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10.校庭、バレット・カット


「ああ?」

「誰よ。おめー?」


自身に向けられる視線の中。

憲伸は床からノートを拾い上げ、ただ悠然と3人に相対する。


「超・天才剣士。憲伸」


異国の地で必至に講義を受けるゴミィ。

その邪魔をするとは、気に入らない。


「アホや。自分で自分を天才って」

「しかも、超だぜ? 超アホやん」

「あーお前もしかして新しい留学生か?」


アホは貴様らだ。

超・天才剣士である俺の実力を見抜く事すらできず、愚弄するなど。

ここが教室でなければ、貴様らは死んでいるぞ?


「アホなおめーに教えてやると、俺ら貴族クラブだぜ」

「貴族クラブに歯向かったら、どうなるか分かってるやろな」

「少しは頭つかえっての」


自身の命の危機だというのに、ピーチクさえずるのを止めない邪魔な口。


「少し静かにしてもらえないか? 講義の邪魔だ」


そんな3人に構わず、講師の講義は何事もなく続けられ。


「えー自由変数が独立変数でしてラムダ計算に応用するとー」


周囲の学生たちは、恐れるようにチラチラこちらを伺うのみ。


「ぶはは。講義って、俺ら何も邪魔してねーじゃん?」

「邪魔してるのは、このゴミやろ」


チンピラ学生は、座るゴミィの頭を上からつかみ取り。


「くっせー臭いをバラマキやがってよー。このゴミが」


その耳元へ言葉を投げつける。


「っうう」


ゴミィの目に浮かぶのは涙。

衆目の前で自身を臭いだゴミだと蔑まれたのだ。

可憐な少女を相手に、行って良い行為ではない。


パシーン


だから憲伸は。

手にするノートで男の腕を叩きつける。


「なっ。なにしやがる!」


腕をはたかれ、ゴミィを抑える男が弾かれたように後ずさる。


「彼女はゴミではない。ゴミィだ。言葉すらまともに喋れないか?」


座るゴミィの腕を引き、自身の背後にゴミィをかくまい立たせる。


「てんめー。ゴミはゴミやろ」


腕をおさえたチンピラ男がわめきたてる。


「ゴミとは不用品。使い道のない物。そして、ゴミィは俺の大事な友人。ゴミでも不用品でもない」


背後に寄り添うゴミィ。

その手が憲伸の裾を強く握りしめる。


「今。この教室においてのゴミは、お前たちだ。消え失せろ」


一喝。これが最後通告。


「へっ。留学生が生いいやがって」

「英下衆に寄生するゴミの分際で」

「おもしれー。おめー次の講義。表へ出ろや」

「逃げたらどうなるか分かってるだろうな」


一丁前に負け惜しみを述べ、チンピラ学生3人は教室を後にする。


「ケンシン。ありがとう。でも……」


裾をつかんだまま、ゴミィが顔を見上げる。


「礼を言うのはまだ早い」


チンピラ連中はまだ諦めてなどいない。

教室での騒ぎを避けたにすぎないのだ。


誰はばかることのない場所で。

グラウンドで憲伸を叩きのめそうというだけの話。


「ゴミィ。あの連中。貴族クラブとは何だ?」


「貴族の子供たちが集まるクラブ……反抗したら駄目なの」


英下衆貴族は支配階級。

その子息ばかりが集まるならば、講師が何も言えないのも無理はない。


「ケンシン……どうするの?」


もちろん決まっている。


可憐な少女であるゴミィに無礼を働く極悪非道な唾棄すべき連中。

このまま見逃そうはずがない。


「半殺しだ」


さすがに殺したのでは、留学が台無しとなる。

残念だが、半殺しで勘弁してやるほかない。



英下衆大学のグラウンド。

中央で相対するは、俺とゴミィ。

そして……チンピラ学生が10人。


「へっ。アホな留学生が」

「よく逃げずに来たもんだ」

「どうせ逃げても、逃げられないけどさ」

