11.集団暴行、リンチ
グランドで対峙するは、貴族クラブ10名。
卑怯にも1対1の決闘をいつわり、周囲から銃を発砲する。
「お、おまえ。いったい」
「まさか、銃弾を斬った?」
だが、そのような幼稚な奸計。
通用するのは、通常の相手と対峙した場合のみ。
「何が銃か? トロすぎて欠伸がでる」
超・天才剣士を相手に通用するものではない。
「や、やろう」
慌てたように、別の貴族が発砲するも。
ダーン
銃弾は憲伸の脇をかすめ、飛び去っていく。
なるほど。
確かに優れた武器なのだろう。
発砲した男までの距離は、約50メートル。
これほど距離があるにも、当たれば致命となる一撃を届かせる。
弓の達人でもなければ、難しい所業。
それを、ずぶの素人が指先を動かすだけで成すというのだから、大したものだ。
もっとも、銃とて弓と同じ。
距離が離れるにつれ命中精度は落ちる。
今のように射手が慌てた状態であれば、なおさらだ。
ダーン
続く発砲音に、憲伸の剣閃が閃いた。
カキーン
胸を直撃する軌道で迫る銃弾は。
はるか中空へと、弾き飛び去る。
そして、距離が離れるにつれ、威力も速度も落ちるのもまた同じ。
「超・天才流剣術に同じ技は通用しない」
確かに対処の難しい武器。
それでも、すでに4度の発砲。
超・天才剣士が見切るに十分。
もはや勝負は決した。
……はずなのだが……
「へへ。前もいたよな」
「ああ。銃弾を剣で弾き返した奴」
「ああ。あの生意気な留学生か」
ダーン
続く発砲音。
カキーン
ほう?
以前にも銃弾を弾き返した者がいたと。
それは聞き捨てならぬ発言。
周囲の者には、俺が簡単に弾き返している。
そう見えるかもしれないが……実際は至難の業。
超・天才剣士だからこそ成せる業。
仮に成す者がいたとするなら……奈美だろう。
あまり言いたくはないが、奴も天才。
この俺に土を付けるという偉業を幾度も成した女。
ダーン
カキーン
留学生に敵意を向ける。
銃を持つ
集団で1人を追い詰める。
これで答えはでた。
やはり連中が。
貴族クラブが奈美に怪我を負わせた犯人。
ダーン
カキーン
しかし、奈美も海外で気がぬけたか?
立ち合いで傷を負ったところを、集団で襲われたと聞く。
多少の負傷があろうが、この程度の連中。
この程度の攻撃に敗北するなど、恥さらしも良いところ。
「おい。前と同じや」
「ああ。分かってる」
「いっせいにいくぜ」
何やら互いに相談する貴族クラブ。
何やら作戦があるようだ。
そして、その作戦とやらに奈美は敗れたのだろう。
だとするのなら。
作戦の実施まで待つのが筋というもの。
俺がわざわざ英下衆国まで来たのは、連中を倒すためだけではない。
完膚鳴きまで叩き潰し、叩き折り、生まれてきたことを後悔する。
連中を粉々にすりつぶし、2度と手出しできないようするためだ。
超・天才剣士に課されたハードルは高い。
連中に作戦があるというのなら。
受け止め、粉砕しなければならないのが超・天才の定め。
「おら。いくぞ」
「全員で一斉に射撃すっぞ」
「おうよ」
弾込めを終えた貴族クラブの連中。
総勢6名が並んで銃を構える。
俺を身動きしない木偶人形とでも思っているのか?
たかが6丁の銃。
いくら一斉に射撃しようが、全てを切り落とす必要はない。
銃口を見れば、射撃方向は読めるのだ。
読めるのなら、動いてよければ良いだけのこと。
「ルール変更。ここからは団体戦とする」
突如。審判が宣言する。
総勢6名の銃口が向かう先。
それは、憲伸から離れた位置で見守るゴミィの姿。
「貴族クラブ6名と……ゴミ2名の団体戦。はじめ!」
安全を期して俺のさらに後方10メートルに立つゴミィ。
だが、銃を前にそのアドバンテージに意味はない。
「アホな留学生は無視や」
「いっせいにゴミを狙うぜ」
「わかったぜ」
「おらーゴミを守らんと死ぬぜー」
ダーンダーン
ダーンダーン
ダーンダーン
6丁の銃が一斉に火を吹いた。
ゴミィを狙う6発の銃弾。
うち2発は、狙いを外れている。
が、4発はゴミィへの直撃コース。
超・天才剣士であれば回避するに容易い銃弾なれど。
一般人には難しい所業。
ゴミィのような少女であれば、なおさらである。
このままであれば、ゴミィは肉塊。
本物のゴミへと成り果てる。
キーンキーンキーン
瞬時に射線上へと立ちはだかる憲伸。
ゴミィを狙う3発の銃弾を斬り払う。
が。
ドスッ
うち。1発が憲伸の太ももに命中。
血を流していた。
「ぎゃはー」
「やっぱ同じやん」
「留学生とかアホばっかや」
「前の女もゴミをかばって何もできんかったし」
「あとは前と同じや」
「動けなくなるまで撃つだけや」
……なるほど。
どうりで……奈美が敗れたわけだ。
太ももから流れ落ちる血。
いくら超・天才剣士といえど。
高速で飛来する小さな銃弾。
同時に対応できるのは、せいぜい3発が限度。
痛む足を引きずり、ゴミィを守るよう憲伸は位置取る。
「あうう……だめ。ケンシン。逃げるの」
あのアホは、粗暴に見えて甘いところがある。
年柄年中、俺の頭を殴る暴力女ではあるが……
案外、心優しいところも、あったりなかったりする。
だからだろう。
6丁の銃を前に。
怪我を負った身体でゴミィを守りながら、連中を退治しようとしたのだろうが……
それは無理な話である。
「うひひ。この前の生意気な女」
「50発くらいで力尽きたけど」
「おめーは何発まで持つかなあ」
おしゃべりを続けながらも、弾込めを続ける貴族クラブの連中。
脚を負傷した今。
次弾発射までの間、一息に距離を詰め斬り捨てる。
それは叶わぬ理想。
ならば……やることは1つ。
太刀を手に構え立つ。
この場で全ての銃弾を斬り払う。それだけだ。




