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ソルナード、5

ガルネシア王が亡くなりこれでようやくトルニエが戻ってこれる。セイナー新聞とやらを見る限り、彼もうまいことやっているようだ。これならすぐに大軍を任せても問題ないだろう。この前ようやく所在が分かったということで登用の打診をしておいた。そろそろ返事が来てもよいころなのだが……。


「お久しぶりです。ソルナードさん。」

あのクードル博士が自分から私のところに来られた。珍しいこともあるものだ。……というより、初めてかもしれない。

「どうされました?」

「ええっと、今日はお話があって来ました。」

でしょうね。そっちに用事がなかったら会おうとすらしようとしない人なのだから。重大な用事なのでしょう。

「それで?」

「はい。新しい部門の設立とそれに伴う人員募集及び採用の許可をいただきたいのです。」

「と言うと?」

「我々化学班の成果だけでは軍事的な貢献が十分ではないと思われます。」

何が言いたいんだ?貢献も何も博士を登用した当初から要求している毒薬が、結局、毒薬らしい毒薬はまだできていないではないか?この前なんか育毛剤なんか持ってきたし……。

「そこで新部門として建設系の研究班を作ることを提案します。それにより行軍における野営や拠点の設立及び罠の設置など、多岐にわたって有効性のある研究開発が行えるものと思われます。」

確かに彼の言う通り、敵を楽に殺す方法と同じくらい味方を死なせない方法と言うのは大事だ。だが、なんでこのタイミングで?私が研究所に行くたびにわざわざ理由をつけて会いたがらなかったこの男がこんな申し出を?

「何か隠していることありません?」

「いえ、別に……。何も隠していることなんてありませんよ。全然ないです。まったく何を言っているのか、まったく分かりませんな。」

怪しい。怪しすぎる。クードル博士の目が泳ぎに泳ぎまくっている。

研究所で何が?成果としては今まで通りなんか惜しいものを作っては送ってくるが、監視員を派遣するか……。


「そんなことより総司令はあの葉巻をもうお止めになったのですね。」

クルドフ博士は不意に言った。そんなことってあなたが始めた話だというのに……。もう完全に黒。研究所への抜き打ちチェックは決定だ。

あとは適当に話を合わせて帰ったところで監査部隊を組織するか。

「それがどうかしましたか?」

「いやあ、あの葉巻は有害物質があったんですよ。微量でしたけどね。私は昔から煙草の類が大嫌いでして、何か弱点はないかと分析していたんですよ。そしたら煙草には有害な物質が含まれていることがわかったんですよ。」

どういうことだ?母から代々受け継いできたんだぞ。

「具体的にはどんな症状が?」

致死性のものということはないだろう。王は長いこと吸っていたんだし……。

「葉巻は呼吸器系に異常をきたすらしいです。マウス実験をしたところ老化が早まり、寿命が縮まります。まあ、わずかなのでそんなに気にすることはないんですけどね。ですが、今では研究所内は全面禁煙ですよ!ハッハッハ!」

何笑ってんだ、このおっさん。

「そうですか……。でも、もう必要ないので大丈夫です。」

王が亡くなったのが葉巻のせいなのかと思ったがどうやら関係ないようだ……。それにもう王はいないのだからあの葉巻は必要ない。というかその有害物質とやらを抽出して一つにすれば毒薬なんか簡単に作れるんじゃないか?今はもうなんでこんなに博士が上機嫌なのかの方が気になってしょうがない。

「いやあ、やめたんですか?それは本当によかった。普通の葉巻はそんな感じなのですが、あの葉巻は特別でしてね。あの煙を吸ったマウスは普通の煙草では見られないような、おそらく幻覚症状?が見えて挙動不審になったり、錯乱状態になったりするんですよ。大きな段差があるのに突っ込んで行ったりね。また、吸った直後は相当気持ちよくなれるらしいですが、依存性も高く、しばらく与えないと相当ストレスがたまるようで共食いみたいなことをしているマウスもいましたよ。まあ、私はマウスじゃないので確かなことはわかりませんがね、ハッハッハ!」

「なん……だっ……て……。」

「ええ。総司令が葉巻をお止めになったようで本当によかったですよ。見たところ総司令にはどうやらそのやばい症状も出ていないようですし、問題を起こす前で本当に良かった良かった。まあ、私は総司令じゃないので確かなことはわかりませんがね。ハッハッハ!」

……ちょっと待て。

……全然よくない。


「すまない。クードル博士。今日はもう帰ってくれないか?」

一人にしてくれ……。

「ええ!?では先ほどの件は?」

「好きなようにしてかまわないから頼む。今日はもう帰ってくれ。」

「……わかりました。それでは失礼します。あっ、許可をいただきありがとうございます。お体お大事に」

そう言うとクードル博士は私の部屋を出て行った。


ちょっと頭の中を冷静にしたい……。まさか……、あの葉巻にそんなものが……。

私はとんでもないものを王に渡していたのか……。

これからどうしたら……。


「失礼します。」

威勢よく部屋に入ってきたのはザンゾニスだった。私の心から信頼できる部下ではあるが……、それでも頭と気持ちの整理がある程度できるまで一人にしてほしい。

「すまないが今は一人にしてほしい。」

「わかりました。トルニエ殿からお手紙が来ていましたので机に置いておきます。」

トルニエから!

急いで封を開けると中には一枚の便箋がありこう書かれていた。

『近いうちにガルネシア王国を攻め滅ぼすのでよろしくね♡  トルニエ』


予想していなかった内容に全身の力が抜けていく……。

あっちもこっちも次から次へと……。

私はどうしたらいい?

誰に何を言えばいいんだ?


……。

少なくともトルニエの件はトラーノ様に報告する必要があるか……。


自分が自分でなくなるような。

この体が本当に自分の意思で動いているのかわからない。

そんな感覚に見舞われながら重い足取りでトラーノ様のもとへ向かう。





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