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誕生2

ケイン

遠くから立ち上る砂煙。開戦から3時間ほど経ったのか……。王宮のテラスから見る砂煙は幅こそ広がっているが近づいてきてはないようだ。ソルナードさんがうまいことやっているのだろう。

本来なら僕が反乱軍の先頭に立って皆を鼓舞しなくてはならないのだが、まさかの王宮内に配属となった。反乱軍のリーダーとは言っても、実質、僕はテンガロさんの操り人形で戦い方なんてわからない。戦っている姿を見せても味方を奮い立たせることはできないし、戦闘において機転の利いた策を思いつけるとも思えない。それなら僕よりも血気盛んな若者に任せたほうが勢いづくだろう。ただ、それでも王宮内に僕を置いておくのはちょっと信用しすぎなんじゃないか?仮にも反乱軍のリーダーだった男だぞ?水面下で組織して表立った動きはほとんどなかったからメンバーもそこまで僕を慕っているわけでもないし、こっち側についたのも彼らの意思、というかイーリス様の説得によるものであり、僕の一声で反乱軍がさらに紅蓮旗団の方に寝返らせることもない。きっとルード様の計らいなのだろう。ありがたいような気まずいような……、戦えないけど前線に出た方が気がまぎれるってものだ。


「ケイン殿!」

伝令係の腕章をかけた男が階下から駆け上がってきた。その飛び跳ねるような歩調からは知らせの内容がいいものであると推測できる。カラスが到達するにはまだ早い気もするが……。


「どうされました?」

「ええ、ソルナード様の懐刀であるザンゾニス隊が敵将の柱の一人であるゴルジオという大男におおきな負傷を与え、前線を押し返すことに成功したらしいです。」

ソルナード様の懐刀か……。相変わらずすごいな。

「開戦初日でですか!」

「ええ、兵力差はいまだ相手のほうが有利ですが、これで今後の戦の展望が少し楽になりそうです。」

「それは何よりです。」

「いえいえ、これもケイン殿がガルネシア王国に味方してくれたおかげですよ。まさに救世主です。」

「……まあ、結果から見れば救世主かもしれませんが、もともとガルネシア王国の敵だったんですからね。」

「何をおっしゃいますか。過去のことは水に流してともにガルネシア王国のために新しい未来を切り開いていこうではありませんか!」

そう簡単に流せるものではない。過去の行いについて後悔する気はまったくない。だから、それでも僕がこちら側についている理由、それはガルネシア王国のためではない。イーリス様を中心とした新しいガルネシア王国のために僕はこちらの味方についたのだ。

「……そうですね。ともに未来を切り開きましょう!」

この国の新しい未来のために僕にできることをしたい、持っている力を使いたいと思っているのは事実だ。昔はいろいろあったが、なんだかんだ言っても死んだ親父のように俺はこの国を愛しているのかもしれない。


「あっ、そうそう。これから私はトラーノ様とファレンス様に報告に参らねばならないのでここで失礼します。できればケイン殿はルード様にこの件をお伝えしていただけませんか?」

一番会いたくない人だ。だけど、行くしかないか。

「……わかりました。」

そういうと伝令係の男は軽い足取りでさらに階段を駆け上っていった。


ルード様に報告か……。それを俺に任せるあたり、俺も相当信用されているんだな。その信頼が逆に俺を苦しめる。いつかルード様には本当のことを話そう。いや、今日とは言わなくても話すならガルネシア王国が過去と決別するために戦っている今しかない。


扉の前で一息つく。見慣れた扉なのに改まると緊張する。ノックにして扉を開ける。

「失礼します。」

「おう、クルドフ、どうした?」

いつもどおりの表情で、軽い調子でそう言った。結局、僕のことを知ってもルード様は何も変わらなかった。

「さっき伝令係の報告で今ガルネシア王国軍が前線を押し返しているらしいですよ。」

「本当か!すごいじゃないか、クルドフ!」

そう、ケインなんてやつはこの世にいない。僕はクルドフ、ガルネシア王国の財務大臣ルード様の部下だ。

「ええ。それと今度ちょっと大事な話があるのですがいいですか。」

「……。おう、なんだ?急ぎじゃないのか?」

「ええ。この戦況がもう少し落ち着いたらで……。」

「そうか」

ルード様は一瞬少し眉をひそめたが、それだけを言った。


嘘にまみれた俺を受け入れくれたルード様にならきっと受け入れてくれるはず……。クルドフなんてやつもこの世にいないことを……。


これは贖罪なんかじゃない。この国を変える最初のトリガーを引いた真の英雄譚だ。


僕がガルネシア王を殺した。



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