セイナー、5
トルニエ様からこんな手紙が来るなんて……。ようやく、ようやく我々がお役に立てる時が来たようだ。あの日、襲ってくる敵から逃げることしかできず、日々死ぬことにおびえていた私たちを助けてくれたあの日。すべてはあの日から始まった。
族長があわただしい様子で家に転がり込んできた。
「おい、聞いたかセイナー!何でもスライルさんたちが挙兵するって話だぞ!」
かなり息遣いが荒い様子だが、それは走ってきたから……だけではないだろう。気持ちは私と一緒だ。
「知っていますよ。」
静かにうなずく。族長は文字が読めない。その情報源の発行元がこの町だと知ったら驚くだろうか?
「何だ、知っているのか……。じゃあ、じゃあ、どこに攻めるか知っているか?」
「あの大陸随一の超大国、ガルネシア王国ですよ。」
「そうそう!そうだよ!何で私より先に知っているんだ!?」
「だって私が流した噂ですから」
もはや大陸において東と西に存在する大国は不動のもの。私も最初は驚いたが彼らの言うことだと思うと受け入れるのは容易だった。心の奥底から湧き上がるものがあるが今は心を抑えて……。
族長が勝手に部屋に上がってきてどっかりと座り込む。
「セイナー、お前のそれは確かな筋から何だよな!」
この街に流したのがと思っているな?まあ、族長には族長の仕事があるから私の仕事のことは何もいってないし、リアクションとしてはこんなものだろう。
「ええ。それは間違いないです。というかすでに一部では進行始めているようですよ。」
「本当か!?」
「ええ。私もこれから向かいます。」
「そういうことは先に言えよ!わしも準備する。」
「族長は族長なんだからいいですよ。この村のことよろしくお願いします。」
「なんだと!?わしを年寄り扱いするでない!わしがどれほどこの時を……。残るのならお主が残れ!」
「それは無理ですよ。もう侵攻は始まっているんですから。」
「なんじゃと!?」
「すでに数か月前から新聞は発行していますし、日付も決まっています。族長の足じゃ3日後までにガルネシア王国に行けないでしょ。」
「3日後!?そんなの知らんぞ!なんでそんな急なんじゃ!」
「いや、数か月前から決まってましたよ。族長には言わないように街のみんなには言っておきましたが……。」
「セイナー!謀ったな!彼らと共に戦いたいお前の気持ちはわかるがそれにしたって!」
「まあまあ……。族長には騙してでもここに残ってもらいたい理由があるんですよ。」
「おい、何カッコつけているんだ!お前はもういい年したおっさんだし、わしの次にここの長を継ぐのはお前しかいないと思っている。お前はここにいろ!それに娘のことはどうするんだ!」
「村長の件も娘の件も私が帰るまではお願いします。娘には昨日ちゃんと話しておきましたから……。お願いします……。」
深々と頭を下げた。遊びに行くわけではない。この町のことが大切に思っていないなんてこともない。ただ、これだけは……。
「……わかった。長い付き合いだ、これ以上は何も言うまい……。ただ生きて帰って来いよ。」
「もちろんです。孫の顔を見るまで死ねませんから。」
族長の顔がなんだかぼやける。
「わしは行けんが『紅蓮の旗のもとに集いし勇士たちよ!東で落ち合おう!』」
「それいいでしょ。私が考えたんです。」
「ああ。彼らの集大成、成就するといいな。」
ちょうどそこへ近所のおばさんのところに行っていたセレンが帰ってきた。最近ではほとんど会話することもなかったが武装していつもと違う雰囲気の私を見ると顔つきが変わる。
昨日散々話した。なんと声をかけたものか……。ちょっとした沈黙が流れるが、娘は一言だけ言った。
「……いってらっしゃい」
行ってきますでよかったとガルネシア王国に向かう道中何度も思ったものだが、そのときの私も一言だけ言った。
「愛してるよ。」
娘は来年で20歳になる。いい女に育った。
この戦いが終わったら娘と平穏な毎日を送れるだろう。
その為の戦いだと思うと気が引き締まる。
紅蓮の旗を心に掲げて東に向かう。
すべてはスライルさんのために、トルニエさんのために!
そして、この世界の平和のために!




