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13.居合い斬り


自らの銃弾に撃ち抜かれ、苦痛に顔を歪める4名の男たち。


たかが肩を撃ち抜いただけの傷。

致命傷には程遠い。

が……もはや連中は戦力にあらず。


「ま、まさか狙って弾き返したってーのか……」


無傷なはずの者もふくめて、その銃を持つ手が震えていた。


「もう忘れたか? 超・天才剣士と名乗ったはずだが?」


俺に銃を撃つならば、自身に銃弾が跳ね返る。

その事実を見せられては、もう発砲することはできない。


血を流し立ちすくむ連中の元まで。

憲伸はゆっくり歩み寄る。

すでにそこは太刀の射程距離。


これにて勝負あり。である。


「てってめー。これが見えねーか?」


わめく声に顔を向けるは、左側面。後方。

元々が俺のタイマン相手である槍を構えた男。


卑怯にも横からちょっかいかける連中を相手していたため、その存在を忘れていた。


槍男を叩かねば、この立ち合い。

勝負は終わらない。


「ぶっ、ぶっ殺すぞ」


槍を投げ捨て、懐から取り出す鉄の筒。


貴族クラブの面々が手にする長い銃とは異なる、手の平サイズの銃。

ハンドガン。拳銃とでも呼ぶべきか。


あのような小型の銃。

おそらく威力も、射程も、大したものではないだろう。


より威力の、射程のある小銃を相手に勝利した今。

全く脅威にあらず。悪あがきにしかすぎない存在。

しかし──


「へっ。こっからじゃあ、ゴミを守れねーだろ?」


あろうことか、槍男が向ける銃口。

その先はゴミィへと向けられていた。


当初はゴミィの元で銃弾を斬り防いでいた憲伸。

しかし、今は貴族クラブを切り捨てるため。

ゴミィの元を離れてしまっていた。


槍男の位置は、ゴミィを直接狙うことが可能な位置。

そして、憲伸の立ち位置からでは、ゴミィを庇うことは不可能である。


「おらおら。刀を捨てろやー。ゴミをぶっ殺すぞ」


だからといって、本当にゴミィを撃ってどうするという?

ゴミィを庇い身動きできない俺を撃つことに、意味がある。


「ゴミィを撃てば、貴様が死ぬだけだぞ?」


連中が俺と対等に渡りあえたのも、人質あってこそ。

人質という枷がなくなったのなら、あとは俺の独壇場。

連中の敗北は確定する。


稚拙な恫喝。

見せかけだけのハッタリ。

従う理由は皆無。


となれば、憲伸は走り出す。

向かうは真っ直ぐ槍男の元。


「てってめー?! ゴミを見捨てるつもりか?」


見捨てるのではない。

冷徹な計算の結果。

もっとも助かる確率が高いからこそ、走るのだ。


「ああ、そうかい……どうせハッタリだと思ってんだろ? でもよお」


槍男の顔は狂気に染まっていた。


「貴族なんてよお、悪どくなけりゃ生きてけねーのよ。なめられたら終わりなわけ。どうせ終わるならさあ」


10人もの貴族を集めて、最新武器である銃までをも持ち出したのだ。

それが、たかが1人の留学生に敗れたとあっては、槍男の権威は地に落ちる。

生き馬の目を抜く貴族社会で生きていくことは、2度と叶わない。


「ゴミだけでも殺してやんよおおおおお! ざまあああ!」


槍男まであと10メートル。

槍男は俺に目を背け、ゴミィへ銃口を向けていた。


貴族の意地か……


仮にここでゴミィに発砲した場合。

槍男の死は確定する。


無垢な少女を殺したとあっては、菩薩の精神を持つ俺であっても手加減は不可能。


俺に発砲するなり、降参するなりすれば、命だけは助かったものを……

死を賭してまで、悪事を行う、ゴミィを狙うという。

クズなりの矜持。クズとして見上げた根性。


槍男を侮ったつもりはないが……


俺に出来るのは、一刻も早く。

奴が発砲する前に、奴をたたき斬れるよう走ること。

そして、奴が狙いを外すよう、祈るだけだ。


その時。

グラウンドに1人の影が乱入する。


「やめてください。子供に銃を向けるなんて」


木霊する凛とした女性の声。


ゴミィを庇い、銃口の前に立つのは──


撫子か?


誰の目にも目立つグランド中央。

ドンパチ立ち合いを行うのだから、当然、撫子の目に止まってもおかしくはない。


だが、撫子。

正義心か義侠心か知らないが、うかつに飛び出すんじゃあない。


音速に近い速度で撃ちだされる弾丸。

俺のような超・天才でもなければ、かわすこともできず、撃ち殺されるだけだ。


ダーン


そんな乱入者に関係なく、槍男の銃口が火を吹き。


「超・天才流剣術。サイレンス(みね)・スラッシュ(打ち)


憲伸の刀が槍男の首筋を打ち砕き意識を断つも──わずかに一呼吸遅れ。


拳銃を発した銃弾は、真っ直ぐゴミィへと。

ゴミィを庇うよう立ち塞がる撫子の身体へ吸い込まれ。


カキーン


切り払われた。


「撫子流剣術。居合い斬り。です」


なんだと? 

まさか、銃弾を斬り払ったというのか?

こんな泥棒野郎の小娘が?


「ふう。間に合って良かったです。憲伸さん」


にっこり笑顔を向ける撫子。


しかも、今の抜き打ち。

俺の目には、残像だけが残っていた。


つまり……超・天才剣士である俺の目にも止まらぬ、超高速の斬撃。

それを放ったのが、たかが高校生のアホっぽい小娘だと。

そういうことなのか?


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