「俺ら貴族クラブを敵に回したんだからよお」


どうやらお仲間を呼び集めたようである。


ゴミはいくら集まろうがゴミである。

そもそもが、1人を相手に10人も集めるなど。

自ら自分をゴミだと喧伝しているようなもの。


いちいちお仲間を探す手間がはぶけたというもの。

ゴミはまとめて掃除するに限る。


「ケンシン……逃げたほうがよいの。逃げるの」


俺の背後。

不安げに俺の裾を引っ張るゴミィ。


わざわざ危険なグラウンドに連れてこなくとも。

そう思うかもしれないが、相手は複数。


1人。別の場所に放置する方がよほど危険。

今。一番安全な場所は俺の背後である。


「心配無用。応援でもしていてくれ」


ゴミィの手を引き離し、集まるチンピラ学生の元まで。


「10秒で終わらせる。まとめてかかってこい」


片手を手招き。チンピラ学生を挑発するも。


「何か勘違いしてねーか」

「俺ら気高い貴族クラブが集団で1人をリンチするとか」

「これは課外訓練やから勝負は1対1の立ち合いや」

「そうでねーとグランドの使用許可おりねーからな」


ほう? 貴族クラブなど。

虚栄心丸出しの命名をするには、案外まともな反応。


わざわざ講師の許可までとったという。


確かに、グラウンドを覗く校舎。

その壁面の窓からは、多くの学生。

そして、講師までもが顔を見せ、グラウンドを見守っていた。


ゴミィを不当に虐待する不当な輩。

そして、ことあるごとに留学生を馬鹿にするその言動。

こいつらが奈美をリンチした連中かと思ったが……


英下衆貴族としての矜持が、わずかに残っていたか。


衆目の目が集まる中。

貴族クラブに歯向かう男を叩きのめす。

示威効果でもって、貴族クラブの支配力を高めようというのだろう。


だが、それは完全なる逆効果。


「おめーの相手は俺だよ」


1人。前に進み出るは、ゴミィの頭をつかんでいた男。

今。奴のその両手には大きな槍が握られていた。


「俺は代々貴族の家系。ガキの頃から騎士訓練を受けてるんだぜ」


英下衆国といえば、騎士の国。

英下衆貴族にとって、騎士訓練は必須なのだろう。


もっとも、雑魚がいくら訓練を積もうが、超・天才剣士には敵わない。


貴族クラブを名乗る傲岸不遜な連中。

今日。衆目の前で、ただ1人の前に敗れ去り、解体。解散となる。


超・天才剣士に歯向かったが故の運命。

天にツバする自身の間抜けさを、せいぜい後で反省すると良い。


「俺が審判するぜ。どちらも正々堂々やれよ」


貴族クラブの1人が前に進み出て、審判を名乗っていた。

審判といっても、相手の身内。

まともな裁定は望むべくもないが……問題ない


「超・天才剣士が憲伸。参る」


一礼。

腰に差す刀を抜き放ち、槍を構える男へと歩み寄る。


子供の頃から訓練していたというのは、本当なのだろう。

槍を構える姿は、わりかし様になっている。


もっとも、しょせんは貴族のおままごと。

構えに覇気がない。オーラがない。

強者は、ただ存在するだけで。

歩むだけでも圧倒的オーラを醸し出すもの。


この程度の相手。

斬り倒すのに、1秒ですら長すぎる。


判定となるほど、勝負がもつれることはありえない。

審判などあってもなくても同じである。


だが、槍男は彼我の実力差が分からないのか。

自身の命が風前の灯火だというのに。

槍を構える顔に、いやらしい笑みを浮かべていた。


瞬間。直感。

超・天才剣士だけが成し得る、天の閃き。神の啓示。


憲伸は、目の前で相対する槍男から目を離し。

背後に位置する貴族クラブの列へと視線を走らせた。


整列。余裕の笑みで俺たちを見つめる貴族クラブの連中。

これから仲間である槍男が、ぶちのめされるというのに。


まるで勝負など存在しないように、弛緩しきったその空気。

