トラーノ、6
ソルナードから報告があった。どうやらガルネシア王国にどんどん紅蓮の兵が流れてきているらしい……。ソルナードは王宮の会議室で作戦を立ててはいるものの……、このままではやはり必ずこの王宮まで来るそうだ。
ここで戦うことになる。でも王宮が陥落しなければ問題ない。その後の立て直しはどうとでもなる。王宮を守れるか、それが問題だ……。幸いなことに王宮への進入路は一つ、正面の城門のみ。そこを守りさえすれば我々の勝ちだ。城門をよじ登るという手もあるが城門は高く、梯子を使ったとしてもそうそう登れるものではない。恰好の的になるだけだ。
他にも奴らは補給路がない。長期戦は不可能……。ほどなく撤退するだろう。それがいつかはわからないが……、一週間とソルナードは言っていた。一週間程度ならこちらの補給に関しては問題ない。その準備として王宮には大量の食糧を買いこんである。どこから出た金かはわからないがルードが工面してくれた。本当に頭が下がる。
問題は兵士だ。国防軍だけではこの戦に勝つのは厳しい……。しかし、国民は国家存亡の危機に瀕しているにもかかわらず、立ち上がるどころかトルニエに便乗して反乱軍を組織し始める始末だ。今思うと王の暴虐性を隠すために私やルードがとっていた政策が裏目に出たのだろう。民衆は与えられることに慣れてしまっていて、それができないとなると離れていく。新聞を見る限り確かにこのスライルという男は何かをやってくれそうではある。我々はサービスではない。我々も皆と同じ国民であり、我々のためだけの国家ではないのだ。しかし、城下では反乱軍に入るものと城下から逃げ出す者の2つしかない……。
宰相として私はどうしたらいい。民衆に火をつけることもかなわず、国の危機というのに何もできないでいる……。こんなときに私は……。
「トラーノさん。」
その声の主はイーリス様だった。ソルナードと会話しているときに私の部屋に入ってきたときはびっくりしたが、イーリス様はいつも困っている者のそばに寄り添ってくれる。
「大丈夫ですか。」
こんなただの一言が彼女の優しい心と温かい笑顔に泣きそうになる。そう、国がバラバラになってはいるが彼女は国の象徴であり、それを守ることは宰相としての私の使命だ。こんなところで泣きべそ書いているわけにはいかない。
「大丈夫です。イーリス様、いずれここは戦地になります。戦が始まる前に必ずお逃がしします。あなた様やレポンス様のことは必ず国を挙げてお守りします。」
とにかく彼女たちの安全だけは確保しなくては……。しかし、イーリス様は手の平を突き出すと強い口調で言った。
「いえ、その件ですがやっぱり結構です。」
……へ?
「私もこの場所で戦います。」
イーリス様の目に強い意志を感じる。
「……どうして?」
「私もここで戦います。私は非力ですが王族としてできることがあるはずです。そうでしょう、トラーノさん。私の父はどうだったのかは存じ上げませんが、私はあなたと同じくこの国を思う者。それに私の、王の力が必要な時はあるはずです。私の声が届く場所、届く時があるはずです。それがこの国の姫として私が生まれてきた意味だと思っています。」
「……。」
何も言い返せなかった。
覚悟が足りなかったのは私の方だった。私は何を考えていた?実質何も考えてはいなかったではないか?戦に関しては大事なことが2つあるが、補給と戦術、それはルードとソルナードという頼りになる男たちがいる。なのにいつまでも不安になっているだけで、私にできることはそれ以外にもいっぱいあるのに……。私のすべきことはそうじゃない、彼らが想定していないことで勝つこと、勝つ方法を探すことが私の仕事だ!心配するだけで何もしていない。
そうか、今更になって思う。私がいつもこんな弱気に支配され、自分を信じられなかったから前王に何も言えなかったのか……。
私は誰かを導くだけの器ではなかったのかもしれ……。
「頼りにしていますからね、トラーノさん。」
……。
「ちょっとなに泣いているんですか!」
……頬を熱い何かが滑り落ちる。
こんな私でもまだ戦っていい。私はまだ終わってない!
「失礼します!」
ルードとその部下が入ってきた。
「おや、イーリス様、まだこのようなところに?早くお逃げください。ファレンス様がお待ちですよ。」
「いや、いい。それより要件を教えてくれ。」
私はルードの言葉を遮る。
「えっ、えっ?」
ルードはイーリス様をチラチラ見て戸惑っている。
「いいから!」
「ああ、はい。じゃあ、現状、この戦は戦力的に大変厳しいものがあります。」
「ああ。それで?」
「ですが、もしかしたら反乱軍をこちらの陣営に引き込めるかもしれません」
「何!?」
これはどういうことだ!私が心を切り替えたからか?いや、そんなわけないがこれが本当ならこの戦に勝つ千載一遇の大チャンスだ!
「その話!詳しく聞かせてくれ!」
何にすがってもこの国は守る!




