奈美を破ったというのはフロックではないわけだ。


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