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ルード、1

王宮の一室にある財務室で喧騒の中作業を進める。この仕事は本来年度末に一気に仕事の波が押し寄せては来るものの、毎日毎日忙しいなんてことはないのだが、この国の場合はそうもいかない。

「ルード様、こちらが今年度のガルネシア王国の予算案改訂版4号になります。」

部下のクルドフが3回目の予算改訂案を提出する。今までの3回分はもちろん一度は通ったものだが、王が雇用者の首を飛ばすたびに国の予算が大きく増えたり減ったりするためその都度予算案を改訂しなければならない。メイド程度ならいいのだが今回のトルニエのような高給取りは面倒くさい……。

「ああ。だいぶ浮いたな。」

「トルニエ将軍の解雇によってトルニエ将軍とその部下の人件費分が浮きました。いかが致しましょう。」

「これはトルニエ将軍の親族への補償金なんかは削った分なんだよな?」

「ええ。王の暴挙を隠蔽し国を成り立たせるためとはいえなんだか後ろ暗いですね。いっそのことガルネシア王国の王はこんな人ですと国民に告示した方が良いのではないでしょうか?」

クルドフの意見もわかるが……。

「それはダメだ。あいつが言った通りっていうのが気にくわないが、今のこの世界は不安定なバランスでできている。ガルネシア王国が大国であると言えど人民がついてこなければいつ亡国になるかわからない。人が多く集まっているというだけで他国からの侵略を未然に防いだり、税や資本によって経済が発展したりするのだ。この国が求心力を失うことは絶対に避けなくてはならん。」

「数年前から倹約して予算を繰り越していて余裕がありますので、すぐに潰れるようなことはありませんが、……いっそのことと思っただけです。王宮に勤める者たちはそれで考えが一致していますし、私も取り立てて不具合はないので……。それにしてもあいつって……、トラーノさんのことほんと嫌いですね。」

トラーノの奴、私を庶民の出だからとたまに見下すような目で見ることがある。屈辱だ。俺は一応貴族の生まれだ。階級はそんなに高くはなかったけれどもな。いつか宰相という椅子をあいつからはぎとってやる!

「さて、どうするか……。浮いた分を少し街の発展に使うか。第3区の壁がはがれているところがあっただろ?少しでも国民の助けになればいいのだが……。そういうことだからブロームに言っといて。」

「彼、この前文句言っていましたよ。なんで俺がこんな事しなくちゃならねぇんだよって。」

「あいつ、戦えないから仕方なく大工として取り立ててやったってのに何言ってんだ!ぶんなぐってでもやらせろ。」

「了解しました。こうして国家予算の浮いた分を国民に還元する。きっと国民がギリギリのところでガルネシア王国を離れないのはルード様の慈悲の心のおかげだと思います。」

やはりそう思うか!こいつは昔からいいことを言う!

「そうだな!これで次の宰相は私だな!ああ、この調子で王様はトラーノのやつをクビにするなり、処罰するなりしてくれないかなー。」

「ここで言う分にはかまいませんが、ルード様、気を付けてくださいよ。これからパーティーがあるのでしょう?」

「おっとそうだった。お前も来るか?」

「やめときます。私は怖いので。」

クルドフは手を横に振る。この王宮に勤めるものなら知っている王の傍若無人な態度に多くの奉公人が恐怖心を持っている。「女なら服を置いていけ、男なら遺言を置いていけ」という言葉はもはや王宮内の常識だ。

「俺は直々に招待されたからな。行かざるを得ない。」

「ああ、それは大変ですね。確か前も呼ばれたのに行かなかった大臣が処刑されましたものね。あの時も大規模な予算案の改訂を行ったので覚えています。」

「いや、大丈夫だって。王の言っていることに逆らなければ処罰なんてそうそうないから。何よりパーティーにはイーリス様が来られるからね。何とかして彼女に私を知ってもらわねば!」

「イーリス様は皆が羨む聡明な上にお綺麗で何よりあの王の娘とは思えないほど心が清らかなお方です。ルード様にお似合いですよ。今日こそうまくいくといいですね……。しかし、それこそ王が黙っていないのでは?」

「いや、王は自分の子供にほとんど関心を示さないんだよ。気を付けないといけないのはむしろファレンス様さ!必ず近くにいらっしゃるからな。」

「ああ……、あのお爺さん。イーリス様とレポンス様の教育係でしたか……。そうでした、彼が常に近くにいられるんでしたね。ルード様にとってもJJJですね。」

「バカ!めったなこと言うもんじゃない。そんなことを言っているところをイーリス様に聞かれでもしたらどうするんだ!」

「……すみません。……トラーノさんのときとは大違いですね。」

「それはそうだろ。まあ、でも今日はうまくいく気がするんだよな。ファレンス様も聡明な方だ。私がどんないい人か知っているはずだ。」

「……。」

クルドフは何も言ってこないのでそのまま続ける。

「それに嫡子であるレポンス様はまだ幼く大人がついていないと危険だからファレンス様はレポンス様に付きっきりなはずだ!イーリス様とレポンス様が分かれたときに……、何か話のネタをもっていかねば……。」

「……まあ、頑張ってください。私はここで仕事の続きをしてますので。」

「よろしくな。」


クルドフに手を振ると部屋を後にした。

残りの仕事を頼りになる部下に任せ、ある意味仕事であるパーティー会場に向かう。




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