出会った少女は無口な子だった
忘年会シーズン。楽しみます
あれ、なんだっけ?記憶が消されるんじゃなかったっけ?なんだよこれ。記憶バリバリ残ってるんですけど。長ったらしい説明してた割には仕事のできない神だなクソ。
そんなことを考えてると登校時間が迫っていることに気づく。学校の玄関は8時35分に児童に施錠さえてしまう。防犯上のためとはいえ、子供達にとっては厄介なシステムだ。
「っべーな、時間ねえじゃん。ええっと今日の時間割は……」
懐かしいなと思い出に浸る間も与えられない時間に目覚めさせた自称神に苛立ちを覚えるもそんなことは考えないようにしようと心の奥深くに誓い、学校へ向かう。
キーンコーンカーンコーン
「ハアハア、な、なんとか間に合った〜」
「ひ、日菜太が遅刻せずに登校してるー!?」
「今日は雹でも降るんじゃねーか!?」
なに言ってんだ?学校に時間内に来るのは当たり前じゃないか。ってそうか。小学校に行ってた時は毎日遅刻してたんだっけ。
「みんな静かに!新学期4月が始まり2日が経ちました!もう6年生という自覚をもってください!」
(先生か〜懐いな)
「イエーーーーイ!最高学年だ〜!!」
先生のありがたい話を無視して騒ぎ始める生徒たち。先生も困った顔をして生徒たちを静かにさせようとしている。
(うるさっ。小学生ってこんな猿みたいに騒ぐのか?……ん?)
動物園の猿小屋みたいな奇声を出している生徒たちを無視して数学の教科書を読んでいる少女が隣の席に座っていた。
名前は神原瑠璃。黒髪ロング、可愛らしい顔をしているが目は死んでいるようにも見えた。伊月はそんな彼女を見てうろ覚えだった記憶がパズルピースを繋げるように徐々に完成へと近づけていく。
(あ〜いたなあ。瑠璃さん。確か2学期の初めに学業不振で自殺したんだっけ。気の毒にな〜。)
「………」
(この子も決められたレールに乗っかって生き死にを繰り返してんだろうな。まあでも話しかけてみるかな)
伊月は小学時代に話したこともない少女に話してみようと思い、口を開く。
「瑠璃さん、隣の席になれたのもなんかの縁だからさ、困ったことがあったらなんでも言ってくれよ」
「…………」
なんもなしかい!無視された!なんで!?小学校でこの子になんかしたっけ!?
すると瑠璃は机の中に手を突っ込み、スケッチブックを取り出す。そしてスケッチブックに何かを書き始めた。
『ありがとう』
瑠璃は笑顔でスケッチブックを伊月の方に向けていた。
「……え?」
「……………」
伊月は考えた。口を開かずスケッチブックに字を書き、その気持ちを伝える。それはまさに……
「瑠璃さん、喋れないのか……?」
「………」
頷く瑠璃に伊月は優しい顔で話をした。
「へ〜それは辛いだろうな。周りはどう思ってるか知らないけど俺は瑠璃さんの会話友達になれたらなって思ってるからさ、これからよろしくな」
「………!」
驚いた表情を見せた瑠璃は顔を教科書で隠し震えている。伊月はその姿を見て、えっ、俺なんか言った?と困惑した。
伊月は本心を話したつもりが何か気に障ったんだろうかと思い出すがわからず終いだった。この出会いが、神原瑠璃と伊月日菜太の決められたレールを動かしていく。