ガルネシア王、5
イーリス
私はどうやら今のガルネシア王国で一番偉い人らしい。来年には正式に弟レポンスが王位に就くからそれまでの間だけど、私が一番偉い。でもそうは言っても政治はトラーノさんが、財政はルードさんが、戦いはソルナードさんが、王としてのお仕事はファレンス様が亡き父の代わりを務めている。はっきり言って私にやることなんてなくただ偉い人である……。結構嫌な奴だな、私……。
そもそもこの国では政治に女がかかわってはいけないものらしい。昔どこかの国がそれをした女が官僚の男たちを籠絡して国を私物化しようとして滅んだらしい。そんなのその人次第なのにね。どっちにしても皆さんと同じだけの政治の知識はないし、財政のことも、戦いのことなんてもっと知らないから、結局は似たようなことになってしまうかもしれない。
私にできることは政略結婚の道具になることだけかしら……。でも外交もうまくいっているし、世界の情勢を考えても政略結婚しとかないといけないような大きな国なんてない……。この国の姫として生まれた以上……、いいえ、こんな建前いらないわ。私の大好きな国のために役に立ちたい。だけど、私にできることがあまりになさすぎる……。まずは身の回りのことと思って、部屋の掃除や食器洗いなど簡単なことをやってみたら……、召使の人たちにものすごく怒られてしまったし……。私がやってよくて私にできることって何かあるかしら……。
今日も特にやることもなく王宮の廊下を歩く。廊下の端に飾られた花瓶の花が何だか萎れている。このくらいならいいよね?さっそく、花瓶を持って水を汲みに向かう。
その途中で血相を変えて宰相の部屋に駆け込むソルナード総司令の姿を見かけた。何度もお会いしたことがあるけどあんなソルナードさんを見たのは初めてかもしれない。何か相当大きな問題があるに違いない。早速トラーノさんの部屋の前に張り付き、聞き耳を立てる。
「トラーノ様!これを見てください!」
さっそくソルナードさんの大きな声が聞こえる。やはり何かあったみたい。
「……。トルニエというのはあのトルニエか?」
……トルニエ、どこかで聞いた名前だわ。何の人かは忘れてしまったけど……。
「はい、事態が落ち着いたら再び登用しようと思って泳がせておいたのですが……。」
「これがガセネタということはないのか。」
「いえ、その可能性はないかと……。」
「そうか、トルニエは優秀な男だ。必ずここまでくるに違いない。トルニエの軍の規模はどの程度だ?」
「間者の報告だとトルニエのそばには若者が数十人いたらしいですが、それだけではないでしょう。正直現時点ではわかりかねます。ですが、トルニエは一度やると言ったら必ずやる男。こちらもある程度の準備が必要です。」
「総司令としてトルニエはどんな手を打ってくると考えている?」
「それがわかっていれば私も困りません。彼は本当に読めない男でしたから……。」
「王が死にこの国も少しは良い方向へ進んできたのだが……。覚悟を決めなくてはならないのかもしれないな。国軍だけでどうにかなるか?」
「いえ、国境付近で防衛に当たらせますがおそらくそれを抜く自信があるのでしょう。」
「そうか、報告は逐一頼む。なんとしてもトルニエの進行を食い止めよ。」
「……はい」
「どうした?なんだか元気がないようだが?」
「いえ、最近ちょっと良くないことが……」
「どうした?」
「……いえ、何でもないです」
「……そうか。今が正念場だ!頼んだぞ!ソルナード総司令!」
私も男の人たちのこういう無言の信頼みたいなのはちょっと羨ましい。私も男に生まれていたら、きっと国を背負って戦えたのだろう……。それが何だかちょっぴり……。
「あの……」
不意に肩を叩かれる。振り返るとソルナードさんといつも一緒にいる大きい人、ザンゾニスさんが後ろに立っていた。
「わ!」
思わず声を上げるとともに、体重がドアにかかり、扉が開く。トラーノさんとソルナードさんの視線が刺さる。
……。
ちょっとまずいかも……。
聞いてないふりはできない。
サブタイがネタバレになるので「ガルネシア王」と表記しています。