すでに勝負が決したかのような、その空気。


その貴族クラブの列の中。

1人の男が手にする、鉄の筒に目が止まる。


構える筒の長さは130センチほど。

筒の先端は、ピタリ憲伸に向けられ。

筒を支える右手の人差し指が、わずかに動かされた。


横っ飛びに地を転がる。


ダーン


その脇を一筋の弾丸がかすめ飛んでいた。


「お?」

「まじかよ」

「外すなよなあ」


情報を仕入れておいて助かった。

英下衆国が新たに開発したという武器。


「銃か……」


人差し指をわずかに動かす。

それだけで、はるか離れた先の物を破壊する。


「おお? おめー留学生のくせに、銃を知ってるのか?」

「へっ。これ1丁で家が建つ金額だぜ」


素人の子供ですら、大の大人を容易く倒すことができるという。

庶民では手に入らないであろう最新武器。


「1対1の戦いではなかったか?」


貴族クラブを名乗る金持ち連中であれば。

所持して当然。持ってしかるべき武器。


「へ? 1対1やん」

「俺ら誰も動いてないし」

「こんな距離あるのに、どうしようもなくね?」

「何、言い掛かりつけとんねん」

「おめーの相手はヤリオだけやろ」


そう言い放つも、銃を打ち終えた男は銃の後部を開き、排莢。

新たな弾丸を込め始めていた。


「不正はない。試合続行だ」


当然。審判は何事もなかったかのように続行を指示する。


銃を構える連中との距離は、50メートルはあるのだ。

離れた校舎からでは、いきなり俺が横っ飛びに転げたとしか見えていないだろう。

銃声は聞こえているだろうが、銃の存在を知らない者も多い。

いくらでも、誤魔化しは効くというわけか。


何より、それ以上に。

複数で一人を襲い。銃を使い。

それでも、講師も誰にも注意されることがない。

構内では、誰も貴族クラブに意見することができない。

その事実こそが、貴族クラブの力を示す一番のデモンストレーション。


「こーいう馬鹿が出て来てくれるとありがたいわ」

「そうそう。いい暇つぶしや」

「まーた。俺らの名が上がるやん」

「んじゃ、次は俺が撃つわ」


別の男が銃を持ち上げる。


貴族といってもピンからキリまで。

貴族クラブの全員が銃を所持しているわけではない。


それも当然。銃1丁で家が建つ金額だと言った。

そして、貴族クラブの列で銃を持つ人間は6名。

10対1といえど、俺が注意するべきは、銃を持つ6名のみ。


「まてや。次ははずさねーっての」


先ほど憲伸に向けて発砲した男が、再び銃を構える。

発砲から10秒が経過。


銃の装弾数は1発。

発砲した後は、弾を込めねば次弾は発砲できない。

弾込めに要する時間は、おおよそ10秒。

つまり、10秒に1回しか銃を撃つことはできない。


そして、何より大事なことは──


横跳びから立ち上がり、憲伸は刀を眼前に構え直す。


それは、初弾で俺を仕留められなかったこと。


「へっ。今度こそ……しねやあああー」


ダーン


発砲。轟音。

飛び出す弾丸。

遅れて排煙。


渡英の前。

映像で繰り返し確認した銃の挙動のとおり。

そして、今。

眼前で確認した実際の挙動をあわせれば。


「超・天才流剣術。バレット(弾丸)カット(斬り払い)


貴族の放つ銃弾が、狙いたがわず憲伸へと直撃する。その寸前。


ズバーン


雷のごとき剣光一閃。

弾丸は弾け飛び、地面へ叩き落とされていた。


「へ? あれ? 当たったはず?」

「うそだろ?」


確かに銃は優れた武器である。

だが、超・天才の前に手の内を見せたのが、貴様らの敗因。

もはや俺に銃は通用しないと知るが良い。


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