バルテニー、5
自分でも思い切ったことをしたものだ。
ナートルちゃんと共にこの王立軍事研究施設に訪れたあの日にこれができた。この紙切れ……。今年度の効力はもうなくなったただの紙切れ。
その紙にはこう書かれている。
『この紙を持っている方は下記の期日にクードル研究所にお越しください。売り上げの0.1%を返金します。』
第1号は私がクードル博士の机にあったメモ帳に書いたものだが……。それを、当時は一枚で1%だったか、30枚ほど作成し、売ることで金を得た。
当時、彼らが何かを作るのに際して問題だったのは金だった。研究所に潤沢の資金は当然公務のために使われるため、そこで金策としてこの紙が生まれた。最初の年はこの紙はまったく売れなかった。当然と言えば当然だ。クードル研究所は無名もいいところ。この首都キューレスから遠く離れた小さな町ではクードル博士は評判だが、この街では聞いたこともない。財産のほとんどをこの紙の残りを買うのに費やしてしまった。あの時が一世一代の大勝負だった。その傍らでクードル博士が開発した発明品、ここで作った薬などは足がつきやすいため敢えて売らず、主に農耕具や工具などの便利道具などを販売していた。それが飛ぶように売れた。ガルネシア王国の中心部では数十年以上戦争などはなく土地が荒らされることはなかったため、あらゆる産業が発達していた。しかし、頭のいい人間は基本的に軍に駆り出され、それらを効率化するための道具などはなかった。結局、その年私の懐に帰ってきた金貨は5倍にもなった。
誰に言ったわけでもなくその噂は瞬く間に広まり次の年はその紙は一瞬で完売した。購入者がその紙を金貨200枚などで売るなど経済は爆発した。その噂は当然ガルネシア王国にまで及ぶ……、しかし、研究所と消費者の間に私が入っていることで研究所に足がつくことはなかった。当然、ばれたらただでは済まないのだが、集まった人間が根っからの研究バカたちで軍事に興味がない連中ばかりだった。そして、上司と言うガルネシア王国の軍総司令ソルナード殿は化学に詳しくないらしく、クードル博士のうんちくで何とか乗り切った。研究員という名目でこの施設に来ていた私はしどろもどろになりながらなんとかやり過ごしていくクードル博士を遠巻きに見て笑ったものだ。今ではいい思い出だ。
クードル博士が交渉してきた結果また新たな部門を建設することになった。
私の商売も順調だ。これでガルネシア王国はさらに大きくなるだろう。
この国に対してちょっとでも貢献できたことがうれしい。
研究のロビーでコーヒーを飲んでいると珍しくクードル博士の方から声をかけてきた。
「おい、バルテニー、これを見たか?」
そう言って、テーブルの上に広げたのは新聞だった。
「いえ、これは……」
読んでみるとスライルさんたちがこの国を滅ぼしに来るらしい。この研究所は街のはずれにあるから狙われることもないだろう。
ついに大国ガルネシア王国が存亡の危機だ。
スライル。彼はついに……。そうか……。
コーヒーを一気に飲み干すと急いで妻にここに来るように手紙を書き始めた。